作品タイトル不明
10 いざ領主の館へ
要塞都市ベロニア、宿で一泊した翌朝。
それぞれのベッドで寝ていたはずなのだが、朝起きると俺のベッドにフォルシーナが潜り込んでいた。
寝ぼけていたのか、それとも父のぬくもりを無意識のうちに求めているのか。そう思うと罪悪感がチクリとするが、フォルシーナの寝顔が幸せそう――というには緩み切っている気もするが――なことに少しの安心感を覚える。
「フォルシーナ、起きなさい」
と起こすと、フォルシーナは目をこすりながら上半身を起こした。
「……あ、お父様……お早うございま……あ……っ!?」
そこで俺のベッドで寝ていたことに気付いたようだ。フォルシーナは赤い顔を布団で隠してしまった。
「もっ、申し訳ありません……私、はしたないことを……」
「娘が父に甘えるのは別に恥ずかしいことではなかろう」
「しかし私の年齢でそれをするのは……」
「そういう考え方もあるが、幼い時に甘えさせてやれなかったからな。これくらいは仕方あるまい」
となだめると、フォルシーナは安心したのか布団から顔を出してニコリと微笑んだ。
「ありがとうございますお父様。ではこれからもたくさん甘えますね」
「む……? ま、まあほどほどにな」
う~ん、このへんは変わり身が早すぎてついていけないな。
2人で準備をして、他のメンバーと挨拶を交わしながら食堂へ移動をする。
その際狐獣人クーラリアが俺のにおいをくんくんと嗅ぎだして、
「ご主人様、もしかしてお嬢と一緒に寝たですか?」
と聞いてきて、危うく朝から断罪ルートが開きかけたが、
「私が寝ぼけてお父様のベッドに入ってしまったみたいなの」
というフォルシーナの言葉で回避された。
ただその後、なぜかマリアンロッテとアミュエリザがやたらとフォルシーナをつついていたのが気になったが。
アラクネ族の母親ミナが用意してくれた朝食を摂り、部屋に戻って装備を整えて食堂に再集合すると、後はいよいよ領主の館に乗り込むだけになる。
俺たちを見送ろうと、ミナとロナの親子も食堂にやってくる。
「ミナ殿、そしてロナ殿、大変世話になった。我らはこれから領主の館に行き、ネクライガ殿にこの町の出口を通してもらうよう交渉をするつもりだ。無論お二人のことは決して口外せぬから安心されよ」
「ネクライガ様は冷酷な方と聞いております。くれぐれもお気をつけて」
「マークスチュアートさん、ありがとう。そしてマリアンロッテお姉ちゃん、また遊びに来てね」
ロナは半分泣きそうな顔でそう言ってマリアンロッテに抱き着いた。この2日間で完全に懐かれてしまったようだ。マリアンロッテもロナの頭を撫でながら、
「今やっていることが終わったら、必ずまた遊びにくるから」
と、涙声で答えている。
まあ普通に考えたら、ミナやロナは敵を町に引き入れてかくまった人間なわけで、特にネクライガにバレたら大変なことになるのは目に見えている。本当は、特にロナは一時的にでもどこかに避難させておきたいのだが……。しかしこの先のことを考えるとそうもいかない理由がある。
「では行こうか」
と皆に声を掛け、ミナと、まだ泣いているロナに見送られて宿を後にした。
早朝なのでまだ通りに人はほとんどいない。
空気は肌寒く、朝にもかかわらずどこかすがすがしさに欠けるのは、領主の館から流れ出ているアンデッド特有の死の気配ゆえだろうか。
歩き出してすぐに、フォルシーナが横にやってきた。
「お父様、このまま直接領主の館に向かうのですか?」
「うむ。周囲は厳重に守られていたが、『転移魔法』を使えば侵入は容易だろう」
ゲームなら例の地下下水道を通って領主館の裏手に出てそこから侵入することになるのだが、チート中ボスにそのような面倒な手続きは必要ない。あの下水道を通るとなったらフォルシーナたちも嫌な顔するだろうしな。
街中では特に何事もなく、館の裏手が見えるところまでやってきた。
巨大な洋館といったたたずまいの領主館は高い鉄柵に囲まれていて、鉄柵の裏門前にも魔族の兵士が立っている。
ただ鉄柵ということはその向こう側は見えるので、『転移魔法』による移動が可能である。
「では、あの館の裏手に『転移』する。転移したのち、近くにある入口から速やかに館に侵入する。情報では館には広い地下空間があり、四至将ネクライガはそこにいる可能性が高いとのことだ。我々の目標はそのネクライガの討伐になる」
後半は一度宿で話をした内容だが、確認のために再度伝えておく。すると、館から漏れるアンデッドの気配を察してか、マリアンロッテが真剣な顔で口を開いた。
「陛下、あの館の中には非常に多くの、そして強力なアンデッドの気配があります。しかも地下に多くが集まっているようです」
「うむ。館の制圧にはマリアンロッテ殿と聖女オルティアナの力に多く頼ることになる。特にネクライガは聖属性魔法が重要だ。二人とも、よろしく頼むぞ」
「はい陛下」
「お任せください」
「では転移する」
俺は『転移魔法』を発動。次の瞬間、俺たちは領主館の敷地内、館の裏手に移動している。門の向こうの魔族は気付いていない。
館を見ると、ゲームにもあった裏手入口の扉があった。すばやくそこへ近づき、シグルドの聖剣で扉内側の 閂(かんぬき) を切断、扉を開いて中に侵入する。
最後尾のクーラリアが入り、扉を閉めるまでほぼ無音の早業である。
「貴方、盗賊でもやっていけそうね」
というヴァミリオラの言葉に「誉め言葉と受け取っておこう」と返しつつ、今いる場所がゲーム通り廊下であることを確認する。
中は普通の高級な洋館の内装である。白い壁には灯りの魔道具が並び、床には赤いカーペットが敷かれている。ところどころ絵画が飾ってあるのもいかにも領主の館という感じである。唯一違うのは、廊下の縦横が一回り以上広くとられていることで、これは魔族が人族より大きいことが理由だろう。
地上階は普通の館の作りなので迷うことはない。地下への入口は、確か会議の間の棚の後ろだったはずだ。
「進むぞ」
と声を掛けて、廊下を歩いていく。すると向こうから、ガチャガチャと音をたてながらモンスターが歩いてきた。
高級な鎧と盾と剣を装備した赤いスケルトン『ブラッディボーン』である。
6匹が2×3の隊列で歩いてくる様は結構な迫力があるが、マリアンロッテと聖女オルティアナが
「『パニッシュメント』!」
と聖属性の対アンデッド攻撃魔法を唱えると、それだけで消滅してしまう。原作ゲームでは不可能だったダブル聖女アタックはあまりに強力である。
その後もブラッディボーンや、貴族の幽霊型モンスター『ノーブルファントム』などが出てくるが、聖女タッグの前に手も足も出ない。これはこれで完全チートである。
裏口からの廊下を進んでいくと直交する広い廊下に出る。迷わず左に曲がると、廊下の左右に並ぶ扉が目に入った。
その扉が一斉に開き、中からブラッディボーン、ノーブルファントム、さらに大鎌を肩に担いだ、ローブ姿の半透明骸骨『デススペクター』が次々と現れる。デススペクターは『デスサイズ』という一撃で戦闘不能にしてくるクソ技持ちだが、残念ながら高レベル聖女2人組の前では自慢の大鎌を振る暇すら与えられなかった。
「いずれも強力なアンデッドと思うが、マリアンロッテもオルティアナも恐るべき強さだな。やはり美と力は一致するか。私も負けぬようにせねばな」
などと言っているのはアルファラだ。魔法と弓矢と筋肉をこよなく愛するエルフ族だが、最近アルファラは筋肉以外の『美』にも目覚めたようだ。アルファラ自身、一般的な美の面でも優れているから、そちらを追求するのは容易だろう。
そういえば最近フォルシーナを始め、周囲の女性たちが一段と綺麗になっている気がする。もしやアルファラのように、人知れず互いに美を競い合っているのだろうか。もしそうなら、女性の世界は過酷である。