軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

257

◆九白真緒

消えたと思ったら、元に戻った。

消えた理由も、戻った理由も分からない。

だけど、今は何ともない。

それに、そんなことを考えている場合ではなさそうだ。

眼前では、巨大な妖王が縦横無尽に暴れまわっていた。

消える前は、結界が壊れる前だったため、初めて見る。

「大きいな」

東京ドーム何個分が単位として妥当な大きさだ。

妖王は多頭の大蛇。八つの頭部を振り回し、口から衝撃波を吐き出していた。

瞬く間に周囲が削れ、破片が飛び散り、地形が荒海のごとく変化し続ける。

妖王のそばには多数の霊術師がおり、応戦していた。

しかし、状況は思わしくない。

全ての攻撃が弾き返され、全くダメージを与えられていない。

それなのに霊術師たちは撤退しようとしない。

多分、自分たちが食い止めなければ人里に被害が及ぶと、決死の覚悟で事に当たっているのだろう。

しかし、それが問題となってしまう。

「……邪魔だな」

つい、ボソッと呟いてしまう。

妖王の足元に、あんなに人が居たら最大威力の攻撃を撃てない。

そんな事をすれば、応戦している霊術師に被害が出てしまうからだ。

死なせてしまったら洒落にならないし、大怪我させたら後で責任問題だ。

邪魔だし、探査霊体に担がせて撤去してしまいたい。

だけど、今の状態でガスマスクの男に迫られたら、パニックを起こして抵抗される気がする……。

できれば、全身を吹き飛ばす威力の攻撃を仕掛けたかったが、今の状態では無理そうだ。

「頭部を狙ってみますか?」

隣に立つレイちゃんが、状況を察して提案する。

「そうしよっか」

「承知しましたわ」

私たちは、背後に連なる形でビルサイズの霊装を多重展開。

高威力霊気放出の準備を整える。

そして――

「ほいっ」

「はっ!」

――発射。

二筋の圧縮光線が、妖王の二つの頭部を吹き飛ばした。

「やった!」

「す、すげえ」

「一発じゃねぇか……」

と、ナナちゃん、先生、アキラ君が驚く。

しかし、その後の展開は芳しいものではなかった。

なんと、数秒と経たずに吹き飛ばした場所から新しい頭部が再生したのだ。

そして、完全回復と同時に妖王の攻撃の勢いが増すことになってしまう。

怒って暴れまわっているようだ。

「まず……、怒らせちゃったみたい」

「無闇に攻撃するのは止めた方がよさそうですわね。急所はどこなのでしょう」

私たちは一旦攻撃を止め、防御へ移行。

逃げ惑う霊術師を霊術でカバーしながら、避難経路の確保に当たる。

そこへ、四柱当主の皆が合流してきた。

「皆、大丈夫かの?」

と、ミカちゃんが無事を確認してくる。

「うん、大丈夫。でも、妖王に攻撃したら暴れ出しちゃって……」

「やはり、君たちがやってくれたのか! あの攻撃は素晴らしかったぞ! その調子で連射すれば、いずれ回復が追い付かなくなるのではないか?」

と、龍宮清正が興奮気味にまくしたてた。

きっと決定打に欠ける戦いをじっと見守っていたせいで、フラストレーションが溜まっていたのだろう。

「そりゃあ、そうかもしれないですけど。そんなことをしたら、あの辺に居る霊術師の人が死んじゃいますよ」

あの程度の威力の攻撃なら、いくらでも連射できる。

だけど、そんなことをすれば余波で周りに被害が出てしまう。

「妖王に急所のようなものはございませんの? そこが分かれば、狙撃で対処できるのですが」

と、レイちゃんが代替案を口にした。

すると、龍宮清正が何かを思いついたようで、ハッと顔を明るくする。

「そうだ、虎宮殿の見通す力なら見えるのではないか!」

龍宮清正の言葉を聞いた虎宮楓は、しばらく考え込んだ後、ゆっくりと頷いて見せた。

「分かった。やってみよう。ただし、私の能力は一度使うと、しばらく使用不能になる。この戦闘中は再使用できないと思ってくれ」

これに、ミカちゃんがぺこりと頭を下げた。

「お願いしますのじゃ!」

「うむ。行くぞ!」

虎宮楓が構えを取り、目を閉じる。

凄まじく力んでいるのか、額に幾重にも血管が浮かび上がる。

すると、額に縦の筋が入って開いた。

そして、中から赤い瞳が姿を現し、まばゆい光を放つ。

「……急所は頭部と腹部だ」

虎宮楓が、何かを耐え忍んでいるかのような重い口調でそう告げた。

「え、頭を潰しても駄目でしたよ」

私とレイちゃんで二つ吹き飛ばしたけど、すぐに再生してしまった。

また攻撃しても、すぐ回復されてしまいそうなんだけど……。

と、疑問に思っていたら、虎宮楓が続けて言った。

「……八つの頭部全てに、強い力が凝縮されている。あれを同時に破壊しないと、他の頭部が損傷部分を回復させてしまうのだろう。頭部を一定時間内に全て破壊し、最後に腹部を狙えば絶命させることができるはずだ」

「なるほど、そういう感じね」

詳しい解析結果を聞き、私は納得する。

要は、狙いが甘かったのだ。

「まあ、それなら何とかなりそうですわね」

と、レイちゃんが洋扇を開いて口元を隠し、目を細めた。

「今の説明を聞いて、何とかなるって結論に至るんだ……」

ナナちゃんが私たちの反応を見て、何とも言えない表情をする。

いや、倒せるって言ってるんだから、もっと嬉しそうなリアクションをしてよ……。

するとここで、龍宮清正が一歩前に出る。

「ならば私の力で援護しよう。私の能力は力の増強。術の威力を高められるはずだ」

と、自信ありげに言った。

しかし、私は手を前に出し、ストップのジェスチャーを取る。

「あ、止めてください。そんなことをしたら辺り一帯が吹き飛んでしまうので」

今の状況でパワーアップなんてしてもらったら、余波で周囲が消し飛ぶ。

正確に威力を調節する必要があるので、普段と違う感覚になるような事はご遠慮願いたかった。

「そ、そうか……。分かった」

ちょっと、しょんぼりする龍宮清正。

だけど、その力にはもっと有効な使い道があると思う。

「その力で、戦っている霊術師たちを補強できませんか? 正直、妖王の周りにいると誤射しそうで邪魔なんです。あの場から退避してもらえると、助かるんですけど」

あの場に居る霊術師が退避に成功すれば、わざわざ精密射撃をしなくて済む。

誰も居なければ、デカい一発で全体を消し飛ばしてしまえばいい。

龍宮清正の能力で、避難させることができるのであれば、助かるんだけど……。

「任せてくれ! はぁああ!」

私の言葉を聞いた龍宮清正が、構えを取って力を発動した。

途端、妖王の周りに居た霊術師たちが青いオーラを纏った。

おお、なんかパワーアップした感じが視覚的に伝わってくる。

「今、皆の力を強めた! 後方で攻撃の準備をしているから、早く退避するんだ!」

と、龍宮清正が霊術師たちに呼びかけてくれる。

しかし、妖王が暴れる音で声は届かない。

霊術師たちは統制が取れないまま、逃げ惑っていた。

撤退する者、反撃に転じる者、その場で判断を迷う者とバラバラだ。

残念だが、これ以上状況が好転するようには見えない。

ここは、初めの計画通りに動くことにする。

私とレイちゃんで、頭部と腹部をピンポイントで狙う。

それしかない。

「レイちゃん、私が首を一列に固定するから、頭を撃ち抜いて!」

「はい!」

頷いたレイちゃんが、下降してきたビル状の霊装に飛び乗り、上昇。

妖王の頭部に高度を調整。

私はその間に術を発動。

砂の巨大手錠を八個作り、妖王の首にかけた。

そして、形を変えて完全固定。

金魚すくいのポイのようになった岩の塊に妖王の首がガッチリとはまった。

そして、それぞれの位置と高さを微妙に調節。

大蛇の頭が一列の直線になるようにする。

その頃には、レイちゃんの術も準備が整っていた。

朱色に輝く巨大火炎マンタが発射準備を整えていた。

「ふふ、綺麗に並びましたね。まるで、フォーゲートの初心者用コースのようです。これでは、外しようがありません! 行けっ!」

レイちゃんの掛け声とともに、マンタが飛ぶ。

空母サイズの火炎マンタは、固定された妖王の八つの頭部を高速で通過。

全ての頭部を一瞬で焼失させた。

「これで止めだ!」

そして私が指揮棒型の霊装から、特大の霊気を放出する。

全ての色を飲み込んだ黒色の光線が、妖王の腹を貫いた。

途端、妖王の全身から黒煙が噴き出す。

それと同時に体が崩れ落ち、最後は塵となって消え去った。

妖王がいた場所の中心には、ひと際大きな凶石が残されていた。

数瞬前までの騒々しさが嘘のように、周囲を静寂が支配する。

逃げ惑っていた霊術師たちは、狐につままれたような顔で呆然としていた。

皆、何が起きたのか理解が追い付いていないのか、黙って立ち尽くしている。

そんな中、誰かが言った「倒したのか?」という、小さな声が響いた。

それをきっかけに、ざわめきが波のように広がっていく。

最後は歓声へと変わり、勝どきの声が伝播する事態へと発展。

その場は歓喜の渦に包まれた。

その瞬間、全員がはっきりと自覚したのだ。

――妖王を倒したのだと。