作品タイトル不明
42話「褒賞」
「これは使用者に魔法で水を作ってもらって、混ぜたら完成するんじゃないかな?それでリシアンが心配していた拒絶反応は出なくなると思うよ」
王城内の客室で待機しているけど暇だから、例の新薬……まぁディフレイアなしで毒の万能薬となり得る解毒剤は作れないかっていうやつな。
万能薬とまではいかなくても、かなり汎用性が高いところまでは持ってこれたんだけどあと少しが上手くいかなかった。
兄上に相談した瞬間これだよ。
「さすがですね、兄上!」
「最後の一つを埋めるだけの状態にしたのはリシアンだよ?僕は大したことはしていないよ」
兄上はそう謙遜するけど、マジでその最後の一つが全っ然分かんなくて苦労したんですけど。
作りかけの試薬に、自分で作った魔法の水を混ぜてと……
「……何を、飲もうとしてるのかな?」
「え?薬の効果を確かめるために、こないだ盛られたっぽいソムニフェルにリベンジをと思いまして」
ルミちゃんが俺が盛られて眠ったやつが何なのか、探ってくれたんだよね。
珈琲に添えられてた砂糖の中からソムニフェルが検出されたみたい。今は物証として保管されてるけど。
「リシアン?」
そこからは正座で、ソムニフェルの危険性についてを兄上から語られることになる。
非常に強い鎮痛作用があるけれど、依存症や過剰に摂取すると呼吸が抑制される。そうなると最悪は昏睡して死ぬこともあるのだとか……。
こっわ。何でそんな危ないもん盛られたの、俺。
「さぁ、君たちに褒賞を与える時間だよ!」
バーン!と勢いよく扉を開けてギンさんがやって来た。助かった。
「……二代目、何やってんの?」
正座で明らかに今まで怒られてましたスタイルな俺。
「王弟殿下も我々を置いていくのはお止めください」
少し遅れてやって来たルミちゃんと王弟専属の護衛騎士……この人、護衛の意味あんのかな。ギンさんが自由すぎるから、いつ見ても護衛騎士たちが不憫なんだけど。
そして場を改めて……あの、国王陛下とか初めて見るんですけど。側妃以外の王族が勢揃いしている。
「此度の一件は大義であった。リシアン、そなたの忠義はしかと受け取った」
忠義……?あれか、セイラン殿下の前に飛び出しちゃったアレのことか。
「アルケイン伯爵の犯した罪においては王国の根幹に関わる重大事項のため、一部は秘匿することとなる。ただ、厳正に処分はするのでそれで許してほしい」
「いえ、そんな……一番被害を受けたのはセイラン殿下なので!」
契約精霊簒奪魔法ってマジでふざけんなって感じだもんな。俺はヤバいソムニフェル盛られたのと、攫われてボコられただけで。……うん、わりと怒っていいやつだったわ。
「表向きにはアルケイン伯爵の盛った毒により倒れたセイランを、そなたら兄弟が救ったことになるがよいか?」
なぜ、許可をもとめてくるんだろう。王様めっちゃやさしくていい人なんだな。
「陛下の仰せになるままに……」
なるほど、こう返せばいいのか。俺も兄上に倣った。
王家としては生誕時にザファルドにより毒を盛られたセイラン殿下を、かねてより兄上が献身的な医療でその生命を繋いだ。
そして兄上から依頼を受けた俺が辺境から薬草を持参し、それによってついに解毒が成功したという筋書きになるそうだ。
「レオナリス・ヴァルディリア。今までよくセイランの生命を繋いでくれた。医官副総長として、今後も励んでほしい」
兄上、王城の医官に復帰できるってことだよね?あと医官副総長って二番目に偉い人……!
「ヴァルディリア子爵家の多大なる貢献に伯爵位を新たに授ける」
更に家格が上がった。
「リシアン・フェルネス。そなたには自由を保証する。王族への不敬も一切問わない。どこの貴族からの干渉も王家が許さぬ。辺境で薬師でも冒険者でも……自由に生きよ」
ポカーンとする。兄上への褒賞を聞いて、爵位とか言われたらどうしようかと思ったんだけど……自由の保証って何?
褒賞ってこういうのもありなんだ。
「ありがたくお受けします!」
「爵位や王家の領地の一部を譲ろうとも思ったのだが、どうだろうか?」
「こちらで!ぜひこのままでお願いします!」
即答した。いらない……爵位も領地をもらってもどうしていいのか分かんない。
「ほーら、兄貴。俺の言った通りじゃん」
盛大にドヤって国王陛下に絡みだしてる……ギンさんが、俺にはこういうのがいいって口添えしてくれたんだな。
感謝はするけど、国王陛下に絡む姿で尊敬はできないなって思った。
「そしてリシアン・フェルネスは今後、リシアン・ヴァルディリアと名乗ることを許す」
ヴァルディリア姓を名乗る?
「リシアン、復籍してレオナリスくんと正式に兄弟に戻るんだよ!それが一番喜ぶんじゃないかなーって思ったんだけど……違った?」
恐る恐る聞いてくるギンさん。
「ありがとうございます」
絞り出すように声を出して、しばらく下げた頭はそのままだった。
泣きそうなくらいうれしい。自分がどんな顔をしているか分かんなかったから、上げられないんだけど。
隣で一緒に頭を下げている兄上をそっと見たら、涙ぐんで笑っていたんだ。
「ブラコン兄弟がマジでエモい!」
「叔父上、今は彼らをそっとしておいてください」
「空気読めって言ってんだろ」
愛する甥っ子二人によって、ギンさんは強制的にその口を塞がれた。
他の貴族たちに事の顛末を取り急ぎ通達がなされる。ザファルドは……情報を出来る限り搾り取ったあとに年内には処されるそうだ。
そして俺らへの表彰は新年祭にやるらしい。
またその頃に辺境から王都に行かなきゃいけないのか。
面倒だけどまぁ……こっちの知り合いもけっこうできたし、行きたくないほどではないからいっか。目立ちたくはないけどな!
王妃陛下からもお言葉をいただき、セイラン殿下と第二王子殿下からも改めてお礼があった。
そんな俺的にはだいぶハードモードだった王族勢揃いからやっと解放された。ギンさんもなぜか一緒に退席した。
「二代目も俺だけのが緊張せずに話せるでしょ?謁見とか慣れてなさそうだし、俺から詳しく説明するよ!」
明るく笑ってるけど、この人そんな気遣いができたんだ。そう言えば大人だし王族だし、今回の件でちょっとギンさんを見る目が変わった気がする。
兄上はセイラン殿下から話があるということで別行動になった。
初めて入るギンさんの私室には……
「さっき、俺だけのが緊張しないからって言ったじゃん?!」
「ルイたんが二代目ともっと話したそうだから呼んじゃった☆」
第二王子殿下がすでにいた。
「まあまあ、いいじゃん。チーム弟ってことで」
「リシアンが嫌なら出ていきますけど」
残念そうにする第二王子殿下だけど……ギンさんを黙らせることができるのは溺愛している甥っ子二人だし。むしろいてもらった方がいい。
「私のことも名前で呼んでくださいね!叔父上や兄上たちからよく話は聞いていたから、話してみたかったんだ」
屈託なく笑うルイシン殿下だが、中々の苦労人だった。側妃である母はザファルドの親戚、さらに王太子の座につくよう厳しく育てられたらしい。
本人としては優秀なセイラン殿下を王太子にと思ってたみたいだし、今回の一件もザファルドからの情報を引き出すのに一役買っていてくれたんだって。
え、めっちゃいい子じゃん……。
「叔父上とルミスがいなければ、どうなっていたか分からないけど」
とか言ってるけど、いたんだからいいじゃん?いなければなんて仮定しても、今はこうやって素直ないい子に育ったわけだし問題ない。
今後の立場は厳しくなりそうだけど、元よりセイラン殿下が立太子されたらギンさんみたいに臣籍降下する予定だったから大丈夫って言ってる。
「何か困ったら、俺で力になれることがあったら尽力するので」
そう言ったら「実戦向きの魔法を教えてください」だって。もう少しだけ王城に滞在するから、それまでならと了承した。
「そういえば霊廟にいた水属性の精霊の主人について調べてほしいんですけど」
と聞いたら、始祖の精霊様により解決済みだった。やっぱ冤罪だったみたい。
というか、その人はお蚕さんたちのことを「守護獣」じゃなくて「魔獣」と歴史を変えたやつのやらかしを止めようとしてたんだって。
「幻蚕も正式に守護獣として発表するよ。繭の採取も今後は王家の許可制に法改正を急ぐ。あぁ、二代目は今まで通りで気にせず採取していいよ。スノウモスルァーと仲良くね!」
守護獣となったお蚕さんたち……。王国がそんな感じにしてくれるなら、狙われることも減るだろう。
それでも狙ってくるようなのはガチで悪いやつ。か弱いお蚕さんたちは、もっと強くなってもらわないと心配だと俺は思った。
俺も今回ので、さすがにスノウモスルァーがめっちゃ強いことは理解した。
とりあえず群れの皆にも、スノウモスルァーと同じくらい強くなってもらわねばと思った。