軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

206

そう思っていたら、俺たちの前に突然黒塗りのワゴンが現れた。

降りてきたのは雲上院礼香だった。

雲上院は、不機嫌そうな様子でこちらへ近づいてくる。

そして――

「皆さんだけで遊びに行くなんてズルいじゃありませんか!」

――と、言った。

いや、待ってくれ。

俺たちは遊びに来ているんじゃない。

迷宮攻略に来ていたんだが……。

え、ホットケーキ食ってるって?

そう言われてしまうと、一気に説得力が失われてしまう。

すると七海が「これはね、マオちゃんが作ってくれたんだよ」と、ニヤニヤしながら言った。

そして、バターと蜂蜜をたっぷりと塗ったホットケーキを、これ見よがしに頬張ってみせる。

それを見た雲上院は益々不機嫌になった。

「おい、煽ってどうするんだよ!」

俺は七海の腹を肘で小突いた。

と、ここで九白が雲上院をなだめ、事なきを得る。

彼女はホットケーキを切り分けたものを、せっせと雲上院の口へ運んでいた。

そんな突然の乱入を挟んだ結果、なぜかは知らないが、次の迷宮攻略は雲上院がすることになった。

七海の方を見れば、策士顔で目が¥になっている。

こいつ……、わざとこうなるように仕向けたな。

そんな話をしている間に九白の探査霊体が迷宮から戻って来て、凶石を積み上げていた。

つまり、迷宮攻略が終了したのだ。

それを証明するかのように、迷宮の崩壊が始まっていた。

早かったな……。

積み上がった凶石の山は、九白がよく分からない霊術で回収してしまった。

もうわけが分からん。

そして、次の迷宮へ四人で向かった。

すると雲上院が今度は自分の番だと鼻息荒く前に出た。

「おい、本当にこいつ一人でやらせるのか」

心配になった俺は、七海に耳打ちした。

確か雲上院も一属性のはず。危険ではないのだろうか。

「大丈夫だから。まあ、見てれば分かるよ」

と、七海がニヤリと笑う。

七海はこういうところで冗談は言わない。きっと何か理由があるのだろう。

と思ったら、また黒いのがいっぱい出て来た。

既視感を覚える光景だ……。

そして、雲上院が洋扇型の霊装を振るう。

すると、空一面に炎の魚群が現れた。

それらが、一気に迷宮へなだれ込んで行く。

ああ、そういう感じね。二度目となれば、俺も慣れた。

と、雲上院が洋扇を振るう側で九白が霊術で周囲を整地し、ソファとテーブルを用意していた。

なんでさっきはキャンプギアで、今回はソファなんだ。

え、雲上院にキャンプギアは似合わない。そうですか……。

半ば呆れ気味にソファに座った俺は、気になったことを二人に聞いてみた。

二人が使っている術は一日に何回使えるんだ、と。

すると、一日中使っていられるという答えが返ってきた。

疲れないのかと聞くと、特には、という答えが返ってくる。

それなら、と質問の内容を変える。

霊気放出でも何でもいいから、全力の攻撃をした場合は、どの程度の威力を出せるのか。

そう質問したら、二人が驚いたような顔で固まる。

そんなことをしたら地形が変わるから怖くて使ったことがない、と言われてしまった。

と、ここで、ソファに沈み込んで、ぼーっとしていた七海が俺に耳打ちしてきた。

「二人で妖王を倒せると思う?」と。

――倒せるんじゃないかな。

割りと余裕で。

相手が妖王でも、あいつらが使っていた術で延々と攻撃すれば、消耗していずれ倒れる。

最大威力の攻撃を当てれば、一瞬で蒸発する。

そんな未来しか見えない。

なんか、どうでもよくなって軽い気持ちでざっくり答えたが、これって凄い事じゃないのか。

と、その事実の凄さがボディブローのように遅れて俺の心に響いてくる。

え……、待って欲しい。

妖王を楽勝で倒せるのか? あの妖王を?

これは、全霊術師の悲願が叶ったも同然じゃないか!

俺は数秒遅れで、その事実に感動を覚えていた。

とうの七海は、俺の顔を見て楽しそうに笑っている。

しかし、ここまで考えて問題があることに気づいた。

――それは、十家だ。

十家は北海道奪還に一切関わることが出来なかった。

そのため、世の中の評判は、十家はその地位に胡坐をかいて何もしない連中と言われるまでに墜ちていた。

そういった世論を一蹴する最後の希望。それが妖王を討伐する事だ。

ただし、十家の討伐計画は、それなりの犠牲を覚悟したものとなっている。

死傷者が多数発生し、勝つか負けるか分からない一か八かの賭けに近い。

雲上院と九白がやってのける討伐行為とは、大きな隔たりがある。

完全に次元が違うのだ。

単純に被害を減らすという一面だけで、どちらを取るか判断するなら、雲上院と九白に任せるの一択だ。

だが、現在の十家は妖王討伐に並々ならぬ執念を燃やしている。

それなのに、雲上院と九白があっさりと倒してしまうと、横から手柄をかっさらうような形になってしまう。

十家も馬鹿ではない。二人に、みすみす妖王を差し出すような真似はしない。

きっと、戦闘の許可が下りないだろう。

いや、二人の実力が知れ渡れば、妨害を受ける可能性すらある。

それほど、今の十家は追い詰められているのだ。

ということを七海に話した。

すると彼女も深刻な顔で、ありそうな話だと頷いた。

「つまり、俺たちのやることは、あいつらが妖王と戦いやすい状態を作るってことか」

「だね。まあ、初めは十家に戦わせて、よきタイミングで、あの二人にバトンタッチさせるお膳立てをすればいいってことじゃない」

「だな。二人を前に立たせれば一瞬で済む話なのに、まどろっこしいが、後の事を考えるとそれがいいだろうな」

少し遠回りをすることになるが、それが確実だろう。

段階を踏んで行動すれば、最低限のトラブルで済むはずだ。

「でもさ、絶対勝てるって分かってると安心するよね」

俺が考え込んでいると、七海が気楽そうな口調で言った。

「そうだな。結界が崩壊すると聞いて焦っていたが、これで落ち着いて寝られる」

などと話している隣では、九白が雲上院にカロリーバーを食わせていた。

こちらの会話など全く聞いておらず、二人で楽しくやっている。

雲上院は好奇心を全開にして、リスの様にカロリーバーをかじっていた。

「あんな奴らが妖王を倒す重要な鍵なんてな……」

「凄いでしょ、私の親友は」

「そうだな」

得意げな顔で言う七海に笑顔で頷く。

そんな話をしていると、炎の魚群が帰還し凶石が山のように積み上げられる。

あっという間に二つ目の迷宮を攻略してしまった。

そして、その後も迷宮攻略はハイスピードで進み、同地域の迷宮は全て破壊された。

七海は、その事実にホクホク顔で大満足。

九白と雲上院は、遠足気分で楽しめたと不満なし。

俺は、妖王を倒す算段が立ち、実りのある余暇となった。

――その後、俺は七海と七海の父親との三人で話し合いの場を設けた。

そこで妖王討伐時に、いかにして九白と雲上院が動きやすい状態にするかについての話し合いを行った。

何度かの打ち合わせの後、ある程度の段取りが決まった。

後は本番時に臨機応変に対応することになるだろう。

これで、妖王との戦いは勝ったも同然。かなり心理的な負担を軽減できてしまった。

このことを周知できないのは心苦しいが、被害を最小限に食い止められると思えば耐えられる。

きっと、この行動が後の妖王戦で役に立つはずだ。