軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

08 宿へ戻って

「お父様、お帰りなさいませ。遅かったので心配致しました」

宿に戻ると、フォルシーナたちがすぐに迎えに出てきた。

「心配をかけて済まぬな。少し寄り道をしていた。こちらではなにもなかったか?」

「はい、特には。ただ、ミラさんが夕食の食材がないというので、これから買い出しに行こうとしていたようです」

「病み上がりで外を歩くべきではないな。食材なら私が買って来たのでこれを使ってもらおう」

宿屋の一階は食堂で、奥は厨房になっている。見るとその厨房でミラが棚を探っていた。

俺はカウンターに行きミラに声をかけた。

「ミラ殿、もし料理を作っていただけるならこれを使って欲しい」

俺がカウンターの上に買ってきた食材を並べると、ミラは済まなそうな顔をした。

「恩人のマークスチュアートさんに気を使ってもらって申し訳ありません。宿をやっていた時なら食材は欠かさなかったのですが……」

「病に臥せっていたのだ、仕方あるまい。今夜はミラ殿もロナ殿もともに食事をしようではないか」

「それは嬉しいのですが……よろしいのでしょうか?」

「なに、この宿に泊めていただけるのは我々にとって非常にありがたいのだ。それくらいはさせてもらおう」

「ありがとうございます」

せっかくなので、『カレールー』や『コンソメ』などもいくつか渡して使ってもらうことにする。ただ病み上がりで12人分を作るのは大変だろうということで、ミアールとクーラリアを呼んで手伝わせた。

「なにか有益な情報は得られたのかしら」

と声をかけてきたのは、食堂の席に座っているヴァミリオラだ。

同じテーブルに将軍リン、聖女オルティアナもいるので、俺はそこへ行って椅子に腰を下ろした。

「そこまで有益な情報はなかった。ネクライガがこの町の館にいて、アンデッドを多く召喚して我らを待ち受けていること、それと魔宰相派の一部が魔王派に寝返ろうとして幽閉されていること、魔宰相ロゼディクスが魔王の元に向かったことくらいだな」

「いずれも予想できる範囲ね。この町が封鎖されているのも私たちを恐れてなのかしら?」

「いや、どうやら寝返った者を逃がさないようにするのが目的のようだ」

「それはもう派閥としては末期じゃない。ま、あれだけの大敗を喫したのだから当然ではあるけれど。でもそうすると、私たちは魔都ザハーンで魔宰相と対することになるわけね」

「うむ。万一ロゼディクスが魔王位についたりすると厄介だ。明日にはここを突破して魔都ザハーンに向かう」

「わかったわ。アンデッドが相手ならティアとマリアンロッテの力が重要になるわね」

ヴァミリオラはそう言って、オルティアナを見る。

「任せて。この旅で前よりずっと強くなっているし、きっと役に立てると思うわ。陛下にいただいた武具もあるし」

「聖女には似合わない武器だけれど、ね」

「そんなことないわ。私にはとても使いやすいもの」

ヴァミリオラがからかうと、オルティアナはムッと膨れた顔になる。このあたりは仲のよさを感じさせるところだ。

確かにあの殺意の高い見た目の籠手は、聖女に似合うとはいいがたいが……というところで思い出した。

「武具で思い出したが、リン将軍に合いそうな槍が売っていたのだ」

俺はマジックバッグから、『隠者の試練場』で手に入れた最強ランス『セイクリッドアクア』を取り出して、将軍リンに差し出した。ちなみに『売っていた』はもちろん嘘である。

「あ、ありがとうございます陛下!」

リンは立ち上がって『セイクリッドアクア』を受け取ると、子どものように目を輝かせてそれを捧げ持ち、しばしそれを眺めていた。

ヴァミリオラも立ち上がって『セイクリッドアクア』を見ていたが、すごく訝しそうな目を俺に向けてきた。

「これはアミュエリザの『スカーレットプリンセス』にも劣らない国宝級の槍でしょう。貴方は今この槍を買ったと言っていたけれど、どんな店がこんなものを売りに出すというの?」

「店主が価値に気付かねば数打ちに交じることもあろう。たまたま私の目に留まったのが幸いした。それだけだ」

「この武器の価値を理解できない人間がいるとは思えないのだけれど」

「魔族は人族と価値観が違うゆえそういうこともある。実際安く買えたのだ。詮索をしても始まるまい」

「そうかしら……」

まあさすがに世界最強クラスの武器がその辺の武器屋に売ってましたなんて、言い訳としてはかなり無理がある。だからって「隠しダンジョンがあった」と言うのも面倒になりそうだしなあ。

ヴァミリオラはまだ納得してないような顔だったが、一方でリンは『セイクリッドアクア』を手に俺の前まで来て、そこでいきなり跪いた。

「陛下からこれほど素晴らしい槍をいただけるとは、無上の喜びに存じます。すでに陛下に捧げたこの身ですが、前にも増して陛下の御ために、すべてを捧げることを誓います」

「たまたま手に入っただけのものだ、そこまでかしこまらずともよい。リン将軍の国への貢献を考えれば槍一本では到底足りぬ」

「ははっ、陛下のありがたきお言葉を胸に刻み、今後も精進いたします。私にできることがあればいつでもおっしゃってください。どのようなことでもいたします」

妙に危険なことを言いながら、陶酔したような顔を俺に向けてくるリン。間違いなく好感度アップになっていると思うのだが、いつものことながら行き過ぎている気がしなくもない。まあでも好感度が高くて困ることもないからな。

と、そこで視線を感じて厨房の方を見ると、狐獣人のクーラリアが耳をしおれさせて、悲しそうな目でこちらをじっと見ていた。またしても自分の武器が手に入らなかったことに落胆しているのだろう。彼女の刀は魔王城で手に入るはずなので、それまでは我慢してもらうしかない。

夕食は食堂を使って皆で食べた。

やはりカレーがミラとロナには大好評で、特にロナは「これ美味しいね!」と何度も言ってニコニコしながら食べていた。その可愛らしい姿に微笑ましくなり、カレールーをこっそりいくつかミラに渡しておいた。

なおミラに話を聞いたところ、町を封鎖しているのとモンスターが増えた関係で、ここベロニアの町の食糧事情は次第に悪くなっているらしい。封鎖といっても食料を入れることだけはしているようだが、その量が以前よりも減っているのだとか。思えば食料品を売っている店の品ぞろえも、町の規模からするとかなり寂しいものだった。

当然ながら領主である魔宰相ロゼディクスの評判も右肩下がりで、戦に負けたことと合わせて町の有力者からは不満の声が上がっているのだとか。

「ミラ殿は事情通なのだな」

「少し前までこの宿にも旅人や商人が多く泊まっていましたので、自然と話が聞こえてくるんです」

「なるほど。町の封鎖が解かれればまた客も増えるであろうが、先が見えぬのは辛いな」

「ええ本当に。私たちは魔王様がおっしゃるように、この地でゆっくりと暮らせればいいだけなのですけど……。魔宰相様のお考えもわからなくはないのですが、戦となれば多くの者が亡くなりますし」

「もし人族の国を一つ落としたとて、その後も戦は続くことになろうからな。この国を豊かにするにしてもほかの手段を考えるべきであろう」

ミラの考えが市民の代表ということもないだろうが、しかし一般市民の感覚はおおむねこれに近いだろう。俺だって前世は庶民だったから、そういう感覚はよくわかる。