作品タイトル不明
07 ベロニアの町探索
ベロニアの町は、非正規ルートで潜入した割にゲームにおいては自由に行動でき、買い物で装備を整えたりもできるマップだった。
ロナが案内してくれた下水道を使えば自由に外にも出入りできるので、経験値稼ぎの拠点にもなる町だったのだ。
街中にいる魔族からは魔王や魔宰相、そして四至将ネクライガなどの話も聞くことができるようになっていた。
そんな記憶もあり、また少し気になることあったので、俺は町に繰り出して情報収集をすることにした。
行くのは俺一人だ。もちろんパーティメンバー全員で練り歩いたら目立って仕方がないということもあるが、どうしても一緒に行きたいとねだるフォルシーナをも説き伏せて同行させなかったのは、別の理由もあった。
さて、ロナの家の前から石畳の通りに出て歩いていくが、様子は来た時と変わらない。道行く人間が魔族になっただけで、街並みは王国のものとほとんど同じ。堂々と歩いていれば俺に注目する者は誰もいない。
まず行かなければならないのは、ファンタジー世界で情報収集といえば定番の酒場である。フォルシーナたちを連れてこなかった理由の一つがこれなのだが、正直男一人でも入りづらい場所である。
ベロニアの町の作りはゲームとかなり近いようだ。目当ての酒場はすぐに見つかり、俺はその開きっぱなしの入口を潜った。
中に入ると10人くらいの魔族がカウンターやテーブル席で思い思いに酒とつまみをやっている。
店内を見回して、俺は目当ての人物がカウンターの端にいるのを確認した。
茶色の毛皮に白いものが混じった男の人狼族。丸めた背の煤け具合に反して鋭い眼光を持つ老人である。
俺が隣に座ると、その人狼族の老人は狼そのままの顔をわずかにこちらに向け俺の顔を一瞥し、また手元のグラスに目を落とした。
「マスター、ザキヤーマを2つ」
「……はいよ」
注文して硬貨をテーブルに置くと、すぐに琥珀色の液体が入ったグラスが2つ目の前にトンとおかれる。
見た目も香りもそのままウイスキー。ちなみに『ザキヤーマ』は、魔族領でも最上位の酒の一つである。名前はまあ…… 創造主(クリエイター) 仕込みのネタということだろう。
俺はグラスの一つを手に取り、もうひとつを隣の人狼族の老人の前に滑らせた。
老人はわずかに目を細め、低い声でつぶやいた。
「……なんか聞きてえのか?」
「うむ、貴殿の知恵を借りたい」
「そうかい。質問は3つまでだ」
俺はそのセリフを聞いて安堵した。ゲームでも出てきた『情報屋ソロ』は、リアルでも存在してくれたらしい。
ちなみにゲームだと、「聞きたいことがあるなら酒一杯奢りな……」とか言ってくるのだが、本物の情報屋がリアルでそんなことは言わないようだ。
『ザキヤーマ』を一口飲み、「美味え……」と言う老人は、どことなく世捨て人っぽい雰囲気があった。
「では一つ目、この町が封鎖されている理由を知りたい」
「……魔宰相様が戦で負けて立場がヤバくなった。魔宰相様の派閥の上位魔族がいくつか魔王様側に寝返る動きを見せたのさ。で、それをさせないために、魔宰相様はこの町を封鎖するようネクライガ様に命じたのさ」
「つまりこの封鎖は内から外に人を逃がさぬためのものか」
「そうなるな。ちなみに上位魔族たちは家族もろとも捕まって、牢獄に放り込まれてるって話だ」
「ふむ……。では二つ目だ。ネクライガ殿はどこにいる?」
「領主の館だ。数日前、『天剣山脈』で爆発があってから、ずっとそこに籠っているらしい。アンデッドを多く召喚して守りを固めてるって話だが、噂だと手下の魔族兵すらも強くするためにアンデッド化しちまったそうだ」
「無体なことをする。それでは民心も離れよう」
「魔宰相派全体が支持を失ってるのは確かだ。今の魔王様が錬金術で食糧事情はだいぶ改善してくれたからな。もともと人族と戦って領土を広げようなんて望んでる奴は少ない。魔宰相派の旗色が悪いところにきてこの町がこんな状態だから、そりゃ支持する奴も減るってもんだ」
と、ここまでで、今の状況が細部は異なれどもほぼゲーム設定通りというのがわかった。ただ、ちょっと気になるのは魔王が錬金術で食糧事情を改善したという情報だ。ゲームではそんな話はなかったが、リアルならではの変化かもしれない。
ともかく、俺たちはこの後間違いなくネクライガと戦うことになる。無論普通に考えたら、町に潜入して領主を倒すなんてただのテロリストである。しかし魔宰相ロゼディクスの一派が求心力を失っているなら、別の理解をされる――例えば町を解放した英雄とか――可能性はある。そう考えるとゲームの設定も意外とよく考えられていたんだなと感心してしまう。
「では三つ目、魔宰相ロゼディクスは今なにをしようとしている?」
「魔都ザハーンに行って、今の魔王様に譲位を迫ってるって話だな。噂じゃ魔王様の弱みを握っているらしくて、譲位はすぐに行われるんじゃないかって話だ」
「ほう……? その弱みというのはわかっていないのか?」
「そこまではわからん。ともかく魔宰相様が魔王位につけば、宝魔玉によって強い力を得る。それによって一発逆転を狙ってるって話だな」
『宝魔玉』というのは、代々の魔王に受けつがれる強力なアイテムで、魔王に強い力を与えるというものである。魔宰相ロゼディクスが魔王位を狙う理由の一つがそれなのはゲーム通りなのでいいのだが、俺としてはその前の『弱みを握る』が気になった。それもまたゲームにはなかった要素だからだ。
しかし情報屋ソロが知らないのではどうにもならない。それは直接対決の場で明らかになるだろう。
「その情報、確かに役に立ちそうだ。礼を言おう」
「酒を飲んで口が軽くなっただけさ」
そう言ってグラスを煽る情報屋ソロに別れを告げ、俺は酒場を後にした。
さて、その後さらに町を巡り、この町にしかない錬金術の材料や食材などをいくつか買ったりした。
ゲームなら強い武具などを買い揃えるところだが、すでにパーティメンバーは最強に近い武器を装備しているのでその必要はない。
一応ネクライガか立て籠もっている館の近くまで行ってみたが、さすがに警備が厳重で、敷地の前の門に近づくこともできなかった。それでも館の周りを一周して、侵入経路の確認はしておいた。
しかし、遠巻きに見ても館からかなり嫌な気が漂っているのが感じられた。情報屋ソロが言っていた通り館の中はアンデッドで一杯なのだろう。まあそれもゲーム通りなので驚きはない。
帰りにちょっと路地裏に入り、とある建物の前で立ち止まる。
その建物の壁に手を当てて魔力を流すと、ぽっかりと人一人通れるくらいの穴が開いた。
そう、いつもの『隠者の試練場』である。まったくノーヒントの隠しダンジョンで、しかも建物の壁に現れるという意味不明さのため、さすがにこれを皆の前で開くことはできない。俺が今回一人で行動をしていたもう一つの理由がこれである。
『隠者の試練場』では、ザコとして『クラウドモスキート』という巨大蚊の大群が現れたが、俺の魔法で一掃した。
ボスは『スカイニードル』という巨大スズメバチで、これも魔法連射で瞬殺した。
このボスドロップは確定で、『セイクリッドアクア』という、全体的に薄い水色をした槍が手に入る。将軍リンが使っている閉じた傘みたいな形のランスと呼ばれるタイプの槍で、強力な聖属性と水属性が付与された武器である。もちろん国宝級の武器なのだが、本来この武器を使うはずの自称竜騎士君が弱くてほとんど活躍しなかった悲運の武器だ。
ちなみにその自称竜騎士君は故郷でイルカにまたがって漁師をしているはずである。彼が持つはずだったこの槍は、彼より遥かに強い将軍リンが使うので許してもらおう。
俺は『セイクリッドアクア』を『マジックバッグ』に入れ、そして部屋の真ん中に出現した光球のところへ歩いて行った。
手を触れると、いつもの通り脳内に声が響く。
『よくぞ試練をくぐり抜けた。褒美として神の能力を一つ授けよう。ただしお前にその能力を得るだけの下地がなければならぬ。注意せよ』
「では巨人のごとき力を」
『よかろう。「力王」のスキルを授ける』
『力王』はその名の通り腕力を最大限にパワーアップするスキルで、『神速』『魔の源泉』と3つの能力極限アップスキルが揃い、これでもはや俺は完全無敵のスーパーチート中ボスと化した。
今の俺ならラスボスすら一対一で戦える気がするが、俺の最大の敵はラスボスなどではない。今後も慢心せずに好感度アップに励もう。