軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五話 ミーア姫、絶好調!

さて……、ミーアが図書室で受けた心の傷を癒しているうちに、季節はめぐり春がやってきた。

新学期になり、ミーアは無事に二年生になった。

今年の冬には十四歳になるのだ。

「いつまでも、いもしないお化けに怯えて、一人で寝られないとかありえませんわ!」

などという偉そうな宣言を自らにした後、ミーアは春休みの間ずっとお世話になっていたアンヌのベッドから、自分のベッドに進級した。

……断じて、新学期が始まり、クロエをはじめ友人たちが戻ってきて、怖いのがちょっぴり薄れたから、などという単純な理由ではない。ミーアの名誉のために一言書き添えておこう。

そうして、クロエらとの再会もほどほどにミーアの新学期が始まった。

「それでは、この紋章が読み解ける方はどなたか……いかがですか? ミーア殿下」

教室の前に据え付けられた大きな 白石板(ホワイトボード) 。そこに、赤い特殊な 樹液(ペイント) で描かれた紋章を見上げて、ミーアは颯爽と立ち上がった。

「ふふん、そんなの簡単ですわ!」

教室中の視線を一身に集めつつ、ミーアは紋章の前に悠然と歩み寄る。

現在、ミーアたちのクラスでは『紋章学』の授業を行っていた。

紋章学とは、その名の通り、紋章に込められた意味を読み解く授業である。

特に貴族の子女の場合、相手の家紋からその血筋、家々の結びつきを読み解けることは必須のスキルといえる。

「ふむ……」

ミーアは描かれた紋章の前に立ち、じっと見つめて、その意味を読み取っていく。

紋章を描くのには法則がある。

ある貴族の男子と貴族の女子が結婚する場合、基本的には家紋を半分ずつ組み合わせたような新しい家紋を継承することになるのである。

例えばの話、ミーアとアベルが結婚した場合、ティアムーンの紋章である「三日月」とレムノ王家の紋章である「 戦狼(いくさおおかみ) 」とを合わせた紋章になるのだ。

つまり、各貴族の家に伝わる紋章を知っていれば、相手の家同士の繋がりを知ることができるのである。

……ちなみに、例えは、あくまでも”例え”である。

別にミーアが暇な時に、自室の鏡にちょこちょこと落書きして、

「ああ、アベル王子と結婚すると、こんな紋章になるのですわね……月に吠える狼、相性ぴったりですわ!」

などと、一人でうっとりしていた……なんてことはない。大きな誤解、あらぬ疑いというものである。

ちなみに、前時間軸ではサンクランドの紋章である太陽とティアムーンの月とを組み合わせて、

「ああ、シオン王子と……以下略」

などと、一人でうっとりしていた……なんていうこともない。ミーアに対しての悪意ある 醜聞(フェイクニュース) である!

「ふむ、この家紋の右側は、ガーラント伯爵家、左下はサンクランドの門閥貴族ウェスレー侯爵、右上は……」

ミーアの答えに、初老の女教師は満足げに頷いた。

「正解です。さすがミーア殿下。よく復習されていますね」

いつも厳しい教師の手放しの称賛に、ミーアは胸を張って、渾身のドヤ顔を見せる。

「ふふん、このぐらいわたくしにかかれば簡単ですわ」

新学期、ミーアは順調な滑り出しを見せていた……意外なことだが。

それもこれも、すべてはアンヌのお手柄だった。

あの日、図書室で深い深い心の傷を負ったミーアは、一人では眠れなくなった。

アンヌに添い寝してもらうようにしたまではよかったのだが……、それでもなかなか眠れないミーアである。

それを見たアンヌは一計を案じた。

「ミーアさま、せっかく眠れないのであれば、一年生の授業の復習をするのはどうでしょうか?」

そうして、アンヌは子守歌の代わりに授業で習った知識を一つ一つ、ミーアに語って聞かせたのだ。

テストで苦労していたミーアの負担を少しでも減らそうというアンヌの思い付きだったが、これが思いのほか上手くいった。

アンヌが話し始めるとすぐにミーアはコロッと眠りに落ちてしまったのだ。いつでも、アンヌが気が付いた時には、すーすー、気持ちよさそうに寝息を立てていた。

けれど、不思議なことに、ミーアは寝ている間に聞いていた話を、きちんと覚えていたのだ。

≪アンヌ式・睡眠学習法≫が誕生した瞬間である!

そういうわけで、今のミーアは帝国の叡智に相応しい行動ができる体になっていた。

実に全く奇跡である!

クラスメイトの賞賛の視線を感じながら、ミーアは朗らかな笑みを浮かべる。

――ああ、とても気持ちいいですわ。やはり、わたくしはこうでなければいけませんわ。

すっかり調子に乗っている……。

けれど、まぁ、当然のことと言えば当然のことながら……人生はそうそう上手くいかないもので……。

ミーアの心の傷を鮮やかに蘇らせるソレは、昼休みのランチタイムにやってきた。

その日、ミーアは取り巻きの少女たちとともに中庭で昼食をとっていた。

食堂でサンドイッチを作ってもらい、気分はすっかりピクニック。晴れ渡る空は青く、春の日差しはポカポカと、なんとも心地よい。

――ああ、絶好のピクニック日和ですわ。それに、このサンドイッチの塩漬け肉、絶品ですわね。ついつい食べ過ぎてしまいますわ。

などと、ミーアはご機嫌にサンドイッチを食べていたのだが……。

楽しい歓談の時間は、そう長くは続かなかった。

昼休みも半分を過ぎたころ、ミーアの取り巻きの一人、グライリッヒ伯爵家の令嬢、ドーラがおもむろに口を開いたのだ。

「そういえば、ミーアさま、お聞きになりまして?」

サンドイッチを食べることに夢中になっていたミーアは、

「ん? なんの話ですの?」

ドーラの醸し出す、危険な雰囲気に気づけなかった。

「……なんでも、出た、みたいなんです」

声をひそめるドーラに、ミーアは首を傾げた。

「出た、とは? いったいなにがですの?」

ミーアの興味を引こうとするかのように、ドーラはたっぷり溜めてから、

「幽霊……」

恐ろしげな声で言った。

「はぇ?」

ぽかーん、と口を開けるミーアにかまわず、ドーラは話し出した。