軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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二人同時に、音のした方を向けば、男の人が立っていた。

位置的には、レイちゃんを轢きそうになった辺りだ。

男性は、困惑した様子で周囲を見回しており、その背後には空間を切り取って作ったトンネルの入り口のようなものが見えた。

端的に表現するなら、SF映画でよく見るやつだ。

あれは一体なんだ。いや、あれもARなの?

空飛ぶ金魚の次は、空間トンネル。

立て続けに現実離れした不思議な光景を目にし、動転してしまう。

その間に、レイちゃんが男の人に近づいていった。

男性は、こちらに気づかないほど動揺しているようで、ずっと独り言を言っていた。

「な、なんだここは……!? チッ、こんな所に居るはずがない! あいつのせいだ……。あいつのせいで座標がズレた! くそっ、もう一度移動できるか……?」

と、焦った様子で何やら両手をかざすも、何も起きない。

そのことで更に混乱が加速しているように見えた。

「な……!? 力がうまく使えない……。まずい、このままではここから出られなくなる……。そうだ! 今使っていた回廊を修復すれば………。よし、開き直した! 今すぐ戻れば、まだ何とかなるかもしれない……」

「それは良い話を聞けました。ここには居ないのですね。わたくしも、おかしいとは思っていたのです」

男性は異常に焦っている様子だった。

それとは対照的に、レイちゃんは余裕が出て来ているように見える。

レイちゃんの言葉を聞き、男性がハッとしたように、こちらに気づいた。

「お前、生きていたのか!」

目を見開いて驚愕の表情となる男性。

どうやら、レイちゃんとあの男の人は知り合いのようだった。

つまり、あの男性が、レイちゃんの言うところの『アレ』であり、『妖怪』ということになるのだろうか。

しかし、会話の内容を聞く限り、家出人と捜索している家族という構図には見えない。

二人の距離感が遠い。他人行儀すぎる。

敵対意識も双方にあり、緊張感がある。あの二人の関係は一体何なのだろう。

私が分析している間も、二人の会話は続いていく。

「うふふ、お待ちしていましたよ。もう逃がしません」

「くそ、お前の相手などしている暇はない。もう一度、行かないと……」

そう言った男性が、レイちゃんに背を向けてトンネルへ入ろうとする。

「させません!」

と、レイちゃんが男性の背後に肉薄。体を掴んで、投げ飛ばした。

男性は空中で姿勢を制御し、巧みに着地。

「邪魔をするな!」

と、大声で叫んだ。

途端、男性の頭部から獣の耳が生え、腰から複数の尻尾が飛び出す。

更には、口から牙が伸び、手の爪が杭のように長くなる。

なんだ、あれは……。

絶対にARなんかじゃない。どう見てもCGではないのだ。

近距離で見たからこそ分かる生々しさ。

あれは見せかけだけではない。

本当に体の一部なのだと分かる。

それと同時に人ならざる者の気配を感じ、恐怖する。

今までの人生で一度も味わったことのない悪寒が全身を突き抜けた。

あの男性は、人の形をしているが人間ではない。

それが直感的に分かってしまう。

この世の理とは別の法則で蠢いている何か。

内部に渦巻くどす黒い気配を感じ、震えが止まらなくなる。

ここでレイちゃんの言葉が頭をよぎる。

そうか、あれが『妖怪』なんだ。

威嚇する妖怪と対峙するレイちゃん。

にらみ合いに発展するかと思ったが、即座にレイちゃんが行動に移った。

なんとシンプルに殴り掛かったのだ。

プロ顔負けのシャープな動きで拳を繰り出す。

それを獣じみた動きでかわす妖怪。

二人の動きが余りに速いせいで、姿形が透過して見えた。

とてもじゃないが、間に入って止められる感じではない。

素人のつかみ合いなら仲裁に入れるが、そんなレベルではないのだ。

私はただ呆然と事の成り行きを見守るしかなかった。

しかし、結末は早々に訪れた。

なんとレイちゃんが妖怪を圧倒し、ものの数秒で拘束に成功したのだ。

腕を極められた妖怪が、苦しそうな顔で叫ぶ。

「く……、なんなんだ、お前は!」

「それはこちらの台詞です。面妖な術を使い、何を企んでいたのか分かりませんが、ここで終わりです」

「離せ! 今なら回廊の再利用ができる。まだやり直せるんだ!」

「ならば、それを使って戻らせてもらうとしましょう」

そう言うとレイちゃんは、妖怪をトンネルから離すように蹴り飛ばした。

そして、どこからともなく取り出した黒い扇を構える。

すると、炎でかたどられた巨大なマンタが出現。

レイちゃんが扇を振るうと同時に、マンタが高速移動で妖怪へ接触。

巨大な炎の柱を発生させ、妖怪を焼き尽くした。

「く……そッ、こ……んな……ところ…………で……」

マンタの攻撃を受けた妖怪は全身が黒焦げとなり、膝を折って倒れた。

そして、地面に伏すと同時に膨大な量の黒煙が発生。全身を包み込んでしまう。

――とんでもない光景を目にした。

普通であれば、黒焦げになって倒れた人を見たら卒倒する。

しかし、そんな気分にはならなかった。

むしろ邪悪なものが退けられて、ほっとした気分だった。

不思議だが、明らかに人とは違う存在が倒されたのだと自覚できた。

今まで威圧感で金縛りになっていたような緊張が解け、体の自由が利くようになる。

そこで初めてレイちゃんの事を思い出す。

視線を向ければ、じわじわと縮んでいくトンネルを見て佇むレイちゃんの姿があった。

そうだ、彼女は言っていた。

――これを使って戻らせてもらう、と。

私は、レイちゃんの方へ近づいた。

「……これなら、まだ戻れるはず」

「行くの?」

「ええ。どうやら、アレは失敗したようです。ここには居ないと言っていたので。トンネル内で暴れたのが功を奏し、出口の場所が変わっていたようです。これなら安心して戻れます。今なら、戦闘前に合流できるはず……」

話している内容は半分も理解できなかった。

だけど、ここから居なくなるということだけは分かった。

「そうなんだ。気を付けてね」

私は、笑顔でレイちゃんに別れを告げる。

もともと、家出問題が解決するまでは見守りたいと思っていただけだ。

短期間の関係と考えていたはずだった。

それが、どうだ。

家出でもなく、コスプレであったかどうかも怪しい。

妖怪は本当に実在し、彼女はそれらを独力で華麗に解決してしまった。

偽名を使ったのは頂けないが、それも理由あっての事だったのは間違いない。

きっと、私がここを通りかかることがなかったとしても、彼女は一人で全てをやってのけてしまっていたはずだ。

そう考えると、今までの自分の行動が恥ずかしく思えてしまった。

そんな風に思っていると、レイちゃんが私の手を取り、両手で包み込んだ。

「そのナイフを持っていてください。再会の目印にします。アレの話だと、ここは過去のはず。それなら何十年か先、必ず再会できます。その時に、水族館へ行きましょう」

そう言ってレイちゃんが微笑む。

「そうなの? 信じられない話だけど。でもまあ、これだけ現実離れしたことが起き続けたんだし、本当なのかもしれない」

今までの話も、コスプレの設定だと思っていたら、全て事実だった。

それなら、レイちゃんが未来から来たという話も本当なのかもしれない。

「時間がありません。急な辞去をお許しください」

こうやって話している間も、トンネルの出入り口は少しずつ縮んでいく。

「うん、早く行って。それじゃあ、元気でね」

「わたくし、ここに来てとても不安でした。霊核が減り続けて力が弱まり、アレを倒しきれるか自信も無かったのです。でも貴方が居た。リンちゃんとお話ししていると、とても楽しい気持ちになって不安を紛らわすことができました。アレに立ち向かった時も、後ろにリンちゃんがいると思うと、力が湧いたのです。きっと私一人で過ごしていたら、こうはなっていなかったでしょう」

と、ここで一区切りつけ、もじもじしながら口を開く。

「……その、こう見えてわたくしは寂しがり屋なので……」

と、照れくさそうに付けたした。

そうか、私も少しは役に立てていたのか。

そう思うと、胸が温かかった。

私たちは別れを惜しんで、軽く抱擁する。

そして、お互いに笑いあった。

「貴方の献身、絶対に忘れません。必ず、また会いましょう」

レイちゃんはそう言って手を振ると、トンネルに飛び込んだ。

すると、渦のようなものに吸い込まれて、あっという間に消えてしまう

「行っちゃった」

トンネルの出入り口が小さく縮んでいく。

そして、完全に存在の痕跡が消えてしまった。

私は、何もなくなった空間を、ぼうっと見つめていた。