その指輪、彼女に差し上げてください
作者: 秋月 もみじ
あらすじ
私に贈られたはずの指輪は、いつも別の指の上で光っていた。フィオナは婚約者の家を、誰にも気づかれぬまま支えてきた。贈り物の宛名は、なぜか彼女を素通りする。面倒事の宛名だけは、いつも正確に届く。婚約者は優しい。ただ、隣の席も、贈り物も、いつも乳姉妹が先だった。怒鳴ったわけではない。泣いたわけでもない。ある日フィオナは、母の形見にまで手を伸ばされて、静かに気づく。私は、ただ疲れたのだ。この物語の鍵は、彼女が長年つけ続けた一冊の控えにある。誰にも頼まれず、ただ癖で書き留めてきた記録。それが、思いがけない形で動き出す。軽んじられた働きは、抜けて初めて、その穴の大きさで知られていく。そして、彼女の手元の温度に気づいていた人が、一人だけいた。名前を持たない空気として生きてきた令嬢は、その席を降りる。降りた先で、彼女は何を選ぶのだろう。
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