夫が十年間「出張」と言い張った先に、もうひとつの家庭がありました
作者: 秋月 もみじ
あらすじ
月の半分が空席の執務机を、十年間おかしいと思わなかった。夫は王都出張だと言った。辺境の領地経営は妻の仕事だと、誰も疑わなかった。堤防を直し、帳簿をつけ、領民に慕われ、子供を育てた。それが当たり前の日常だった。ある日、王都で見つけたのは夫の別邸。庭には見知らぬ女性と、夫によく似た子供がいた。その女性の指には、五年前に夫が無くしたと言った指輪が光っていた。三秒だけ目を閉じた。目を開けた時、もう泣く気はなかった。帰路の馬車の中で、侍女にひとつだけ告げた。帰ったら引き継ぎ資料を作る、と。三ヶ月かけて仕上げた資料は三百二十四頁。十年分の仕事を紙に落とし込んで、全部返した。一つ残らず。領地を去る日、手元に残ったのは帳簿の写しと、隣国の技師から届いた五年分の書簡だけだった。あの技師は、一度も余計なことを言わなかった。約束の時間に遅れたこともなかった。ただ書簡の末尾にだけ、不器用な一文を添えていた。夫のいない領地で何が起きるのか。帳簿に残された数字は何を語るのか。五年間黙っていた技師は、なぜ黙っていたのか。返したものの重さを、あの人はまだ知らない。
目次
第1章
第2章
第3章
第4章
第5章
番外編
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