軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

午後の紅茶と冷戦と

授業を終えた午後のカフェテリアには、迎えの馬車を待つ学生の姿がチラホラと見える。

うっかり一人で図書室まで移動しようとしてオレリアに捕まった私は、学園が用意した第二王子専用サロンを避け、なんとか本科の学舎内に設けられたカフェテリアで彼女の話を聞くことに成功した。

自分のテリトリーである第二王子のサロンに連れ込めなかったことに不快そうに頬をピクリと動かしたオレリアであるが、私もほいほいと敵陣に赴くわけにはいかない。

ここにいれば、アンリエッタが気づいてくれるかもしれないし、フルール様の耳に入って誰かを差し向けてくれるかもしれない。

それまでの間、私は口を堅く引き結んでいよう。

絶対に兄の情報は漏らさないわ!

「……ずいぶんと噂になってますけど、学園卒業後は王宮にお勤めですか?」

ニッコリと胡散臭い笑顔で投げかけてきた質問に、私はこてんと首を傾げて答える。

これは、王太子妃フルール様の侍女になるのか? という質問かしら?

「あら、デュノアイエ侯爵令嬢の侍女となるのが決まっていると聞いたわ。お友達のニヴェール子爵令嬢と一緒に」

……やっぱりアンリエッタのことも知っているのね。

私は気持ちを落ち着けるために紅茶を一口飲んだ。

カフェテリアの店員が淹れた紅茶だもの、変な薬は入ってないわよね?

「いいえ。フルール様とは親しくしていただいていますが、所詮田舎の子爵家です。卒業後は領地に戻りますわ」

王都から然程離れていない領地だから田舎とは言えないけど、貧乏具合を見れば田舎と評してもいいわ。

第二王子たちにとってアルナルディ家が取るにも足らない家だと思ってほしいの。

「そうですの。てっきりフルール様の侍女になり、いずれはイレール様と婚約されるのではと話しておりましたのよ」

「誰と?」

淑女らしく控え目に微笑みながら紅茶を飲む彼女に、私は鋭い声で問う。

私とイレール様との関係を邪推したのは誰?

「え? いいえ、誰とは。所詮噂ですから」

僅かに動揺する彼女に、私は結んでいた口を開き言葉を放ち続ける。

「噂話をするほど仲がよろしい方ですか? そういえば、デュノアイエ侯爵令嬢のフルール様、モルヴァン公爵子息のイレール様も名前でお呼びですね? つまり、そういう方ですか?」

高位貴族の名前を許しも得ず呼べるなんて、まだジョルダン伯爵家の養女になっていないオレリアには無理だ。

では、誰が?

決まっているわ、王族である第二王子の口から出た噂話だから、フルール様もイレール様もオレリアなんかに名前で呼ばれるのよ。

「……。そう、もうわかっているのね? ええ、私はディオン殿下とその側近の方たちと親しくしているので」

姿勢を正しキリッとした顔で私と対峙するオレリア。

前の時間では家族になりたいと親しげに接してきたのに、今は私を警戒しているようだった。

「では、その噂すべて否定させていただきます。私はフルール嬢の侍女にと誘われていませんし、モルヴァン公爵子息とは会えば言葉を交わすだけの関係です」

実際、フルール様は私たちを第二王子の手から守るために手を尽くしてくださっているのだし、イレール様に至っては妹のミレイユ様のために私たちを保護している。

第二王子の企みを阻止しミレイユ様の病気が治れば、私たちはまたあの何もない領地でのんびりと暮らしていくのだから。

つまらない一生、貧しくて人を羨むだけの一生、それでも……私にとっては守りたい大切な一生だ。

「そうですか。ではディオン殿下たちの勘違いですね。未来のお義姉様の侍女が兄の親友と結婚するかもしれないと気にされていたので、余計なお世話をしてしまいました。シャルロット様にも申し訳ありません」

「……いいえ。子爵家には過ぎたる交友ですもの」

これで話は終わりかしら?

そろそろ紅茶も残り少なくなってきましたし、あなたと向かいあって二杯目の紅茶は遠慮したい。

「失礼ついでに……シャルロット様のお兄様のことですけど」

ビクッ。

カップを持つ指が小さく痙攣するように反応してしまった。

兄?

オレリアが、兄の、サミュエル・アルナルディの何に気が付いたの?

ドクンドクンと心臓が大きく脈打ち、頭の天辺から血の気がサアーッと引くようだ。

「兄……本科に通っている兄のサミュエルをご存じなのですか?」

冷静にと思えば思うほど体は強張り、喉が渇いてたまらない。

「卒業論文を発表するように推薦された優秀な生徒ですわ。知らないなんてありえません。特に、アルナルディ家は薬草の栽培が盛んですもの。実は私……」

ポンッ。

「きゃっ!」

ふいに肩に手を置かれて、私は椅子に座ったまま飛び上がった。

「こんなところにいたのですか? フルール様がお探しですよ、レディ?」

「へ?」

恐々と声をかけられた方へ振り向くと、護衛にとつけられた飄々とした男性がにこやかな表情で立っていた。

「あの……」

「さあ、フルール様がお呼びです。アンリエッタ嬢もお待ちです。お話が終わったようであれば、このまま行きましょう。さあ。立って」

「え? ええ」

私は彼の勢いのまま立ち上がり、オレリアに困惑した表情を向けペコリと頭を軽く下げた。

「申し訳ありません。フルール様のところへ行かねばなりません。これで失礼します」

オレリアは貼り付けたような冷たい笑顔で私を見送る。

ても、カップを持つ手に力が入り真っ白になっているのを見て、彼女が私との会話で目的を達成していないことが察せられた。

私を呼びにきた護衛の男は、二、三歩進んでふいに立ち止まるとクルリと振り向いた。

「オレリア嬢でしたっけ? この度はジョルダン伯爵家に養女に迎えられるとか、おめでとうございます」

「ええ!」

オレリアがジョルダン伯爵家に?

「さあさあ、シャルロット嬢は急いでください」

待って、待って。

私は頭が混乱したまま彼に連れられ、通いなれたフルール様のサロンへと押し込められた。