軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外編2 亡国の王子は今日もガチで鈍感

フェリクス殿が来訪されたのは、秋の終わりだった。

半年に一度の定例訪問。外交の報告と、陛下との会談と、見黒様とのお茶。いつものことだった。

いつもと違ったのは、随行の顔ぶれだった。

フェリクス殿の後ろに、三人の女性が控えていた。

一人目は、銀の短髪に剣を佩いた騎士だった。背が高く、姿勢が良かった。フェリクス殿の二歩後ろに立ち、鷹のような目で周囲を警戒していた。

二人目は、眼鏡をかけた参謀風の女性だった。書類の束を抱えていた。フェリクス殿が立ち止まるたびに、書類の中から必要なものを差し出していた。

三人目は、柔らかい栗色の髪の女性だった。フェリクス殿の荷物を持ち、お茶の準備を整え、フェリクス殿の着衣の乱れをさりげなく直していた。

三人とも、美しかった。

三人とも、フェリクス殿を見る目が、同じだった。

わたくしでさえも、分かってしまうくらいの分かりやすさだった。

見黒様のお部屋でお茶の席が設けられた。

フェリクス殿と見黒様が向かい合って座られた。わたくしは後ろに控えた。

三人の随行者は、部屋の外で待っていた。しかし扉の向こうから、三対の視線がこちらに向けられているのを感じた。見黒様に対する視線だった。

警戒の視線だった。

フェリクス殿と見黒様の会話が始まった。

「フェリクス殿。随行の方々が変わったわね」

「ああ。騎士団長のレーナ、参謀のイルマ、侍従長のソフィ。三人とも優秀だ。レヴァンの復興に欠かせない人材で——」

見黒様がお茶を一口飲まれた。

「三人とも美人ね」

フェリクス殿が一瞬止まった。

「……そうか? 考えたことがなかった。有能かどうかしか見ていない」

見黒様が杯を傾けながら、何とも言えない表情をされた。わたくしが見黒様のあの表情を見たのは、珍しいことだった。何かを言いたいが、言うべきかどうか迷っておられるような。

「フェリクス殿。一つ聞いてもいい?」

フェリクス殿が杯を置かれた。

「何だ」

「あの三人は、いつからあなたのお傍に?」

フェリクス殿が指を折りながら答えた。

「レーナは建国の初年から。俺が一人で荒野を歩いていた頃に剣を捧げてくれた。イルマは二年目に登用した。財政の立て直しで力を借りた。ソフィは三年目だ。城の運営を全て任せている」

見黒様の目が細くなった。

「三人とも、あなたに命を捧げている、と」

「……大げさだな。仕事として信頼しているだけだ」

見黒様が、ちらりとわたくしを見られた。

わたくしは何も言わなかった。何も言えなかった。

お茶の席が終わった後、見黒様がぽつりと仰った。

「エル」

「はい」

見黒様が窓の外を見ておられた。フェリクス殿の一行が中庭を横切っていくのが見えた。

「あの三人。絶対、全員フェリクス殿のことが好きよね」

「……はい。一目でわかりました」

見黒様がこちらを向かれた。

「フェリクス殿は気づいていないのよね」

「……おそらく」

見黒様がお茶を飲み干した。

「それもまた、才能だわ」

わたくしには、それが褒め言葉なのか呆れなのか、判断がつかなかった。

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フェリクスが来た。半年ぶり。

門で出迎えた。

(お、今回は随行が————え?)

フェリクス殿の後ろに三人の女性がいた。

銀髪の騎士。剣を佩いて、鷹の目。かっこいい。

眼鏡の参謀。書類の束。知的。

栗色の髪の侍従長。柔らかい雰囲気。フェリクスの襟をさりげなく直してる。

(…………)

(ハーレムだ)

ハーレムじゃん。

銀髪クール騎士と、眼鏡参謀と、癒し系侍従長。これ、なろう系ハーレムの三種の神器じゃん。戦闘枠と頭脳枠と生活枠。完璧な配置。テンプレ通りすぎて逆に怖い。

三人ともフェリクスを見る目が同じだった。

(あの目。あの目は「好き」の目だ。前世の少女漫画で何百回も見た目。特に騎士の子。あの「主君を命がけで守る」系の目は、忠誠心じゃなくて恋だからね? 参謀の子も、書類渡すときの指の触れ方が近い。侍従長の子に至っては襟を直すのに三秒かけてる。襟直すのに三秒はいらないのよ)

部屋でお茶を飲みながら話した。

「フェリクス殿。随行の方々が変わったわね」

「ああ。騎士団長のレーナ、参謀のイルマ、侍従長のソフィ。三人とも優秀だ。レヴァンの復興に欠かせない人材で——」

(来た。「有能だから登用した」の説明。なろう系鈍感主人公の定番台詞よコレ。……ハーレムものハレンチありの世界線なのかしら)

「三人とも美人ね」

フェリクスが止まった。

「……そうか? 考えたことがなかった。有能かどうかしか見ていない」

出た!!!!!!

「考えたことがなかった」!!!!!!

(鈍感系主人公の最強台詞!!!!!! 前世で何百回ツッコんだやつ!!! リアルにいた!!! 目の前にいる!!!)

お茶を飲んだ。顔には出さない。出さないけど心の中ではのたうち回っている。

「フェリクス殿。一つ聞いてもいい?」

フェリクスがお茶を置いた。

「何だ」

(さりげなく聞いてみよう)

「あの三人は、いつからあなたのお傍に?」

フェリクスが指を折った。

「レーナは建国の初年から。俺が一人で荒野を歩いていた頃に剣を捧げてくれた。イルマは二年目に登用した。財政の立て直しで力を借りた。ソフィは三年目だ。城の運営を全て任せている」

建国の初年から剣を捧げた騎士! 幼馴染枠に匹敵する古参ヒロイン!

二年目の参謀は途中加入の知略系ヒロイン!

三年目の侍従長は後発の癒し系ヒロイン! 加入順まで完璧にテンプレじゃん!

「三人とも、あなたに命を捧げている、と」

「……大げさだな。仕事として信頼しているだけだ」

(「仕事として信頼してるだけ」。違うのよフェリクス殿。あの三人は仕事じゃなくてあなた個人に捧げてるの。わかってないの? わかってないんだろうな。前世のサラリーマンだったもんね。職場の女性の好意に気づかないタイプだったんでしょ。それがそのまま異世界に持ち込まれてるのよ)

ここで一つ、問題が発生した。

廊下で、三人の随行者とすれ違った。

三対の視線がわたしに突き刺さった。

(……あっ。わたし、今、ハーレムメンバーから「新キャラ警戒」されてる)

銀髪の騎士レーナが、わたしの前に立った。礼儀正しく頭を下げたが、目が笑っていなかった。

「見黒様。フェリクス様とは、どのようなご関係で」

出た!!!!!!!!

「どのようなご関係で」!!!!!!!

クラリッサさんと同じ質問! ハーレムメンバーから主人公の女友達への定番質問!

「お茶を飲む仲よ」

(またこの返答してる。万能だわこの台詞)

レーナの目が少しだけ緩んだ。「お茶を飲む仲」が、恋愛対象ではないと判断したらしい。

(よかった。わたしはハーレムに入る気ないからね。フェリクス殿は面白い人だけど、推しとして見てるだけだから。あの人はわたしの推しキャラであって、攻略対象じゃないのよ)

眼鏡の参謀イルマがちらりとこちらを見た。分析する目だった。

栗色の侍従長ソフィは、にこにこしていたが、目の奥に「この人は安全か危険か」の計算が見えた。

(三人とも、フェリクス殿の周りに近づく女を警戒してる。ハーレムの防衛本能。これ、前世のソシャゲのイベントストーリーで見たことある)

フェリクスが帰る日、最後にもう一度お茶を飲んだ。

「フェリクス殿。一つだけ、助言してもいいかしら」

「何だ」

菓子を一つ取った。

「あの三人のこと、大事にしてあげてね」

フェリクスが不思議そうな顔をした。

「大事にしているつもりだが。給与も待遇も、最上位の——」

「そういうことじゃないのよ」

フェリクスがさらに不思議そうな顔をした。

(……ダメだこの人。前世のサラリーマン脳が抜けてない。「待遇」で返すところが完全にそれ。給与じゃなくて気持ちの話をしてるのに)

「まあ、いつかわかるわ」

「?」

わからないんだろうな、しばらくは。鈍感系主人公は鈍感であることが強みでもあるのよ。気づかないからこそ全員に平等に接する。気づいたら、選ばなきゃいけなくなる。選べない限り、あの三人は全員がフェリクス殿の傍にいられる。……それはそれで、幸せな形なのかもしれない。

(でもいつか気づくのよ。なろう系の鈍感主人公も、最終回では気づくの。そのときが来たら、フェリクス殿がどうするか——わたしは読者として、楽しみにしているわ〜!!)

フェリクスの一行が城門を出ていくのを、窓から見ていた。

三人の女性が、フェリクスの周りを囲むように歩いていた。レーナが右、イルマが左、ソフィが後ろ。完璧なフォーメーション。

(……あれ、護衛陣形じゃなくて、ハーレム陣形よね。無意識にああなってるのが怖いわ)

エルがお茶を淹れ直してくれた。

「見黒様。フェリクス殿の随行の方々、大変優秀な方ばかりでしたね」

「ええ。優秀よ。いろんな意味で」

エルが石みたいに固まった。

「……いろんな意味、とは」

「エルにもいつかわかるわ」

(わからなくていい。けど多分エルもなんか察してるよね)

菓子を食べた。本を開いた。

前世では画面越しに見ていたハーレムラブコメを、今日、リアルで目撃した。感想:鈍感系主人公は実在する。しかも元サラリーマン。異世界転生しても鈍感は治らない。これは新しい知見だわ。