軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

207

◆九白真緒

というわけで、林間学校は無事終了。

実害もなく、非常に良い結果に終わった。

……まあ、ナナちゃんには迷惑料として、迷宮攻略を手伝わされたけど。

その後は、小さな問題が何度か発生したが、なんとか対応できた。

例えば、トイレの閉じ込めだ。

瀬荷城宝子たちがトイレの扉を、つっかえ棒でロックをかけ、上から水を掛けようとした。

私はトイレの外から小規模霊術を発動し、バケツの水をひっくり返してやった。

結果、水を掛けようとした因幡エリカはびしょ濡れ。

瀬荷城宝子たちが撤退した後に、つっかえ棒を外して外に出られるようにしておいた。

中にいた日高さんからは、扉の建付けが悪くて開きにくかったと思う程度で済んだと思う。

まあ、水の音と因幡エリカの悲鳴は聞こえてしまったけど……。

対応が微妙になったのは、その件くらいだ。後は、周囲に気づかれることなくできている。

今後も、この調子でイベント管理を維持して行きたい。

マンガでは、林間学校のイベント以降に霊術師の家絡みのイベントが増えていく。

それは、ヒロインが霊気を発現し、ヒーローが五属性の名家だったためだ。

しかし、今のところ現実では、ヒロインとしてイベントをこなしているのは日高さんであり、ヒーローポジションにいるのは綾小路君。

両者ともに霊力はゼロ。霊術が使えない。

というわけで、イベントの発生のしようがない。

もし起きたとしても、シンプルにお金持ちの名家と一般人の家庭という格差から来る家柄の話になるだけだろう。

その辺りは、いじめとも関係ないし深く関わるつもりはない。

そんなところまで監視したら、ナナちゃんが言う通りのストーカーになってしまう。

これでも最低限の節度はあるつもりだ。

今までもシナリオに関わらない限り、校外での監視は控えていたしね。

というわけで、家に関するイベントは不干渉に徹する。

怪我や命に関わることでもないし、その辺りの障害は日高さんと綾小路君の二人の力で乗り越えてもらいたい。

とまあ、これだけプライバシーに配慮してますと言っておいて、大変申し訳ないのだが、そうもいかない話もある。

それが、この時期から始まる、もう一つのイベントだ。

何が起きるのかといえば、ヒーローのライバルポジションキャラの登場である。

どのようなキャラがヒーローのライバルになるのかというと、ヒロインと同期の特待生だ。

実際には、二人は既に対面を果たした状態ではある。

だが、仲が深まり始めるのが、これからなのである。

現段階でも、日高さんが図書室での自習中に何度か会い、挨拶を交わす程度には親交がある。

マンガではこの時期に、学校の制度や家柄に関しての愚痴で盛り上がって意気投合するといった流れとなっていた。

ちなみに、特待生同期の名は古畑雅孝君。細フレームのメガネが似合うイケメンだ。

調査の結果、マンガと同姓同名、外見も同一ということは確認済みである。

マンガでは、少し真面目で融通が利かない性格であり、どんな感情表現も眉間にしわ寄せの気難しい顔になってしまう不器用要素のあるキャラである。

この世界でも、マンガと見た目が似ているだけでなく、性格もそんな気配を漂わせていた。

古畑君との親交については、今後のストーリー進行に関わる。

具体的に言うと、イベントの参加人数だ。

もし二人が疎遠なままであれば、マンガで古畑君が行うはずのことを誰かが補完するかもしれない。

現在、ヒーローポジションにいると思われる綾小路君には、マンガとは違って幼馴染み友人ポジションのキャラが居ない。

今の所、そのことで大きな障害は発生していないが、これ以上登場人物が減るとどうなるか分からない。

その辺りを見極めておきたいのだ。

――そして数日後、日高さんと古畑君が友達になるイベントは無事発生。

その時の会話で、休日に外の図書館で一緒に勉強する約束をしていたことも確認。

これなら問題なさそうだと見守っていると、マンガの展開通りに綾小路君が乱入。

ここも原作通りに展開し、ギスギスした空気にはならず真っ向から対面。

成績が良い者同士ということで、意気投合する綾小路君と古畑君。

そこで、綾小路君も図書館の勉強会に参加することが決まった。

この図書館での勉強会こそが、次のイベントとなる。

イベントの内容としては、こうだ――。

勉学を競い合う者同士として、ヒーローが清々しくライバル宣言をし、受けて立つと応えるライバル。

そしてなぜか勉強だけでなく、ヒロインを懸けて争うということにも、お互い同意。

一人、置いてけぼりのまま、両者から告白を受けるヒロイン。

突然の事に混乱したヒロインは、返事を保留。

それにより、二人から猛アプローチを受けることになる。

――という、展開となる。

マンガでは、その場に幼馴染みポジションの雪沢智仁がおり、ヒーローの行動に呆れるという一幕がある。

が、ヒーローのポジションが綾小路君のため、智仁君がこの場にいない。

そのため、その場面は発生しないことになる。

綾小路君は、今年東京に越してきたばかり。

だから、マンガでいうところの幼馴染親友ポジションのキャラがいないのだ。

今の所、それが影響してトラブルになるような事態には発展していない。

今回はどうなるだろう……。

ついさっき、プライベートは守るみたいなことを言っていたが、今回は別。

このまま図書館にも追跡に行く。

この辺りで三人の関係がどうなるか把握しておきたい。

というか、これ以降も男女の仲が絡む出来事に関しては、積極的に監視させてもらう。

そうしないと、誰が誰に対して好意を抱いているかという相関関係の把握ができない。

それぞれの関係性を把握していないと、予測行動がとり辛くなるので、ご容赦願いたい。

――というわけで休日。

日高さん、綾小路君、古畑君の三人で図書館勉強会を行う日となった。

私は先回りし、カメラとマイクを設置。

万全の監視体制を構築し、事に挑む。

日高さんたちは駅で待ち合わせし、一緒に図書館へ向かっていく。

智仁君ポジションの人物不在で進行するのが不安だが、今のところは問題なし。

私が携帯端末に映し出された監視映像で三人を見守っていると、予想外の出来事が発生していることに気づく。

なんと、瀬荷城宝子が三人の後を付けていたのだ。

彼女は物陰から様子を窺いつつ、気づかれないように動いている。

その視線は、綾小路君の背中を凝視していた。

どうやら、三人が図書館へ向かうことを進行方向から予測しているようだ。

この感じだと、偶然を装って図書館で合流する魂胆なのかもしれない。

もしかして、ヒーローの幼馴染みポジションの人物の代打として、判定されてしまったのだろうか……。

いや、絶対違う。

瀬荷城宝子にそんな器用な真似ができるはずがないし、日高さんが綾小路君と古畑君からアプローチされる様を黙って見ていられるはずがない。

きっと、たまたま見かけて後をつけだしたのだろう。

取り巻きの二人もいないし、プライベートで行動していたっぽい。

このまま合流されると、絶対台無しにされる。

確実にストーリーと違う展開になってしまう。

まずい……、合流されると展開が読めなくなる。

――これは介入するしかない。

だけど、呼び止めて一時的に動きを止めるだけでは意味がない。

それだと、結局図書館に行ってしまうだろう。

最低限、図書館内でのイベントが終了するまでは、瀬荷城宝子を行動不能状態にしておく必要がある。

そして瀬荷城宝子は、あと数分で図書館に着く。つまり、準備時間がない。

そうなると強引な手法を取るしかない。

かといって、誘拐など相手の記憶に残る方法では駄目だ。

後で問題になる。

しょうがないので、コイツを使うことにする。

私は、念のために持ってきていたハンドガンタイプの麻酔銃を取り出した。

この麻酔銃は特注で対人用。射程が短い代わりに、消音性が異常に高い。

また、専用弾丸で麻酔の威力を細かく調節できるのも、魅力の一つとなっている。

使用する弾丸は後遺症が残らないように、一番威力が低いものを選択。

針のような弾丸で、銃創も虫刺されの様に偽装できる。

しかも、刺さった針自体も時間経過で溶けて消える優れものである。

ただし、針が溶ける素材なので管理が難しい。

極端に暑かったり、寒かったりするような環境下では使用ができない。

使用条件がかなり限定される弾だ。

これまで国外で何度か使用してきたが、その時の相手は全て犯罪者だった。

その際、効果重視で弾の威力をMAXまで上げたものを使用していた。

効果を弱めての使用は今回が初めて。そのため、感覚が掴めない。

時間がないので、撃ちながら調整するしかないだろう。

え、免許? まだ、年齢が達していないから取れません。

……国外のなら持ってるからギリセーフなはず。

麻酔銃を装備した私は、監視ポイントから出て、即座に瀬荷城宝子の背後に位置取る。

気配を忍ばせて一気に接近。周囲に人が居ない瞬間を狙って発砲した。

弾は命中した。しかし効果が弱すぎたせいで昏倒しない。

軽く眩暈を覚えたような仕草をするも、すぐさま歩き出してしまう。

しょうがないので、効きを見ながら連続発砲していく。

命中するたびに、膝カックンを食らったように姿勢を崩す瀬荷城宝子。

が、すぐに持ち直して歩き続ける。

どうやら、薬剤の量を少なくし過ぎてしまったようだ。

弾倉が空になる寸前まで撃ったところで、やっと効いてきた。

瀬荷城宝子は壁に手を当てて、しゃがみ込んでいた。

気が付けば、図書館は目の前。かなりギリギリになってしまった。

ただ、今回の使用で大体の分量は分かった。

次があれば、体への負荷を最小限に抑えつつ、一発で昏倒させられるだろう。

予想以上に手間取ってしまったが、あと一発も撃てば意識を失うはず。

昏倒させた後は、一旦木陰にでも放り込んでおけば、やりすごせる。

そう考えながら、引き金を引こうとしていると問題が発生した。

――背後から人が来たのだ。

私は一旦発砲を止め、身を隠した。