軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

09 戦いの前の静かな時間

夕食の後はしばし歓談の時間となるが、特に盛り上がっていたのがリバーシだった。

オセロの名で有名なリバーシは、エルフの里の地下遺跡の試練イベントの時に出てきたミニゲーム要素である。あの時プレイしたアルファラがクーラリアたちに語って聞かせたために、作って欲しいという要望が出ていたのである。

そこで家宰ミルダート経由で家人に作らせたのだが、これが少しの間フォルシーナたちのお気に入りになっていた。ちなみにミルダートの 娘(むすめ) 婿(むこ) が商人なのだが、彼がリバーシをぜひ扱わせてくれと言うので許したところ、王都では大ヒット商品となったらしい。

それはともかく食堂のテーブルでフォルシーナやマリアンロッテ、クーラリアやアルファラたちがリバーシ大会を始めていた。当然というか、一番熱中しているのはロナだった。マリアンロッテにルールを教わって皆と楽しそうに対戦している。

「あ~、マリアンロッテお姉ちゃんズルい、そこ取っちゃダメ!」

「じゃあこっちはどう?」

「あっ! そっちもダメ。お姉ちゃんはここに置くの!」

「え~、どうしようかな~」

なんていうやりとりに、前世を思い出して中年国王はつい頬が緩んでしまう。もっともそれとともに、マリアンロッテとロナが原作ゲーム通り仲良くなっていることに、なんとも言えない気持ちを覚えるのだが。

「国王陛下は子どもがお好きなのですね」

俺の顔がよほど変だったのか、隣に座っていた聖女オルティアナにそんな指摘をされてしまった。

「う、うむ、まあ、人並みにはな。もっとも娘のフォルシーナには辛い思いをさせた人間ゆえ、そうだと言い切るのも難しいのだが」

「フォルシーナ様のお姿見ているととてもそうは思えませんが」

「私も途中で心を入れ替えたのだ。今フォルシーナが私を許してくれているのは、フォルシーナの心が広いからであろうな」

二つ向こうのテーブルで、アルファラとリバーシをしているフォルシーナの横顔を見ながら、俺は適当なことを言ってしまう。

だって断罪ルートが怖くて必死に好感度アップに励んだんです、なんて口が裂けても言えるはずがない。まあフォルシーナが俺を許したのは実際彼女の心の広さあってのことだろうし、決して嘘という訳ではない。

「国王陛下にもそのようなことがおありになったのですね」

「私など完璧からは程遠い人間だ。むしろフォルシーナはじめ多くの人間に支えられてここにいる。無論聖女オルティアナも私を支えてくれている人間の一人だ」

自分で言っていて臭いセリフに尻が落ち着かなくなるが、これも決して嘘ではない。

俺の言葉にオルティアナは顔をほころばせた。

「そう言っていただけるととても嬉しいです。そ、それから、もし陛下が子どもをお好きなら、私もその、ご協力申し上げることができるのですが……」

「協力……?」

聞き返すと、オルティアナは頬を染めて、恥ずかしそうに言葉を続ける。

「は、はい。陛下もまだお若いですし、それに魔族との講和が成れば国も平和になると思うのです。陛下も以前、国が治まったら跡継ぎについてお考えになると……」

「そ、そういうことであれば、私も陛下のお力になることができます!」

オルティアナがいい終わらないうちに、今度は正面に座っていた将軍リンが身を乗り出してきた。

「そ、そうか。しかし2人にはもうすでに十分力を尽くしてもらって――」

「いえ陛下、さきほど素晴らしい槍もいただきましたし、陛下が望まれるのであれば、私はいつでも大丈夫です!」

「わ、私もいつでも大丈夫です。教皇猊下にも問題ないと言っていただいておりますし」

う~ん、前にも似たようなやりとりがあったような気もするが、2人はなんの話をしているのだろうか。オルティアナは「跡継ぎ」と口にしていたが、まさかこの陰険腹黒おっさん国王の跡継ぎを産みますなんて、そんな話をしているなどということがあるだろうか。

さすがに聞き返して「違います」なんてことになったら彼女らとの信頼関係が崩れるし、そもそも彼女たちは王妃の座を狙うような人間でもないはずだ。

ということは、もし俺になにかあっても彼女たちがフォルシーナと、その子どもの後ろ盾になってくれるという話であろうか。そういうことならこちらから頼みたいくらいなので大歓迎であるのだが。

「わかった、その時が来たらよろしく頼むとしよう。それでいいだろうか」

ともかく結論が出ないので、俺はとりあえず当たり障りのない言葉を返した。

すると斜め前に座っていたヴァミリオラが急に俺を凄まじい目で睨んできた。なんというか、赤い瞳から今にも炎の魔法がほとばしりそうな視線である。

でもオルティアナは「嬉しく思います陛下」と言いながら俺の左手をそっと握ってくるし、リンは「お任せください」と言いながらガシッと両手で俺の右手を握ってくるしで、別に悪い話はしていないはずなのだが。

「貴方、今言ったことは本気なのかしら?」

ヴァミリオラの声は、まるで地獄の底から響いてくるようだった。いやなんで、いきなりそんなマックスに怒ってるの?

「2人が協力を申し出てくれているのに、断わる理由もあるまい」

「どうやらようやく正体を現したようね」

「済まぬ、貴殿の言うことは意味が分からぬ。いったいなにを心配しているのだろうか」

と聞くと、隣のオルティアナが小さい声で、「ミリーも陛下に協力をしたいのです」と耳打ちしてきた。美しすぎる聖女に顔を近づけられてドキッとするが、それより一段と強まったヴァミリオラの熱い視線に背筋が凍りそうになる。

ともかくオルティアナの言葉だと、ヴァミリオラにも協力を要請しろということだろうか。確かにフォルシーナの後ろ盾としてヴァミリオラがいてくれるなら心強い。というか、彼女の協力なくして国を治めることなど不可能だろう。

「もちろん、その時が来たらローテローザ公にも頼むつもりでいる。私にとって貴殿はもうなくてはならぬ存在だからな」

と、糸目キャラ必殺の『糸目開眼』――目を見開いて急に真面目そうな顔になるアレ――を使って説得を試みる。

するとヴァミリオラは一瞬鼻白んだようにビクッとなって、それから今度は湿度の高い目を向けてきた。

「貴方はいつもそうやって適当なことを言って。自分の言っていることの意味を分かっているのかしら」

「無論だ。この先も国をよりよく治めるために貴殿らの力がどうしても必要なのだ。国にとって王の跡継ぎがどれほど重要か私もよくわかっているつもりだ。その協力者として貴殿らより適任はいない。貴殿らがいれば、きっとよい跡継ぎが育まれることになるであろうからな」

フォルシーナに子どもができたとして、その子の育成環境として周りの大人たちがどんな人間かっていうのは重要だからなあ。

俺が言葉を尽くして説明をすると、さすがのヴァミリオラも納得をしてくれたらしく、

「ま、まあ、そこまで言うなら考えなくもないわ。ただし貴方の考えを実行に移すなら色々と大変なことになるから覚悟はしなさい」

と言ってくれた。

なんかちょっと言い回しが引っかかる気もするが、とにかく怒りが鎮まったのだからそれ以上はつつかないことにする。断罪回避に藪蛇は厳禁である。

ともかく、その日は和気あいあいとして夜が更けていった。

ちなみにこの宿屋は2人部屋が5つしかないので、俺たちは二人一組になって部屋に入ることになった。そこで俺と一緒の部屋は誰になるかという話になり、それで少し揉めていたようなのだが、俺はその話には入れてもらえなかった。なお、『転移魔法』で俺だけ町の外で『モバイルフォートレス』で寝てもいいのだが……という話は「は?」の一言で一蹴された。

ちなみに元ゲームだと、ここで一緒の部屋になるのは一番好感度が高いキャラと決まっていて、ちょっとしたキャラ別イベントがあったりもした。

もちろんリアルだとそんな決まりはない。結局相部屋は順当に娘のフォルシーナに決まった。

「ふふふふっ、お父様と二人きり……なにかが起こるかも……」

と少し断罪を匂わせるセリフを言っていたような気もするが、幸いなにもなく、それぞれのベッドで眠りについた。