作品タイトル不明
12話「兄上、びっくりしました」
十二話「兄上、びっくりしました」
拝復 リシアン
リシアン、元気にしているかい?少しでもおかしなところがあったらすぐにお兄ちゃんに言うんだよ。
もうじき、リシアンがよく言っている熊の狩りが始まるのかな?ただの熊なら大丈夫だと思うけれど、辺境大森林には 大牙熊(グラズバルト) という危険な熊型魔獣も出ると聞きました。危ないと思ったらすぐにゴルディくんと逃げるんだよ。辺境の
*──*──*──*──*
兄上から手紙が届いた!届いたんだけど……これ、明らかに書きかけなんだけど?
あの兄上がこんなミスをするなんて心配だ。かなりお疲れなのかな?これにはどう返事をすれば……と思いつつ、森へ向かう。
何となく今日は山鳥が食べたくなったから一狩りいこうかなと思ってさ。
森の中層部まで来たところでひょこっとスノウモスルァーがやって来た。
「スノウモスルァー?!何でこんなとこに?」
いつもは住処の深層部にしかいないのに……。この辺だとそこらの冒険者に見つかっちゃうじゃん!
か弱いんだからこんなところをウロウロされたら心配になる。
「ほら、スノウモスルァー帰るよ?群れのとこに戻らないと」
抱きかかえようとすると、スノウモスルァーはふわっと高さを変えて「こっちこっち」と先導するように舞っている。危なかったら無理にでも捕まえたらいいかな……と思いながら、そのままスノウモスルァーに付いて行くことにした。
そうして辿り着いたのは、いつものスノウモスルァーの群れがある場所。
相変わらず数十匹のお蚕さんたちが舞う幻想的な風景……の中に妙に馴染んでいるけれど、いつもと違う何かがいる。
透き通る白銀の長い髪、尖った耳の美しい人がお蚕さんや色とりどりの精霊たちに囲まれていて……絵画の一枚のようだ。
「……マジモンのエルフいるじゃん」
ポカーンとしばらくその光景を見つめる。
「あぁ……人間の従魔の子か。主人を連れてきたんだな」
こちらを向いたその人が言う。
「従魔……?」
「お前の従魔だろう?そこの 幻蚕(ファントムモリス) は。小さき者たちが最近お前の話ばかりでな、一度見ておきたいと思ったんだ」
そんな何を言っているんだ?ってテンションで言われても。
……従魔。それはテイムされた魔獣のことを指す。あとスノウモスルァーのことを幻蚕って言った?
「待って、誰?!あとスノウモスルァーって幻蚕……ってか俺、テイムした覚えはないんだけど?」
大混乱だ。見知らぬ美形から、かわいい白くてもふもふな友達が最強クラスの魔獣と言われても……何?!
「私はこの小さき者たちを統べる者だよ。君はそこの幻蚕に魔法で癒やしを施し、名付けたそうじゃないか?治癒魔法で従属させるとはまためずらしいが」
面白そうに笑っている美形だけど、俺は笑えねぇよ?!
テイムってそもそも、こっちのが強いと魔獣に示して、名付けによって従わせること……のはずだよな?
「スノウモスルァーは今はこんな大きくなったけど、か弱くて……。えっ?辺境固有のただの大きなお蚕さんじゃねぇの?」
魔獣感なんて全然ないよ?!
「確かに幼体の幻蚕は弱きものだが……命じただろう?強く大きく育てと」
スノウモスルァーもうんうんと頷いている。
……言ったな。確かに別れるときに、か弱くて心配だったからそんな感じのことは言った。
その後も会うたびに「もっと大きくなって群れを守るんだぞー」とか言ってた気がする。
「でも幻蚕って何かヤバくて強い魔獣って話じゃん?スノウモスルァーはめっちゃ大人しいし、そんな生き物じゃねぇんだけど?」
そんな……俺のスノウモスルァーが目からビームとかやるわけないし。
「……私の存在よりそこの従魔が幻蚕かどうかの方が気になるのか。変わっているな。まぁ、いい。幻蚕で作った道具を持っているだろう?出してみなさい」
言われるがままに、この間も使ったロープを取り出す。何か、やたら神々しくて美形の言われたことについ応じてしまう。
「紐状の簡易魔法結界か。そこの木の間に結びつけてみるといい」
ロープを結んだところに、スノウモスルァーが目からビームを放つ。ビームはロープのところで弾かれて霧散した。
「このボス個体の幻蚕の糸を使っているからな。この通り、ある程度の魔法なら無効化される。これで幻蚕っていうことは 理解(わか) ったか?」
分からざるを得なかった。えぇ……マジか。
スノウモスルァーは「どう?すごい?」みたいに褒めてほしそうに俺の周りを飛び回っている。抱きかかえて無意識に撫でる。癒やしの手触りに少し落ち着く。
「……幻蚕の糸を使ったってバレたら絶対、師匠に怒られる」
はたと気が付いた事実に固まる俺。やべぇ、確実に拳骨が落ちる。これだけで済めばいいけど、朝まで説教パターンとか師匠の狩った獲物を延々と解体と下処理とか……。確実にヤバい。
ん?でも、師匠が「使うなよ」って言ってた前にお蚕さんからもらった繭じゃなくて、スノウモスルァーがボスに就任したときにくれた繭だしセーフかも。
うん、スノウモスルァーがボスになったのは師匠が出て行った後だしきっとセーフ。
「考えがまとまったようだが、リシアン。お前は本当に面白いな」
興味深そうに俺を見て笑っている美形。
「まぁ、とりあえず怒られそうにないから大丈夫かなと思って。で……エルフですか?」
「エルフなぞ、お前たち人間の子どもくらいしか信じていないだろうに?言っただろう、私はこの小さき者を統べる存在だ」
……何かサンタさんを信じる子どもと同列にされた。
「高位の、精霊とかですか?」
お蚕さんたちも、いつもの精霊たちもこの人の前では大人しい。何か格が違うって感じ。
「そのようなものだな」
「へぇ、高位の精霊だとデカいしフツーに話せるんすね」
いつもの精霊たちは精霊言語しか話さないし、あんなちっこいのに。この高位の精霊は俺よりも背が高い。
「大きさは……変えられるが?お前たちの言葉を話せるのも長く生きているからな」
ポンッと周りの精霊たちと同じ大きさになってくれたが、神々しい光は健在で……
「何か小さくなると逆に浮きますね。すげぇ目立ちます、それ」
明らかに輝きが違って違和感がすごい。
「お前は小さき者たちから聞いていた以上に面白いな。リシアン、最近こちらの言葉が聞こえるようになったんだろう?そのことをどう思う?」
「え?発音めっちゃ難しいなって思ってます。何かちょっとうまく言えないとバカにされてんのも分かるし」
思い出してもちょっとイラッとくるし。
「そうか……。私もお前のことが気に入ったよ。それなら少し、話せるようにしてあげようか。いい触媒もあるから借りるぞ」
そう言って俺の耳飾りをそっと外した。
飾りの魔石を包み込むようにして、二筋の光が魔石の中へ吸い込まれていった。
「二属性複合魔石だったから、翻訳と精霊言語を話せる機能の両方を付与しておいた。試してみるといい」
手渡された耳飾りを付けると
『リシアン!』
『これでもっと話せるね』
『ねぇ、僕と契約して遊ぼー』
一斉に話しかけてくる精霊たち。
『えっ、どういうこと……!』
フツーに話したつもりが精霊言語になってて、思わず口を押さえる。
意識すると精霊言語ではなくフツーに話せた。ちょっとビビった。
「……高位の精霊ってマジすげぇ」
「ほら、リシアン。小さき者たちの中にはお前と契約したい精霊も多い。……お前なら、好きなだけ連れて行ってもいいぞ?」
そうは言ってくれるけれど日がな一日、精霊たちは俺の周りをウロウロしている。
……いらない、そんなにいっぱい。絶対うるさいだけじゃん。
ちなみに魔獣のテイムと似た流れで精霊契約もできると高位の精霊が教えてくれた。いわく、彼らにとって面白かったりすごい魔法を指示されたとき。そして名付けを精霊が受け入れることにより成立するそうだ。
……これ、家庭教師のやつらが教えてくれなかったことだな。兄上には契約精霊がいたから、俺も契約精霊がほしかったのに「所詮、庶子でしょう?教えても無駄です」「貴族学院に行かないと精霊契約は出来ませんよ。そんなことも知らないのですか?」って。
兄上がいなくなってからは、ロクに教えもしてくれなかったくせに。思い出しても腹が立つ。
「あー……じゃあ、こっちの言葉でリシアンって呼んだら契約してやってもいいよ!」
ポカーンとする精霊たち。爆笑する高位の精霊。
少しは、精霊言語の発音に苦労した俺の気持ちが分かればいい。
「あと先着一体な!」
「これに挑戦する者は翻訳機能の対象外にしておこうか。きっとその方が分かりやすいだろう?」
楽しげに高位の精霊がそう尋ねてくる。
「マジっすか。ありがとうございます!」
精霊たちは『せっかく話せるようになったのに』とか言いながら悩み始め、この条件だけでもだいぶ数が絞られた。
しばらくは静かになると思いきや、精霊たちはこれを面白がって「リシアンチャレンジ」と呼び始めた。
誰が契約されるのか気になるやつらも見学について回るしで……結局、うるさいことに変わりはなかった。
あと当初の目的の山鳥はちゃんと狩ってから帰った。
精霊たちが契約してほしいアピールとして、別にもういらない……って量を持ってきた。一羽でいいし、そもそも自分で狩れるし……こんなに食べ切れるか!