作品タイトル不明
41話「真相と英雄の求めるもの」
国王、王弟、そして王子である私たち。
一番高い位置にはグラティア王国の初代国王でもある始祖の精霊様が腰掛けている。
「少し目を離した間にこうも忘れ去られるものとはな……」
一体の水の精霊様を携えた始祖の精霊様が物憂げにそう仰る。
「お前たちに怒っているのではないよ。知らないなりによく健闘したと思っているよ。愚かで可愛い私の子たち」
慈愛すら感じさせる笑みだけど、私たちが彼の子孫だから甘く……目溢ししてもらっているのだろう。
「さて、守護獣の言い伝えはどこで途絶えたか分かるか?」
この小さき者は知っているけどねと手元の水の精霊を愛でながら問われる。
守護獣とは 幻蚕(ファントムモリス) だ。……私たち王族の衣装の一部にもその繭から作りた糸が織り込まれている。これには守護魔法とよく似た、魔法攻撃への耐性がある。
成人の儀でも国を守る貴族たちへ贈るそれは確かに……魔獣というより守護獣と言ったほうが納得がいく。
「四代前の王太子だったソウキュウ様ですか?」
叔父上が迷いなく答えている。
現代にも通じる数々の魔法を構築されたが、魔法の力を使いすぎたことで惜しくも魔力を失われ王位につくことはなかった方だ。王家屈指の天才と呼ばれたソウキュウ様が?
数々の功績を残され、彼が魔力を失わなければ王国の発展はさらに進んでいたと今でも惜しまれている方だ。
「なぜその名が……?」
「だーって歴史が不自然じゃん?歴史を学んだ時にピンときたね!これは現代知識チート炸裂しまくってるなーって」
叔父上いわく「ドヤ顔」……まぁ、誇らしげに語っているけど。
「その子も私の最愛と同じ故郷を持つ者なのだな。聡い子だ」
「始祖精霊様が俺のこと聡い子だって!聞いた?セイたん、ルイたん!」
激しくアピールしてくるのはやめてください。
ルイシンも横で「恥ずかしい……」と言っていますよ。
「……ギンケイ、少し黙りなさい」
父上に押さえつけられている……よかった、私の弟はルイシンで。父上やレオナリスを見ていると特にそう思う。
魔法の力を失ったのは……今回のザファルドの一件と同じだ。幻蚕の裁定により剥奪された。
「そちらの子も気が付いたな。人間が精霊を意のままに利用しようとは烏滸がましい。ソウキュウも弟から裁定にかけられたのだよ。そして魔力を失った」
ソウキュウ様の弟王子は……彼を害そうとした罪によって処罰され、赤の霊廟にてその生涯を終えられた。
「この子がリシアンと約束したそうだよ。ここから出るのに協力すれば主人の名誉を守ると。……リシアンには私の子たちも世話になっているからな」
水の精霊様がこちらをじっと窺っている。
「……ツキカゲ様の名誉の回復に尽力致します。そして幻蚕が守護獣であるということもまた、国民へ周知徹底するとお約束します」
父上と同じく私たちも頭を下げる。
「それにしても何でソウキュウ様は幻蚕のことを守護獣じゃなくって、魔獣ってことにしたんだろうね?」
「ギンケイ!」
叔父上は何でそんなにマイペースなんでしょうね。
「よい。説明してやろう。幻蚕たちはまず、私の支配下にある。私の代わりに人間たちが精霊を利用しないかを見届けてもらっている。ソウキュウや今回のザファルドか……あやつらのような者を裁定にかけている。ソウキュウはそれが邪魔だったのだろうな。魔獣ということに仕立て上げ、利用価値のある繭だけを得ることを正当化しようとしたのだろう」
何てことを……。
「仮にソウキュウやザファルドが目論みが成功した暁には、幻蚕が全ての人間から魔法を剥奪して精霊たちを守るから問題はないがな」
「それめっちゃヤバいやつじゃん!」
父上と私とルイシンは顔から血の気が一気に引いた。
「だが君は魔法に頼らない道を模索しているのだろう?」
可笑しそうに始祖の精霊様は笑っている。
「治癒魔法も完璧ではないですからねー。俺としては、他の分野は放っておいても発展していくと思うんですよ。ただ医療に関しては一歩も二歩も遅れが!」
早口になりながら語る叔父上に始祖の精霊様は
「励むがよい」
優しい目をして、そうお言葉をくれた。
叔父上の目指す治癒魔法に頼らない医療というものは、どんなものなのだろうか。
今度、日本の医療とはどんなものだったのかを聞いてみようと思った。
「あとそうだ!セイたんに向かってザファルドが魔法を放ったら、リシアンに当たる時にこうパーンって弾かれたあれは何だったんですか?」
あの時、リシアンは「王族の守護魔法」と言ったが違う。私も叔父上もその場にいたが……守護魔法とはあのようなものではない。
ただ叔父上も叔父上で予測不能だから……私はあの時、あれは叔父上がしでかしたことかリシアンだったのか判断がつかなかった。
「リシアンの従魔の魔石が反応したな。あの魔石は魔法を反射する」
魔法の無効化だけではなく反射まで……。そう言えば去り際のリシアンが見知らぬネックレスを付けていたが、あれか。
「魔石が反応したからリシアンの従魔が自分をその場に連れて行けとうるさくてな……主人に似たのか自由なやつで困る」
困ると言いながらも楽しそうにしている。
「えー?でも幻蚕は始祖精霊様の配下なんでしょう?困らせるなんてしょうがないやつですね」
隣でルイシンが「どの口が言ってんだよ……」とか言うから、笑いを堪えなくてはならなかった。
「幻蚕の成体は皆、そうだな。成体になる時に私に忠誠を誓うが……あれだけはリシアンが幼体の頃に従魔化したイレギュラーだから仕方あるまい」
つまるところ我々王族は……リシアンに多大な恩恵をもたらされたということになる。
ザファルドはリシアンの従魔の魔石によって、発動した精霊簒奪魔法の反射を受けた。
そして私の元へ守護精霊が返ってきた……リシアンがあっさりと「主人のもとへ帰れ」と命じたからだ。
従魔が裁定を行いザファルドは無力化され、さらには過去の王族の犯した罪の真実も明らかになり……これをどう公にしろというんだ。
「私たちは彼にどう報いたらいいのだろうな……」
父上も頭を抱えている。
あわや魔法が使えなくなったかもしれない今回の事態。魔法が使えなくなったら人間は、魔獣の跋扈するこの世界。滅びゆくのも時間の問題だっただろう。
「あれは自由にさせてやれ。見ていて面白いからな。そこの……ギンケイ。お前なら彼の気持ちも分かるだろう?」
そう仰って立ち去ろうとする始祖の精霊様に気になっていたことを聞く。
「一つ、お伺いしたいのですが……リシアンは精霊の愛し子なのですか?」
「いや?愛し子は私の最愛だけだよ。あれはただ見ていて面白い」
始祖の精霊様の最愛……妻であり初代王妃だった方、彼女だけがそうだと言う。
「面白れー女枠……いや、面白れー男枠だったのか」
叔父上だけが納得してるけれど、私にその感覚はよく分からない。
場には私たち現王族だけとなり、宰相ら極一部の貴族も呼んでの緊急会議が始まった。
「救世の英雄ではないですか……!」
感嘆する宰相に
「いや、あれは無自覚やらかし系だから本人にその自覚はないと思う」
身も蓋もなく言い返す叔父上だが……そうだな。あれはもうそういう生き物なのだろう。
「私も少し会いましたけど、寡黙な切れ者ではないんですか?叔父上や兄上から聞いた人と違って見えたんですけど」
「ルイたん、あれはね……他所行きの顔なだけ。たぶん急にルイたんに話しかけられて、よく分かんないから黙っとことか思ってるだけだよ?」
ルイシンは「えー?」とか不満そうにしているけれど、リシアンの気持ちはたぶん叔父上が一番理解度が深いはず。
「今はフェルネス男爵子息か?新たに爵位を与えるのはどうでしょうか?」
「面目はどうする?王国の根幹が揺らぐ事態だから全てを明かすことは出来ない」
悩む面々を見て叔父上が
「リシアンのことだから爵位なんていらないって。本人がすごく嫌がるから」
皆、叔父上のことを「理解できない」って目で見るけれど、正しくそうだと思う。
「始祖の精霊様からも、叔父上ならリシアンの気持ちが分かるとのお言葉がありますので」
さらに第三騎士団から「王族の守護魔法がすごい!」との噂は瞬く間に城内に広まっている。
それに加えて「第一王子殿下がご快癒された」「神々しい精霊様が顕現され悪を裁いた」これらの噂もすでに収拾がつかない。
真実を伝えても信じてもらえないか、王家の威信がなくなりそうだ。
「リシアンが王族の守護魔法って言ったから、もう乗っかるしかないと思うんだよね。本人も英雄扱いとか爵位とか何も求めてないわけだし」
「英雄殿に何てことを言うのですか」
「王国……いや、人類の危機を救ったお方ですよ?」
一斉に怒られる叔父上。
「王弟殿下は彼が求めるものが何なのか分かるって言うんですか?!」
宰相から一喝されたのだが
「分かるよ?自由と――……」
誰も思っていない答えだった。
だが、リシアンを知っている私からすればひどく納得する簡単なものだった。
「そんな事では割に合わないだろうに……王命にて彼の自由は私も保証しよう。他の貴族にも彼のそれを妨げる一切の手出しを禁ずる」
王命にて自由の保証とは破格だ。前例のない褒賞となる。宰相含む家臣たちも納得のいくものとなったが。
「父上、レオナリスとトピリア侯だけはその条件から外してください。あの二人の言うことならリシアンも大人しく言うことを聞きます。いざという時に彼を止めることの出来る者は必要です」
公式発表にはどこまでの事情を明かすものか……夜が更けても会議は続いた。
「二代目マジ暴走列車ー」
呑気に笑っている叔父上……列車の意味は分からないが本当に、ルイシンの言葉を借りるなら「どの口が言ってんだよ」と思った。