作品タイトル不明
13話「リシアンチャレンジ」
拝啓 兄上
先日は手紙をありがとうございました。
兄上、もしかしてお疲れですか?無理はしないでくださいね。
熊狩りですが、素材として効果が高いので 大牙熊(グラズバルト) を主に狩っています。ちょっと大きいだけで、そんなに危険ではないので安心してください。
あと最近、俺も精霊と契約しました!いつか兄上に紹介したいです。
*──*──*──*──*
「ィ゙ピルァーン!」
「それのどこがリシアンなんだよ。やり直し」
やって来た風の精霊を呆れたように見る。
「ビビデュァ゙!」
「お前はもっとひどいな?!」
先日から俺のところに契約を求める精霊はこんな感じ。「リシアンチャレンジ」とか周りのやつらも囃し立てている。
ちなみに大量の山鳥は自分の食べる分、ミレア姉さんにお裾分け、いくつか燻製を作って……残りは街の精肉店に売った。
今日は薬草と岩塩を調合している。燻製に振りかけてもいいし、作っとくと便利。でも毎回、そのときあるものでテキトーに作るもんだから味は違う。
それなりの味にはなるからいいんだけど。たまにめっちゃおいしく出来ても、再現性がないのがつらいところ。
『ねぇ、リシアン。風のにしてやりなよー』
『あの子、ずーっとリシアンと一緒にいるんでしょー?』
精霊たちの中では風の精霊推しが一番多い。何でも俺がヴァルディリア子爵領にいる時から近くにいたんだとか。
……俺が七歳の頃にやった、レンチンの魔法にも協力してくれたらしい。で、そのとき俺が「ポチ」って呼んだんだって。いや、覚えてねぇよ。レンチンの魔法のことは今も使うし覚えてるけどさぁ。
『火のは強いよ!魔獣を倒すお手伝いする』
『調合は水のに任せてね?』
『木のは薬草を育ててあげる!』
『土のだってそうゆうの得意だから抜けがけしないでー』
口々に各々の属性である精霊をアピールしてくる。
最近やっと、よく会う精霊の個別認識ができるようになってきたのに増えるな。
うるさいから店の裏手にある畑の様子でも見に行こ。森に行ったらまた精霊の数が増える気がする……。
店の裏手では薬草や野菜、果樹を栽培している。ちょっとした規模の畑が広がる。
いつだってゴルディには新鮮でおいしいものを食べさせたいからな!最近、手入れをサボったせいで雑草も生えてきたから抜かないと。
さてやろうかなと思えば、木と土属性の精霊が瞬く間に雑草を抜いていく。風と火属性は集めた雑草を乾燥させて燃やして処分をするし、水属性のは野菜に水やりを始めた。
え……超楽なんだけど。これ、先着一体とか言わなければよかったかもしれない。
『リシアンもゴルディアスを見習って野菜も食べなきゃだめだよー?』
『そーだよ、ちゃんと食べないと大きくならないよ!』
いや、やっぱ一体でいいわ。口うるさい母親かよ。
「だって野菜ってえぐいし苦いし……あんまおいしくないから」
そう言ったら『仕方ないなー』と言いながら木と土属性のが何やら魔法をかけ始めている。
『収穫する頃には甘くなってるからねー』
『いっぱい食べるんだよー』
と言ってケラケラ笑っている。俺の畑、勝手に品種改良まで始まったんだけど。
これは契約したらすっごい便利なのかもしれない。
早々に畑仕事が終わって、時間が余ったから街に出て散策でもするか。何か久しぶりに色んな店をゆっくり見て回れた。
最近はちょっと忙しかったから、たまにはこうやってのんびりするのもいいかも。
街にいるときは前にした約束どおり、精霊たちも話し掛けてこないしな。
託児院にも顔を出して、最近作った「笛飴」を差し入れた。丸い穴が空いた飴は吹くと「ピーッ」と音が鳴って楽しい。
めっちゃ喜んでくれて「次は別の味も作って!」と新たな課題までもらってきた。まぁ、子どもたちのためにならいくつか別の味を作ってもいいかな。冒険者のためにはやらねぇけど。
笛飴は冒険者や猟師に非常食兼緊急時や合図の笛として新しく販売する予定。
子どもたちの反応もよかったし、菓子店にレシピを渡してもいいかもしれない。
ちなみに、笛飴は失敗作から派生したものだったりする。
先日、自分でベリージャムを作ろうとした時のこと。やたら粘度の高い固形の何かが出来上がった。
味は大丈夫そうだったから捨てるには勿体ないし、どうにかならないかと薬草を混ぜ込んだ。そこからさらに煮詰めていたらなぜか飴になった。
一塊(ひとかたまり) になってるから、とりあえず叩き割って小さくする。
食べてみると少し、薬効がある?くらいの物になってた。
ミレア姉さんのところに持って行き、成分分析をしたらやっぱりほんの少しだけ薬効があった。それなら薬としては使えないか、と思っていたらめっちゃ褒められた。
「いつもは加減して効果を落としなさいって言うのに……リシアン、これはうまく出来てるわ」
だって。
「御年配の方から子どもたちまで使えそうね。ただ、この形だと何かの拍子で……喉に詰めたら怖いわね」
とミレア姉さんが配合を変えて柔らかくし、真ん中に穴を空けて成型し直した。溶ける早さはこれから研究と調整を重ねる。
その形を見て、俺はピンときた。これでさらに中を空洞にしたら「ピーッ」って音が鳴るはずじゃん!
早速、試しに作って息を吹き込み
「ピーーーーッ!」
と鳴らす。
「お薬で遊んだらいけません!」
ミレア姉さんからガチで怒られた。
薬で遊んではいけない……それなら薬効がなければいいのかと思って、新しく蜂蜜だけで作ったのが笛飴。
冒険者や猟師たちの非常食にもなるし、緊急時に鳴らせば便利!って説明したら非常に困った顔をしながらも実用性もあるならとオッケーは出た。
帰ってからはいつものように冒険者たちに薬を売る。店を閉めて日課のゴルディの手入れをしていたら、また精霊たちのリシアンチャレンジが始まった。
「リピャ゙ァン」
「何か……惜しくなってきたよな、お前」
ゴルディも横で褒めるように頷いている。
「ゴルディアス!」
「何でゴルディアスは流暢に言うんだよ、お前!わざとなのか?」
そう……つい、怒鳴ってしまった。
「リピャ゙アンノ……バカー!」
そう言って風の精霊は飛び出して行った。森へ向かう精霊を
「バカってなんだよ、バカって!」
そう言って追いかけようとしたら、ゴルディに襟首を 咥(くわ) えられる。
今は夜。外は真っ暗だ。
ちょっと前までなら、耳さえ聞こえていたら……夜の森だって平気だった。
見えづらくても、音を頼りにして歩けたから。今は目に見える情報と、さっきの風のやつがだいぶ音を届けてくれたから何とかなってただけで。
夜行性の魔獣は危険なのが多い……そんな夜の森へはまだ入れない。
「分かってるよ、ゴルディ。行かないから離して……」
ひと撫でしてから家に戻る。思えば今日も風の精霊は俺が託児院の子どもと話す時、街で買い物をする時もずっと手伝ってくれていた。
前より不便さを感じることがなかったのは、あいつが手伝ってくれたから。
「風のやつに言い過ぎた。ごめん……」
誰に言うでもなくこぼし、朝を待つ。
翌朝、風の精霊は他の精霊たちに連れられて戻ってきた。
『ゴルディアスに止められたけどね、追いかけようとしてたんだよー?』
『ほら、反省してるよ。言い過ぎたって言ってたもん!』
……お前ら全部、バラしていくのな。
「ごめんな……昨日は言い過ぎた。お前が頑張ってるのは分かってるから」
「……リシ、アン!」
風の精霊がそろそろと俺のところにやって来る。
「お前、今ちゃんとリシアンって言った?!マジお前すげぇな!」
「リシアン!」
何だろ、これめっちゃうれしい。俺、この風の精霊と契約する!
で問題は名付け、か。考えてなかったな。
さすがにポチがダメってことは分かっている。でもいつも「風のやつ」とか「そこの風属性の」とかだったからな……。ふと、懐かしい響きを思い出した。
「…… 風乃(かぜの) でいい?お前の名前」
ニホンだかニッポンだったかの……発音で呼ぶ。
この世界では変わった響きに聞こえるだろうけれど、意味は今までと変わらず「風のやつ」のまま。
『リシアン!これからもよろしくね』
風乃もすごくうれしそうにしている。気に入ってくれたのかな?
『こちらこそ。あといつもあいがとぉ、風乃ぉ?!』
待って?!何で「ありがとう」だけ発音うまくいかねぇの?
それを見た周りの精霊たちはキャッキャと笑っている。
「おい……ありがとうだけ発音できないんだが、この中に理由を知っているやつはいるか?」
その中で 一際(ひときわ) 大きな声で笑っていた、火の精霊を掴む。
『……リシアンがぁ、ありがとうの発音だけいつまでも辿々しくてかわいかったからー』
『お願いしてそれだけそのままにしてもらったのー!』
そう言って『キャー』と言って散り散りに逃げ出す精霊たち。
「何してくれてんだよ?!待て、逃げんな!」
ドタバタとやつらを追い回しながらも……俺は、絶対に『ドゥ゙ゴピニャ』の発音は完璧にしてやると誓った。