軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10話「兄上、白くてもふもふな友達です」

拝啓 兄上

今日は白くてもふもふな友達に会いに行きました。

お蚕さんなのですが大きくて、両腕で抱えるサイズ感です。真っ白でもふもふでしっとりした手触りは病みつきです。そしてか弱いから、たまに様子を見に行ってます。また群れの数が増えていたし、元気そうでした。

もちろん俺も元気にしています。

*──*──*──*──*

俺には定期的に森に会いに行ってる友達がいる。まぁ、友達とは俺が思っているだけかもしれないけど。

向こうも懐いているからたぶん大丈夫。

真っ白でもふもふで、しっとりとした艶がある魅惑の毛並み。両腕に抱えられるサイズ感も満足度が高いポイント。それが辺境大森林のお蚕さんだ。

師匠は「 幻蚕(ファントムモリス) 」という蚕型魔獣で危険がどうとか言ってたけれど、俺の友達のお蚕さんとその群れは違うと思う。めっちゃ大人しいし、か弱かったし……。

ミミズの一種の 地竜(ジリュウ) みたいなやけにデカいのもいるし、辺境大森林の固有種はたまにサイズ感がバグってるもんだと思う。

そういや師匠が旅に出る前に、俺が数年前にお蚕さんからもらった繭を「これの成分分析もしてくるから使うなよ、絶対に使うなよ!」と言い残していたっけ。

去年の冬にお蚕さんにまた新しい繭を貰ったから、こっちなら師匠に言われた方じゃないしいっかと思ってちょっとだけ使った。熊狩りで使った射出機の糸。

すげぇ強度だったしめっちゃ助かったから、今回はそのお礼をしに行く。

「お蚕さんたち元気かなぁ」と思いながら、ゴルディとお蚕さんの群れがいる森の深層部まで向かう。

◇──◇──◇──◇──◇

お蚕さんと出会ったのは、俺が辺境に来てから三年が経った頃。

やっと師匠からゴルディと一緒ならという条件で、一人でも森の深層部へ立ち入ってもいいと許可がもらえた頃のことだ。

ゴルディと目当てだった蜂の巣を丸ごと採り、蜂から爆速で逃げていた時。森の深層部まで来たしさすがに蜂もここまでは追いかけて来れないだろうと思っていた。

近くの茂みが揺れ、ひょこっと白い何かが頭をのぞかせてからサッと隠れた。いや、ぷるぷる震えてる尻尾だけは見えてんだけど。

白くてもちもちしたそれは大きな何かの幼虫?

師匠が「森の深層部にいる白い幼虫……それは幻蚕の幼体だからな。決して触るな。傷一つでも付けたら成体の幻蚕が襲ってくる。幼体も幻蚕も見たらすぐに引き返せ」って言っていたな。

ゴルディと周りを探しても幻蚕?っぽいのはいない。てか、一匹で何してんだろ……隠れきれてないし。

そっと様子を見てみる。

「お前、怪我してるじゃん!」

幼虫を捕獲した。いやいやと言うように身を 捩(よじ) っているけれど、離さない。

「どうどうどう。……あー、痛かったなぁー。薬は持ってきてんだけど、これ虫に使えるか分かんないしなー」

しばし考えていたけれど、かすり傷程度なら俺も治癒魔法が使える。師匠には「ショボい」だの「使わないほうがマシ」だの言われるけど、さすがに使わないほうがマシってことはないと思う。

幼虫にそっと手をかざして治癒魔法を発動する。現れた光の精霊が淡く小さな光の粒をこぼす。

兄上だったらもっと「ドバァー!」みたいな光のシャワーで一瞬で終わるんだけど……俺はそこまで治癒魔法って得意じゃないんだよな。

ゆっくりゆっくり幼虫に光の粒が降り積もってゆく。幼虫も途中から大人しくなった。

光の粒が消える頃には、幼虫の傷も塞がっていた。

「大丈夫?とりあえず塞がりはしたんだけど。俺にはここまでしか出来なくて、ごめんな」

よしよしと幼虫を撫でる。ちょうど手元に蜂の巣があるし、傷口の保護にと追加で塗る。

動けるかな?とか考えながらまじまじと幼虫を観察する。ちょっとデカいけど蚕の幼虫っぽいな。

サイズ感はおかしいけど辺境あるあるなんだろう、きっと。

じっと見ていたら、前世で聞いたメロディーを思い出した。何か、名前を連呼する系のアレ。

「モスルァー」

ピクッと幼虫が反応した。

「いや、白いからスノウモスルァーか?」

幼虫が擦り寄ってくる。何だ?気に入ったのかな。めっちゃ懐いた。

「じゃあスノウモスルァーな!てか、お前は迷子なの?仲間は?」

もそもそと首を振るスノウモスルァーの口元から光の加減で、細く透明な糸が出ているのが分かった。これって辿ればどっかに繋がってんのかな?

糸を辿るとスノウモスルァーがめちゃくちゃな進路でやって来たことが分かる。

「何かから逃げてた?」

こくりと頷くスノウモスルァー。何この子、めっちゃ賢い。ふむふむと思いながら歩いているとゴルディが何かに反応した。

「ブルルルルァァァァ!!」

軽くゴルディに威嚇されただけで逃げて行った。……赤みがかった黒い毛色、 大牙熊(グラズバルト) の仔熊か?

スノウモスルァーがゴルディに感謝するように頭を擦り寄せている。なるほど、あれから逃げていたのか。

「ゴルディも俺も熊には負けないから大丈夫だからなー」

これは……か弱くて心配になる。こんなん深層部をうろうろしていたらダメだろ。

糸を辿り続けていくと、不意に一面が開けた場所に着いた。中心には巨大樹がそびえ立つ。

深層部はあちこち歩き回ったけどこんなとこ、知らない。こんな大きな木、見逃すわけがないのに。

数十もの真っ白なお蚕さんたちが舞っている幻想的な空間だった。

「すげぇ……」

お蚕さんの翅はそのものが淡い白銀の光を放っている。二匹がすーっと俺たちのところにやって来た。

「あ、ご家族ですか?この子、熊に追われて逃げてたっぽいです。あと怪我してたから、治癒魔法かけて蜂蜜塗ったけど大丈夫?」

スノウモスルァーをそっと親っぽいお蚕さんへと放す。お蚕さんはスノウモスルァーに向かって糸をスルスルと吐き出し、傷を覆った。

なるほど、包帯の代わりになるのかな。

そして白い繭を抱えて俺のところにやって来た。それをぐいぐいと押し付けてくる。

「え?これをくれんの?」

しっとりとした艶のある美しい真っ白な繭。

「ありがとー。もらって行くわ!」

お蚕さんたちが俺の周りをふわふわ舞っている。スノウモスルァーも大きくなったらこうなるんだろうなぁ。

「スノウモスルァー、お前も早く怪我を治して大きく強くなれよ」

よしよしとスノウモスルァーを撫でる。うっかり名前を付けてしまったばかりに離れがたいけど、別れを告げた。

でもこいつらはどう見てもか弱いから定期的に様子を見に来なきゃ、と思いながら帰った。

――帰宅後。師匠にスノウモスルァーの話をする。

「今日さー、怪我をしたお蚕さんの幼虫を見つけて手当てしてきたよ」

「森で幻蚕の幼体を見たんならすぐ逃げろって言ったじゃねぇか!触るな、手当てって何してんだ!成体にその姿が見られたらどうなると思ってんだ、この馬鹿が」

問答無用で拳骨が落ちた。

「いってぇなぁ、ジジイ!幻蚕じゃねぇよ。ジジイが言ってた幻蚕って魔法攻撃はしてくるし、こっちの魔法は反射するし、目からビームとかめちゃくちゃ強いヤバいやつのことだろ?!」

幻って付くくらいだから、伝説の生き物とかそんなだろ?どうせ時間が経つうちに盛って伝わってんだろ。

ねーわ、目からビームとか。そもそも師匠だって文献でしか見たことないくせに!

「俺が見たお蚕さんと幼虫はすげぇか弱くて大人しかったわ!」

「なら……幻蚕ではないのか」

そうそうと頷く。

「うん。幼虫も真っ白だったけど、成虫のお蚕さんはマジでふわっふわ。翅が白銀に光っていて超キレーだった」

「やっぱ幻蚕じゃねえか!」

避けたから、師匠の拳骨は空振った。

「だから違うって!お蚕さんだって!二十匹くらいの群れですんごい幻想的で綺麗だったの……師匠にはその場所、教えてやんねー」

「二十匹の群れか……幻蚕なら多くても四、五体の群れだから幻蚕ではないな」

そうだっつってんのにさぁー。

「で、怪我して迷子な幼虫を群れに返したらお礼にってこれくれた」

そう言ってお蚕さんからもらった繭を見せる。

「やっぱり幻蚕じゃねえか!!」

「ゴンッ!」と先程より鈍い音で拳骨が落ちてきて、俺は机に突っ伏した。あと勢いでおでこも打った。

「いや、幻蚕の繭は青みを帯びた白で……これは純白?でもこの光沢感と質感は幻蚕の繭……」

師匠がブツブツ言ってる。違うっぽくね?謝れや、さっきの拳骨と言いたいところだが頭が……これ、マジでヒビとか入ってないよな?

音を聞きつけたミレア姉さんが、いつものように氷嚢を作ってきてくれた。

冷やしながら「やっぱこの凶暴なジジイはか弱いスノウモスルァーたちには会わせられねぇ」と思った。

◇──◇──◇──◇──◇

森の深層部のいつもの場所。巨大樹を中心に、相変わらずお蚕さんたちが舞っている。

その中でも一際大きな一匹が、スノウモスルァーだ。立派に育ったなぁ。また群れの数が増えて三十匹くらいになったかな?

「スノウモスルァー、元気にしてたかー?こないだくれた繭、あれめっちゃ助かったわ!」

俺の膝にのって甘えてくるスノウモスルァー。

群れのボスとなった今でも、あの頃と変わらずかわいい。