軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

百十六話 ササヤキソソノカスモノ

「革命を止める? お兄さまを助けるって……、どういうことですの?」

縛られていた腕をさすりながら、ミーアは言った。

「時間がない。ここから出ながら話すわ。靴を履いて」

とりあえず、リンシャの言うとおりにして、外に出る。と、そこは、薄暗い路地裏だった。

「ここは……」

「地下革命派の拠点の一つよ。この辺はあんまり治安が良くないから、私から離れないで」

「わっ、わかりましたわ。ん? 革命派……?」

とりあえず、うなずきかけたミーアだったが、不意に聞き捨てならない単語が聞こえてきて、思わず眉をひそめた。

「あの、つかぬ事をお聞きしますが、もしかすると、革命派というのは、今、レムノ王国で騒乱を起こしている方たちなんですの?」

リンシャは一瞬黙ってから、

「ええ、彼らの同志よ」

小さくうなずいた。

「私の兄さんはね……、革命派を率いているの」

「率いて? え? あ、あなたのお兄さまが革命組織の 首魁(しゅかい) なんですの?」

ついて行って大丈夫かしら? と不安になるミーアだったが……。

「乗せられてるだけよ。兄さんは、ただ酒場で憂さを晴らすような人だもの。革命の指導者になんか、なれるわけがない」

苦々しく、吐き捨てるように言ってから、彼女は話し始めた。

もともとリンシャの家は没落した貴族だった。彼女の兄は王都で学生をしていたが、家の没落とともに田舎町に行くことを余儀なくされた。

それでも新しい地で職人になったまではよかったが、すぐに仕事の厳しさに音を上げた。

厳しい肉体労働に毎日クタクタに疲れ果てる日々。唯一の楽しみは酒場で愚痴ることだった。

ある日、そんな兄に一人の男が近づいてきた。

「いや、まったく君の言うとおり。このままでは、国は悪くなる一方だ。どうだろう? 同志を募ってみては?」

ジェムと名乗った、とても愛想のいい男の甘い言葉に誘われて、リンシャの兄は革命派の中心人物になった。

生来の口の上手さもあって、彼は徐々に人々の内に組織を築いていった。

成り行きでリンシャも、一応は革命組織の一員ということにはなっているのだけど……。

「組織なんて呼べるものじゃない。ただの不平屋の集まりよ。なのに、ジェムのやつに、みんな乗せられて……」

「……あの、ちょっとよろしいかしら?」

そこまで聞いたところで、ミーアの脳裏に危険を告げる警鐘が鳴り始める。

「どうして、わたくしに、そんな革命組織の中のこととか、話しておられますの?」

そう尋ねると、リンシャはにんまりと怖い笑みを浮かべる。

「ジェムのやつがね、言ってたのよ。あなたは革命組織にとって危険だから、絶対に捕らえろって。これって裏を返せば、あなたは革命を止めて組織を解散させることができる、その力を持ってるってことよね?」

探るように見つめてくるリンシャに、ミーアは誤魔化すように笑い返す。

「お、おほほ、買い被りも甚だしいですわ。こ、こんな子供に何ができるって言うんですの?」

「そう? さっきあいつらに絡まれてる時も随分余裕っぽかったし、今だって落ち着き払ってるじゃない? ただの子供とも思えないんだけど」

「う……」

確かにその通りだった。

過去の革命軍に比較して、あるいは、先日の静海の森の時に比較して……。今の状況は、正直、そこまでミーアを恐れさせるものではなかった。

目の前の少女にしろ、先ほどの少年たちにしろ、その実、ただの不良といった感じで……。

血走った目で自分に刃を突き付けてくる帝国革命軍やら、容赦なくえげつない殺気をたたきつけてくるディオン隊長に比べると、正直、微笑ましくなってくるような連中なので。

――つ、ついつい、気が抜けてしまっておりましたわ。気を引き締めなければ……。

ミーアはキリリ、と表情を整えて、それから改めて考える。

――ジェムという男は馬車でわたくしたちを襲ってきた男の仲間と考えるべきでしょうか?

馬車から落ちたミーアたちがどのあたりにいるのか、予想がつく者は彼らぐらいのものだろう。

――そして、彼らは、わたくしたちの正体に気付いている?

自分に革命を止める方法があるとも思わないのだが、少なくともそのジェムという男は、こちらの正体を知っているような気がした。

なにしろ、ミーアは帝国皇女という身分がなければ、ただの子どもに過ぎないわけで……。

――あとは……、ああ、甘いものが食べたい。

そこで、ミーアはさじを投げた。

もともと、それほど上等ではない頭は、すでに知恵熱で暖まり始めていた。

――氷菓子を所望いたしますわ!

などと、ミーアがアホなことを考え始めた時だった。

「あっ、リンシャ、てめぇっ! 手柄を独り占めするつもりだったのか!?」

怒声が響いた。先ほどの、見張りの少年が戻ってきたのだ。

「くっ……、ずいぶんと早く戻ってきたじゃない。もう、手配が済んだの?」

リンシャがこわばった顔で少年の方を睨んだ。けれど、その顔に、すぐに不審の色が浮かぶ。

なぜなら、少年が……、

「い、いやー、それが……」

などと頭をかいて、微妙に気まずそうな顔をしているからだ。

っと、次の瞬間、

「案内、ご苦労」

「ぐえっ!」

少年が、その場に崩れ落ちる。

その後ろから現れたのは、

「あっ! シオン」

「すまない。探すのに、少してこずった。こいつがうろうろしててくれて、助かったよ」

鞘に納めたままの剣で、少年たちを殴り倒したシオン・ソール・サンクランドの姿だった。