作品タイトル不明
11話「兄上、ベリー摘みに行きました」
拝啓 兄上
今日はミレア姉さんと託児院の子どもたちとベリー摘みに行きました。
久しぶりの子どもたちは元気いっぱいで、相手をしてたらちょっと疲れました。ミレア姉さんが余ったベリーはジャムにしてくれるんですけど、これが絶品です。
きっと甘い物がお好きな兄上のお口にも合うと思います。
*──*──*──*──*
「ほら集合ー!いいか、お前ら。このロープから先には絶対に行くなよー?」
「リシアン、荒っぽい言葉はダメよ?さぁ、みんな頑張ってベリーを集めてね。これが終わったらお菓子作りもしましょうね」
やさしく話し掛けるミレア姉さんは流石だなと思う。
「はーい!」と素直に返事をした子どもたちが元気よくあちこちへと散らばっていく。
今日は春恒例のベリー摘み。
子どもは苦いと飲んでくれないから、ミレア姉さんが混合用に果実でシロップを作り始めたのが切っ掛け。大人までこっちがいいと言い出し、増やす羽目になったから大変。
今回のベリー摘みは託児院の子どもたちも一緒だ。子どもって低いところのベリーまで採ってくれるから、けっこう戦力になるんだよな。
辺境の街では冒険者の親を持つ子どもたちも多い。
そして、危険を伴う冒険活動で親を亡くす子どもが……やっぱりいる。親を亡くしてしまった子、母子家庭、事情があって日中だけ預けられる子たちが街の託児院に集まってる。
最近、街には新しい菓子店が出来た。ミレア姉さんが不定期で薬店に薬草菓子を置いていたんだけど、それが評判になってさ。
店を出してほしいと言われても薬店もあるから無理だし、レシピだけを提供して菓子店は別の人たちで運営することになった。
その中には託児院に子どもを預けている母親も多い。彼女たちは菓子店と隣接した加工工房とで働いている。
ちなみに菓子店が出来るとき、俺が話してレシピ提供をしたミレア姉さんにも菓子店の売上の一部が入るようにしといた。
「隠すほどのレシピでもないし、何もしていないのに売上金の一部を受け取るなんて……」
と言っていたけど。
「ミレア姉さんが何回も試作して開発したレシピなんだし、当たり前のことじゃん?別に腐るもんでもねぇし、もらえるもんはもらっとこ!」
「後半で台無しよ、リシアン」
と呆れたように言われたっけ。
結局、ミレア姉さんは託児院の子どもたちの薬代は受け取らない。その親もまた、通常より安く薬の販売をすることで折り合ったようだ。
今回、子どもたちが摘んだ分はその菓子店で使用される。ちょっとした職業体験も兼ねているそうだ。
俺とミレア姉さんが採った分は薬店用。余りが出ればジャムも作ってもらえるし頑張ろう。
採取に来ている辺境大森林の浅層部……その中でもかなり浅い位置でも、やっぱ多少は危険もあって子どもたちは冒険者か猟師の大人が同行しないと立ち入れない。
俺は冒険者もやってるし、ミレア姉さんもこう見えて魔法が使える。冒険者に憧れる子どもは多いし、今日はほぼボランティアみたいなもんだな。
さすがに二人で子どもたち全員を見るのは難しいし、スノウモスルァーの糸も少し織り込んで作ったらちょっと頑丈になったロープで採取エリアを区切った。
精霊たちを等間隔に配置して、見張りも頼んだからこれで安全性に問題はない。
「ちょっと木属性のやつら手伝ってー、俺を」
そう声を掛けたら精霊たちが集まってくる。ついでに子どもたちもわっと集まってきた。
「精霊さんだー!」
「薬師のお兄ちゃん、すごーい」
「わたしも精霊さんと一緒にするー!」
え、待って。俺、子どもってどう扱ったらいいか分かんねぇし苦手なんだけど?!
やたら危なっかしいし、すぐ泣くしさぁー……。ミレア姉さんに助けを求めるように視線を送っても「うんうん」と微笑だけでそのままスルーされた。微笑ましい光景じゃなくて、俺は困ってんだけど……。
ゴルディに助けを求めようにも普段から子どもたちに怖がられることが多いので気遣ってか、離れたところで周囲の警戒をしている……。
「……よし、一人一体ずつ精霊を連れて行け。それで勝負な!一番多くベリーを採ってきたやつには街で何でも好きなものを買ってやるよ。ほら、行ってこい」
何とか子どもたちを離すことに成功した。これでやっと落ち着いてベリー摘みが出来る……わけではなかった。
ロープを乗り越えようとする子どもを捕まえに走ったり、女の子に虫をけしかけて泣かせた男の子の仲裁に入ったり……落ち着かねぇ。
結局、いつもの半分も採れなかった。まぁ、それでも子どもたちには勝ったけど。
「薬師のお兄ちゃんずるーい」
「森の中に住んでるから慣れてるんだろ」
「大人げなーい!」
うるせぇ、負けたやつは文句を言うな。あと森の中には住んでいない。ちゃんと麓だ。
子どもたちを菓子店近くの加工工房に送り届け、やっとでミレア姉さんの薬店に帰り着いた。
「疲れた……」
こっちに帰って来ると落ち着く。実家に帰ってきたみたいな感じ?
「お疲れ様、リシアン。子どもたちとずいぶん楽しそうだったわね」
ミレア姉さんが冷やしたお茶を注いでくれる。
「そんなことないからね?俺、やっぱ子どもって苦手かも……」
ミレア姉さんの魔法で氷が浮かんだそれをちびちび飲みながら項垂れる。
「そうは見えなかったけど?でも、リシアンもたまには誰かに振り回された方がいいわ。……少しはわたしの気持ちが分かった?」
そう言っていたずらっぽく笑うミレア姉さん。ん?俺って子ども扱いされてんの?
「それじゃあ、店番をお願いね?わたしはシロップを作ってくるから」
店番くらい慣れたもんだけど……残りを一気に飲み上げた。
甘いベリーの香りが満ちていく中、久しぶりの店番。冒険者がいないとこんな落ち着いて静かなんだな。
「あら、今日はリシアンなの?久しぶりね」
街の人との交流を楽しむことしばし。風の精霊が少し外の音を大きくして届けてくれた。
「なぁ、ここが噂のめっちゃ美人がいるっていう薬店だろ?」
「薬も甘くて飲みやすいって評判のな!それでいて腕も確かなんだろ?マジでこっちを先に知っとけばなぁ……」
勢いよく店のドアが開いた。
「いらっしゃい?」
「「「チェンジで!!」」」
「だからチェンジは出来ねぇよ!何しに来た、スピナシア?」
まったく、こういう輩が街の薬店には来ないようにしてんのにさぁ。
「リシアン?お店で大きな声を出さないの。どうしたの?」
様子を見に来ようとしているミレア姉さんを押し留める。
「何でもない!ちょーっと顔見知りの冒険者が俺の店が開いてないから来ちゃったみたいで……ミレア姉さんは裏に行ってて大丈夫だから」
……ミレア姉さんの顔は見られてないな?
「見えた?」
「いや、後ろ姿だけ……ラベンダーアッシュの髪色しか分かんなかった」
「……リシアンさんがもう少し小さかったら」
よかった、見られていないな。ミレア姉さんはこういう声の大きなバカって苦手そうだし、なるべく近付けたくない。
「いちいちうるせぇな。で、何?どこが悪いの?頭?」
とっとと帰れよ、元気そうな三馬鹿。
「リシアンさん、ひどくないっすか?えーっと……ここ!ぶつけちゃってー」
黄色く変色した打ち身ってもう治りかけだろ。
「あっそ。じゃ、フェラティマの軟膏出しとくな」
「……何か、リシアンさんの店のよりだいぶ高くないっすか?」
そりゃあ冒険者向けじゃないからな?独特の臭いもだいぶ抑えられてるし。容器だってお前らがすぐダメにするせいで、俺のとこは使い捨てにしてんだよ。
「……割引きは俺の店だけなんだよ。夕方には俺も店に戻るけど?」
「また来ます……」と言ってスピナシアは手ぶらで退散した。てか、またあいつら金欠なのかよ。
そうこうしていたらミレア姉さんのシロップの調合が終わったみたい。ベリーの種類ごとに、それぞれ違った薬草を配合して防腐と抗菌の加工がなされている。ずらりと並んだ微妙に色の違う瓶は壮観だ。
季節ごとに違った果実で作られるシロップはどれも好評で、他の薬師たちもこぞって作り始めた。
今ではベリーならここ、山葡萄ならあの店が……などと年々、改良が進んでいる。
俺のとこ?冒険者なんざ効きゃあいいんだよ。少しでも薬代を抑えてやりたいし、そんなサービスまではしてねぇ。
半端に余った数種類のベリーをミレア姉さんがジャムにして持たせてくれた。いつもの瓶より小さい……。
ベリーの季節はまだ続く。シロップは一年ほど保存が効くから、あと何回かはミレア姉さんのところに届けてストックがほしいところ。
今度は一人で行って精霊たちにも頼んでもっと採って……ジャム、もうちょっと作ってもらおう。