軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

151

◆炎泉蓮司

――霊術師更生施設内、食堂。

炎泉蓮司は、娘の留美と食事をしていた。

一息ついた娘が口を開く。

「まさか、男女共同の施設とは驚きましたね」

留美は今日までの生活を振り返っているのか、視線は遠くを捉えていた。

「ああ。だが、そのお陰でお前の顔を見られる。捕まったのは大半が男。お前ひとりで別の施設に行くことになっていれば、今頃不安で眠れなかった」

この施設に来て良かったことの最上位は、男女共用設備があったことだ。

このことにより、定期的に娘と会うことができる。

こうやって、雑談を交えながらの食事が、蓮司にとってかけがえのないものとなっていた。

「大袈裟ですよ」

こちらの言葉に、照れくさそうに微笑を浮かべる留美。

「事実だ。こうやって食事のたびにお前と会えるのが、この施設での唯一の楽しみだ」

「私もです。こんな対応の緩い施設に収容されるとは思ってもみませんでしたね」

「本当にな。我々が行ったのは、暴行、脅迫、誘拐。いや、殺人未遂と言われてもおかしくはない。本来であれば凶悪犯が収容される施設に送られていたはずなのだ」

この施設は、比較的罪が軽く模範的な態度の者が収容されていると聞く。

本来であれば、自分たちのようなものが収容される場所ではない。

「ええ。鳳宮未花様には感謝しかありません」

蓮司の言葉を聞き、留美が深く頷く。

そう、この施設に収容される運びとなったことには、鳳宮未花が深く関わっていた。

「鳳宮殿が罪に問うたのは、主に霊鎧の無断使用と器物損壊。そのお陰で御家取り潰しもなくなった。十家除外処分だけで済んでしまった」

この場にいられるのは、鳳宮未花の働き掛けによるものだ。

彼女の計らいで罪が軽くなったのである。

また、もう一人の被害者である校長も、四柱当主である鳳宮未花との関係を優先し、全てを受け入れて声を上げるようなことはしなかった。

「……創立記念日に霊鎧を使いこなしているところを柱の当主の前で見せ、十家の階位上昇を助力してもらう交渉を行ったが、霊鎧が暴走して失敗。さらには、大破消失させてしまった、ということになったようですね」

留美が、鳳宮未花の証言を思い出して口にする。

それは事実とは全く異なる内容だった。

なぜ、あんな証言をしたのか。

施設に収容される前に、一度だけ会う機会があった際に、娘が鳳宮未花に理由を尋ねたそうだ。

返ってきた答えは五つ。

今、高位霊術師の数を減らすわけにはいかないこと。

北海道の奪還を唱える急先鋒である炎泉家が取り潰しになると、戦力増強と言いつつ実際には動くつもりがない家の勢力が増してしまうこと。

暴走はしたが、その気持ちに一定の理解ができること。

強行ではあったが、なるべく人命を尊重する行動を貫こうとしていたこと。

同じ学校でフォーゲートを研鑽する仲であったこと。

と、説明されたそうだ。

娘は未熟で甘い判断だと責め立てたそうだが、「そっくりそのまま返す」と言われてしまい、何も言い返せなかったという。

その話を聞き、娘や仲間に対し申し訳ない気持ちになる。

焦らずに、もっと様々な方法を模索すべきだった。

未熟で甘い判断に傾いてしまったのは、自分の落ち度である。

「捕まった時は、罪を償うことを腹に決めていたから、逆に肩透かしを食らった気分だったよ」

相応の覚悟を決めていたつもりだったが、いざ刑が軽いと聞くと、安堵してしまったのも事実。気持ちの整理がつくまで、しばらくかかった。

「ですが、条件が整いましたね」

留美が、強い意志のこもった目でこちらを見てくる。

「何の話だ」

思い当たる節がなかった蓮司は、聞き返した。

「私たちは十家ではなくなりました。ここで罪を償った後は、大手を振って北海道に行けます」

「そうか……、そうだな。まさか、こんな形で願いが叶うとはな」

留美の言葉に、しみじみと実感がわいてくる。

北海道に行ける。

高位霊術師も、北海道での活動は自粛するようにと言われているが、強制力はそれほどでもない。無理を通せるレベルだ。

「今の私たちは、ただの高位霊術師。十家に適用される禁則は無効になります。ただ、煩雑な手続きが必要にはなるでしょうが……」

「うむ。その程度、障害とは言えんな。先々の目標が立つと、ここでの生活にも張りが出てくる」

「ええ」

どちらからというわけでもなく、自然と二人で笑い合う。

そんな時、この場に相応しくない男が眼前に現れ、挑発的な物言いで話しかけてきた。

「おうおう、今日も親子でお食事か。仲がいいな」

目の前に現れた男の名は井和倉慶二。

仕事の関係上、一時、頻繁に顔を合わせていた者だ。

しかし、井和倉は素行が悪く、好戦的なことが災いして施設送りとなった。

そして、自分たちと同様に十家の資格をはく奪された。

つまりは、井和倉は元十家の当主なのだ。

「当然だ。家族なのだからな」

井和倉は、非常に好戦的で手が早い。

蓮司は、井和倉の動きを注視しながら答えた。

「はぁ、そんなことを自慢げに言われてもな。十家なら、何より力だろ。強さのためなら、家族の絆など不要。邪魔ですらある。お前も早くその境地に来い」

こちらの和やかな雰囲気を見て、井和倉は溜息を吐き、肩をすくめる。

「私はもう十家ではない。そもそも、お前ももう十家ではない。訳の分からないことを言っていないで、ここがどういった場所か自覚し、しっかりと反省しろ」

ここにいる時点で、十家としての資格は失っている。

井和倉もそれは変わらない。それなのに、未だに自分は十家の一員と錯覚している。

蓮司は、彼の物言いに呆れていた。

「ふん。俺は戻る。ここを出たら、もう一度十家になる。それだけの実力は有している。子とじゃれているお前とは違う」

言い返されて不機嫌になった井和倉は、側にあった椅子を蹴り飛ばした。

そして、苛立っていることが丸わかりな荒々しい歩調で立ち去った。

「……またですか。頻繁に挑発してきますね」

井和倉の背を眺めながら、留美が言った。

「仕方ない。井和倉家より炎泉家の方が十家内での階位が上だったからな。私たちが来るまで、この施設ではあいつが一番だった。だから、私たちが気に食わないのだろう」

炎泉家は第三位。井和倉家は第八位。

その実力には大きな開きがあった。

「それなら尚更、十家上位に当たるお父様への敬意が足りません。もう少し謙虚な態度で接してきても良いと思うのですが」

一連の会話を経て、留美が不機嫌そうに愚痴る。

「あれは元からああいう性格なのだ。自分には実力があると思って、上位に喧嘩を売り続けていてな。それ以外にも問題行動が多く、暴れすぎたので、ここに送られたのだ」

自分の実力は第一位に比肩するものだと豪語し、事あるごとに上位者に勝負を持ちかけていた。

時には挑発行為や奇襲など、強引な手に出ることもあり問題視されていたのだ。

それに加え、実力主義という免罪符を盾に、下位の者にも過度な暴力を振るい、たびたび謹慎処分も受けている。

そういったことが積み重なり、最終的にはこの施設へ送られる運びとなったのである。

「そうだったのですね」

「……もしかすると、何かの機会に自分の方が実力が上だと示そうと、仕掛けてくるかもしれん」

施設へ収容される前の井和倉の行動を思い出すと、ありえない話ではない。

「元々、十家の下位なのであれば、お父様が負けるはずがありません」

「うむ。だが、娘のお前のことを見られてしまったのは、あまり良いことではない」

一対一であれば、負ける要素はない。

施設内には結界が張られ、霊気の発現が抑制されているが、それは井和倉も同じ。

同条件であれば、問題なく勝てる。

そうなってくると、心配なのは娘の留美ことだ。

留美が一人の時を狙って、何か仕掛けてくる可能性もゼロではない。

「あいつに気を付けておきなさい。なるべく、一人になる状況を作らないように」

「心得ました」

こちらが注意を促すと、留美が深く首肯する。

と、娘の身を案じたせいか、他の心配事も浮かんでくる。

「それとは別に、お前のことで気がかりなこともある」

「私のことですか?」

心当たりがなかったのか、留美が首を傾げた。