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十年尽くした妻が消えた朝、公爵家は紅茶の淹れ方すら分からなかった

作者: 九葉(くずは)

あらすじ

毎朝、誰より早く目を覚ます。紅茶の銘柄も、席順も、領地の帳簿も。十年間、すべてをひとりで回してきた。夫は一度も感謝の言葉を口にしなかった。義母には当然だと言われ続けた。手首の結い糸は、とうに白く褪せていた。この世界では、夫婦の絆が糸の色に映る。鮮やかなら健全。褪せれば、壊れた証。ロゼッタはその白い糸を長袖で隠し続けた。ある朝、書き置き一枚を残して屋敷を出た。向かった先は、祖母が仕立て屋を営んだ港町。待っていたのは、潮風と寡黙な幼馴染の船乗り。彼は何も聞かず、黙ってマントをかけた。翌朝から毎日、玄関の前に薪が置かれている。理由は一度も告げられない。残された公爵家では朝食の紅茶すら出せない。商人たちは一人、また一人と取引を断り始める。崩れていくのは、屋敷だけではない。祖母の鋏を手に取り、もう一度針を持つ。自分の名前で、自分の仕事を始めるために。白い糸を隠す日々は、もう終わった。だが元夫は気づき始めている。失ったものの正体に。その答えを知るのは、海風だけだ。

目次

第1章
第2章
第3章
第4章