軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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◆兎与田七海

「ま、このくらいはできないと話にならないよね」

七海は満足感を覚えながら、額をぬぐう。

今日までの修業の成果を実感できる瞬間だった。

これで真緒が提示した条件も果たせたことになる。

「子供相手にこんな……」

それとは対照的に絶句する首謀者と思しき男。

七海の眼前には、その男の部下たちが失神状態で倒れていた。

ざっと見て、三十人は軽く超えている。

ひとまず、結界の破壊を試みていた者たち全員を昏倒させた。

この場に駆け付けた際、結界に干渉しているところを目撃したので、全員玄宮の人間で間違いない。

つまり、井和倉慶二の発言は真実だったということになる。

そうなると、これだけの人数の玄宮の人間を従えている、首謀者と思しき男が誰なのかも自ずと答えが出てしまう。

玄宮家の現当主である玄宮勝邦だ。

それも、井和倉の言った通りということだ。

その玄宮家当主と思しき男だけは無傷で残っていたが、こちらへ攻撃してくる気配がない。

当惑し、立ち尽くしている。

今のうちに、この男も昏倒させ、早く兎与田の援護に行くべきだろう。

「井和倉は、あいつは一体何をやっている! 何のために連れてきたと思っているんだ!」

「さあ、あっちも忙しいんじゃない?」

急に叫んだ男に適当な相槌を打ちつつ、近づく。

「こんなはずでは……」

「さっさと片づけて、表の加勢に戻れば、一件落着かな」

と、結界に背を向けて男に近づいた瞬間、ガラスにひびが入ったような音がかすかに聞こえた。

そのことに気づいて、いち早く動いたのは、ひとり無傷だった玄宮勝邦だった。

「よし、傷がついた。これを広げれば破壊できる!」

「え」

七海が音を聞いて振り向いた時、玄宮勝邦が隣を駆け抜けて結界に近づいた。

――これから目の前で起きることが、最悪の結果を引き起こす。

そう想像したせいか強烈に集中力が刺激され、視界に入るものが異常に遅く見えた。

七海は玄宮を止めようと追走しながら、結界に出来たひび割れを見た。

ひびからは黒煙が高速で這い出し、蛇のような動きで近くにいた玄宮の首に絡みついた。

「あ……がっ……」

うまく声が出せないのか、首を掻きむしりながら苦しむ玄宮。

そのまま、数秒と経たないうちに白目をむいて気絶した。

七海は、これ以上の接近はまずいと判断。すかさず急停止し、身構える。

その間も黒煙は数を増やし、巨大なたこ足を想起させるような動きで広域に展開され始める。

遂には、七海が昏倒させた霊術師たちにも黒煙が絡みだす。

黒煙が付着した霊術師たちは、痛覚を刺激されたのか、覚醒。だが、動けない。

硬直状態のまま、全員が電流でも浴びたかのように痙攣を繰り返す。

そして、ぐったりしたように脱力し、動かなくなってしまった。

死亡したわけではないと思うが、完全な行動不能状態だ。

その間にも次々と黒煙が這い出し、亀裂が音を立てて広がっていく。

「これ以上はまずいでしょ!」

七海は黒煙を避けながら亀裂に接近。霊気を放出し、黒煙の流出を阻止しようとした。

その際、結界の補給に使った力も使用する。

あの時は、その力がどういったものなのか分かっていなかったが、今は分かる。

――これは玄宮一族の力。

結界を破壊しようとしていた者たちが使っていたものと同種の能力。

目撃した時に同じ感覚を感じ取ったので、はっきりと理解した。

(全然抑えられない! そもそも、この力にひびを塞ぐ効果なんてない)

以前使ったことがあったので、こうなってしまうことはある程度察していた。

この力で結界は修復できない。

機能に必要なエネルギーを補充して延命を図ることはできるが、それだけ。

こうなってしまうと、今の七海の技術ではどうしようもなかった。

(亀裂が肥大化して結界が壊れたら、洞窟の外にまで被害が……)

最悪の展開を想像し、全身を悪寒が突き抜けた。

このままでは自分を含めた周囲にいる全員が死んでしまう。

内部から強大な力の片鱗を感じ取り、対抗策が思い浮かばない。

このままでは時間の問題だ。

みんな死んでしまう。

そう思った瞬間、とある言葉と当時の風景が映像で蘇る。

あれは――、試験に合格し、霊術師免許を取得した時に言われた言葉だった。

「背中は任せたぞ、相棒」

祝いの席でそう言われ、勢いよく背を叩かれ、むせた。

いつもなら抗議しているところだが、あの時は嬉しさが勝って他のことが気にならなかった。

自分もこれで一人前。本当の意味で相棒になったんだと。

……ここで押し負けると、外に被害が及ぶ。

外では、今も兎与田が井和倉を近づけないように抑えてくれている――。

「背中を任されてるんだから、やるしかないでしょ」

七海は、持てる全ての力を結界に注ぎ込んだ。

途端、軽く意識が遠のき、足元がふらつく。

それでも何とか堪え、力が続く限り注ぎ続ける。

「塞がれ……!」

しかし、改善の気配はない。

集中するために目を閉じ、精一杯力を注ぎ続けるも変化なし。

完全に打つ手が無くなってしまった。

時間経過で拮抗した状態が崩壊し、黒煙が溢れ始める。

――ごめん、無理だった。

外にいる兎与田の顔が浮かび、涙がにじむ。

そんな時、何かが両手に接触した。

初めは、あの黒煙がとうとう自分にも絡みついてきたのかと思ったが、不快感がない。

確認するために、そっと目を開ける。

すると、光る手が四本。七海の両手に添えられていた。

その手から腕、肩、首とゆっくり視線を辿り、相手の顔を確認する。

「あ」

そこには写真でしか見たことのない顔が二つ。

玄宮信司と春海。実の両親が優し気な顔でこちらを見ていた。

二人は宙に浮き、光り輝いていた。

肌や髪の色は消失し、光そのものになったかのような姿。

眩いせいで身体の詳細がはっきり見えない。

それがどういう状態で、どういう現象なのかは分からない。

その時、二人に触れられた手から何かが流れ込んでくるのを感じた。

それと同時に、力が漲りだす。

そして、七海の身体が好調になればなるほど、二人はボロボロと塵化して崩れていく。

「だめ! それ以上やったら消えちゃう!」

七海が叫んでも、二人は言葉を発しない。微笑みを携えた顔のまま、静かに頷く。

二人は、それぞれ片手を七海の頭に置いた。

それが合図となって、全身が塵化する速度が増す。

下半身が消え、上半身もなくなる。

最後は頭部と、七海の頭にのせられた腕だけとなっていたが、それもすぐに塵化していく。

「待って!」

七海が声を上げた時には、完全に消えてなくなってしまっていた。

ほんの数秒。唐突な再会と別離に、頭が混乱する。

しかし、いつまでも動揺している場合ではなかった。

押し寄せる力の波が増し、抵抗が難しくなってきたのだ。

(力を分けてもらったけど、これじゃあ……)

大した時間も稼げない。

そう思った次の瞬間、何の前触れもなく眼前に子亀が現れた。

宙に浮いている上に透けて見えたので、初めは幻かと思った。

そんな子亀が、泳ぐようにして近づいてくる。

そして七海の手の甲に乗った。次の瞬間、それがどういった存在か瞬時に把握する。

――霊獣、玄武。

子亀は霊獣の欠片とも呼べる存在だった。

結界と一体化した本体を、ほんの少し切り離して実体化してきたのだ。

玄武の一部である子亀が、七海の手の中に吸い込まれて消える。

それと同時に、自分と霊獣が繋がったのだと理解する。

きっと今まで契約していた両親が消失したことにより、その娘である自分と新たな契約が結ばれたのだ。

玄武との繋がりが出来た途端、現在の結界の状況を明確に把握する。

このままでは結界が崩壊してしまう。

状況を理解するとともに、対応策も頭に浮かんできた。

崩壊を防ぐ方法は、ひとつだけ。

応急処置しかない。

結界全体を薄くし、こそげ取った部分でひび割れた部分を補修する。

これで一旦は結界のひび割れを塞ぐことができる。

ただし、この方法を取ると、全体の強度が低下する。

つまり、結界崩壊の時期が想定より早まってしまうことになる。

だが、それ以外の選択肢はなかった。

補修をしなければ、今崩壊してしまうのだから。

「塞がれっ!」

七海は集中し、力をコントロールする。

初めはひび割れの進行が停止。そして、次第に塞がってゆく。

それと同時に、溢れ出していた黒煙が時間を撒き戻すように、結界の中へ引き込まれていく。

最後は全ての痕跡が消失し、元の綺麗な状態へと戻った。

「……やった」

安堵した七海は膝から崩れ落ちた。

凄まじい消耗を余儀なくされたが、玄武との連携で結界のひび割れを修復することに成功したのだ。