軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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◆鏑木凛子

――翌朝。

朝食を終えて、そろそろ出発しようかとなったタイミングで、レイちゃんが言った。

「今日、手伝ってくれるとおっしゃいましたね」

「うん。いくよ」

と、端的に返事を返す。

きっと遠慮するだろうから、ここは断言するような言葉を使った方がいいだろう。

しかし、レイちゃんは首を振った。

「あの場所には、近づかないで下さい。わたくし一人でやります」

「う~ん。あんな場所に一人で置いていくのもなぁ」

治安が悪い場所というわけではないが、人が一人もいない場所というのもどうなんだろう。

野生動物が出るかもしれないし、危ないと思うんだよねぇ。

何より、心配だ。昨日も随分うなされていたし、眠ることにも苦労していた。

できればレイちゃんの気が済んだら、説得して警察に連れていきたい。

いや、こういう場合は児童相談所の方がいいのかな。

とにかく彼女がやろうとしていることに最後まで付き合ったら、こちらの言葉にも耳を傾けてくれるはず。そう考えていた。

「いえ、送って下さらなくて結構です。走っていきます」

と、とんでもないことを言いだすレイちゃん。

どうやら私と彼女では、根本的に考えていることが違ったようだ。

私は目的地までは車で送って、捜索だけは一人でやるという解釈だった。

だけど彼女は、そもそも目的地までの移動も一人で行うつもりだったようだ。

「ええ? すごく時間がかかるよ。そんなに、私をあそこに近づけたくないわけ?」

レイちゃんの言いぶりから、手伝わせるのが悪いから一人でやるというだけではない空気感が伝わる。

どうも、あの場所に自分以外を近づけたくないといった雰囲気なのだ。

「そうです。途中で弾き飛ばしたので、昨日は大丈夫と判断しましたが、これからはアレが来るかもしれないので」

と、レイちゃんが真剣な顔で説明してくれるも、何を言っているか分からない。

もう少し詳しく聞かないと……。

「あれって何?」

「妖怪ですね」

「ふ、ふぅん?」

もしかすると、あだ名か隠語なのかもしれない。

アレとか妖怪呼ばわりしてるってことは、仲が悪い家族とかだろうか。

その人が、レイちゃんを連れ戻しに来るかもしれない、というわけね。

見た感じ、レイちゃんはコスプレへの思いが強いだけで、性格は至って普通。

そうなると、厄介な性格なのは家族の方かもしれない。

アレや妖怪呼ばわりされるとは、相当な確執があるようだ。

「そういうわけですので、リンちゃんにはお留守番をお願いしたいのですが」

「はいはい。その辺りの詳しい話は車で聞くから、行くよ」

私はレイちゃんの言葉を適当にあしらい、彼女の背を押した。

うーん、やっぱりガッチリしとる。

これがスポーツのためではなく、コスプレのためだというのだから恐れ入る。

「リンちゃん! まじめに聞いて下さい!」

「だから車で聞くって。移動時間は長いんだから、じっくり聞けるから」

私はレイちゃんを半ば強引に車に乗せ、同行することに成功した。

車内では、レイちゃんがアレと呼ぶ妖怪についての説明を聞いた。

要約すると、マンガの話だった。

いや、レイちゃんがコスプレで成りきっているオリキャラ寄りの雲上院礼香が、戦っている敵についての説明だった。

うう~ん、言葉にすると混線してるなぁ……。

どうやら、妖怪と呼ぶような悪質な家族がいるという予想は、私の杞憂で終わりそうだ。

しかし、ここまで色んな設定を考え、現実でそれを実行しているとなると、レイちゃんが直面している問題は相当闇が深いのかもしれない。

私で、なんとかしてあげられることができればいいけど……。

そんな感じでレイちゃんの話を聞いていると、あっという間に昨日いた場所まで戻って来れた。

車を端に寄せて止め、降車する。

「ふぃ、やっと着いた。ここまで走ってこようとするなんて、気合い入ってるよね」

「この程度の距離であれば、問題ありません。以前は自転車で長距離を走ったこともあるのですよ」

運転の疲れを取るために、雑談で一息つく。

すると突然、どこからともなく空飛ぶ金魚が現れた。

「え、なにこれ!?」

私が驚いていると、金魚がレイちゃんの前で止まる。

その間も新たな金魚が複数現れ、レイちゃんの元へ集う。

「霊術ですわ」

と、端的に答えるレイちゃん。

私は、レイちゃんの周りを楽しそうに泳ぐ金魚を凝視する。

よく見ると、本物ではない。

いや、空を飛んでるんだから、本物もへったくれもないけど。

私が気になったのは外見だ。

金魚が、まるで炎の様なのだ。固体より、気体っぽい。

あれか、ARか! しかし、凄いな。

VRゴーグル無しで、こんな映像を見せるなんて……。

最近のゲームは、現実を侵食しつつあるな……。

「でも、レイちゃんも、まだまだだねぇ。雲上院礼香は、霊術が使えない。さすがにここまでやると、原作改変しすぎだよ?」

と、突っ込んでおく。

とにかく、お金のかかった本気度の高いコスプレ、ということは認めざるを得ない。

が、原作マンガの読み込みが浅いせいで、キャラ崩壊を起こしている。

マンガファンが見れば、コスプレの本気度と原作との齟齬から、さぞ歯がゆい気持ちとなることだろう。

「何をおっしゃっているのか、よく分からないのですが」

レイちゃんが小首を傾げて、不思議そうな顔をする。

なんだ、その仕草は。かわいいな!

しかし、そんな言い訳で誤魔化そうとするとは、浅はかなり。

「いや、昨日読んでもらったマンガの話だよ」

するとレイちゃんが、やれやれと言った感じに首を振って、溜息を吐く。

「リンちゃんは、現実とフィクションの区別もつかないのですか? それでは、フィクションを楽しむ資格はありませんの。もう少し見識を広め、現実としっかり向き合うべきですわ」

と、こちらを可哀そうなものを見るような目で見てくる。

「え、なんでこっちが、めっちゃ諭されてるわけ?」

どうしてこうなった。一体どこで間違った。

「それより、ここまでの送迎ありがとうございました。ここは危険なので、早く離脱を」

「またその話? 車の中でも言ったけど、私も一緒に探すからね」

今度は私が、やれやれと言った感じに首を振って、溜息を吐く。

しかし、レイちゃんは真剣そのものだった。

「それは、わたくしの台詞です。車中でも、何度も申し上げましたが、本当に危険なのです。とにかく、ここから離れてほしいのです」

「はいはい、危険危険っと。で、どう分担する? 昨日はあっちの方をやったから、今日はあの辺を探す?」

「リンちゃん!」

私が譲らないのを察して、レイちゃんが叫ぶ。

でも、ここは私も譲れない。置いてけぼりにするつもりは、端からないのだ。

「だって、私たち友達なんでしょ? なら、困ってたら助け合うのが普通じゃん。レイちゃんは、私が危ないから帰れって言ったら、帰るわけ?」

「…………納得はできませんが、納得しました」

私の言葉に、頬を膨らませて不機嫌マックスの顔となるレイちゃん。

「そんな怒らないでよ。本当にここが危ないなら、二人がかりで探して、すぐに帰った方がいいでしょ。そしたら、レイちゃんも危険な目に遭わないわけだしさ」

レイちゃんの言葉を信じていないわけではない。

本当に危険なら、彼女もこの場に居るべきではないのだ。

「結局、わたくしのことを考えてくださってばかり……」

「そんないいもんじゃないって。私の方が大人だから、見栄を張ってるだけなの」

「感謝いたしますわ。わかりました、二人で探しましょう」

「そうこなくちゃ!」

レイちゃんの承諾を得て、私はニカッと笑う。

すると、彼女が何やらゴソゴソとやり始めた。

そして黒い物体を取り出して、こちらに差し出す。

「それでは、これを護身用にお持ちください。どうも霊気がうまく扱えないので、この程度の物しか作れませんが」

と言って、レイちゃんが私に手渡したのは、刃渡り四〇センチ程のボウイナイフだった。

ナイフは刃も柄も真っ黒。装飾が一切なく、驚くほどシンプルなデザインだった。

受け取って、ずっしりとくる重さに驚く。

「わ、ちょっと危ないよ。いくらコスプレでも、こんな物持ってたら駄目だからね。って、刃引きしてないじゃん! これは駄目だよ! 悪いけど預かっておくよ」

確認すると刃が潰されていなかった。

つまり本物のナイフである。

というか、こんなものを持ち歩いていたら銃刀法違反になる可能性も否定できない。

私は事の重大さに気づき、彼女を叱った。

さすがにこれは、没収して処分しておかないと……。

しかし、とうのレイちゃんは、フェイクのナイフなんか渡すわけないだろう、みたいな顔をしていた。

どこまでも真顔で、自分の行動に疑いを持っていない。

さすがに、ちょっと怖いんですけど。

「ですから、差し上げると言っているのですが……。とにかく、それは保険です。アレが来た時は、応戦せずに逃げてください。相手は、わたくしがしますので」

「はいはい、またアレね。でもさ、そんなに言ったら、フラグにしか聞こえないよ?」

そんな風に茶化していたら、道路の方で音が聞こえた。

何もない場所で無音に近い状況だったため、小さな音でもよく響いた。

二人同時に、音のした方を向けば、男の人が立っていた。