軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14 ネファリスの変身、そして

『千剣山脈』での砦戦。

追い詰められた中ボス、サイクロプス死霊術師のネファリスは、素早くバックステップして距離を取った。

「見よ、愚か者ども! これがロゼディクス様からいただいた力だ!」

そう叫ぶと、長い杖を両手で持ち、それを掲げるように振り上げた。

なにをするのか――と身構えていると、なんとネファリスは、まるで切腹でもするかのように杖の先端、石突きの部分で自分の腹を貫いた。

「なに……!?」

その奇行を最も近くで見ていた将軍リンが絶句する。

もちろん他のメンバーも、俺ですらも突然のことに呆気に取られてしまった。

だが、俺の前世メディア作品の記憶が、ネファリスの行動をアレだと断定する。

そう、なんか秘められた力を開放するとか、そんな感じのイベントである。しかも自傷行為をトリガーとする時点で絶対にロクなことにならないやつだ。

ネファリスの腹の杖が刺さった部分から黒い靄のようなものがあふれ出てきて、それがネファリスの巨躯を包み込んでいく。

その黒い靄は最初、ネファリスの身体の形をそのまま取っていたが、急にボコボコとあちこちが膨らみ始め、異形の影を作り出した。

腹に刺さっていたはずの杖はいつの間にか消滅していて、俺たちの目の前には身長5メートルほどの、上半身が異様に発達した黒い靄巨人が出現していた。

そして体表を覆う靄が薄れていくと、そこにはやはり、上半身が完全な逆三角形になるほど筋肉の盛り上がった 一つ目の巨人(サイクロプス) ネファリスがいた。

上半身は裸で、露出してる肌は青く、しかも不気味なことに、盛り上がった両肩には人面がいくつも並んでいた。腹部は大きく抉れていて、その真ん中にも人面が埋まっている。

「これは……お父様、どういうことでしょうか?」

あまりに奇怪な姿にショックを受けたのか、フォルシーナがすがるように俺を見てくる。

「私にもわからぬが、ネファリスの言葉を信じるならロゼディクスになんらかの術をかけられたということだろう。かのロゼディクスは私が知らぬ業を持っているようなのでな」

「そのようなことが……。しかしこの姿、侮れないものと思います」

「うむ。だが我らが力を合わせれば勝てぬ相手ではあるまい。オルティアナ、マリアンロッテは再度強化魔法を。フォルシーナは『アイスフォートレス』を準備。ヴァミリオラ、アルファラは魔法と矢での攻撃の準備を。クーラリア、ミアールはそれぞれ『斬月』『ソニックスラスト』で遠くから攻撃、リンとアミュエリザは隙を見て私とともに斬り込む。いいな」

俺としても知識にない敵なので、キッチリと指示をしておく。

しかし10人パーティに一人ずつ指示を出すのは大変だ。そりゃゲームだとプレイアブルは4人までとかになるよなあ。

なぜかヴァミリオラだけが驚いたような顔で、「貴方今、私のこと……」と言いながら俺を見返してきたのだが、他のメンバーは全員「はい」と返事をしてくれた。

ヴァミリオラもオルティアナに肘でつつかれて「あ、ええ、わかったわ。任せて頂戴」と答えた。なにか変な指示をしただろうか。ちょっと不安になる。

さて、アリアンロッテとオルティアナがそれぞれ『ホーリーエッジ』『ディフレクションウォール』という攻撃力・防御力アップ魔法をかけてくれる。フォルシーナは杖に魔力を充填して、いつでも氷の壁を作りだせるように構えている。

「さあ、ロゼディクス様から授かりしこの力、存分に味わうがよい!」

ネファリスはそう叫ぶと、丸太のように太い腕を胸の前でクロスさせた。するとただでさえ巨大なこぶのように盛り上がった肩が、ミシッと音を立ててさらに膨らんだ。その肩には片側に10前後の人面がついているのだが、その人面が一斉に口を開き、そしてシューッという音とともに、紫色の煙を盛大に吐き出した。

「む……っ?」

その煙はあっというまに周囲一帯を覆うようになるほど広がって、俺たち方へとじわじわと流れてくる。

と、ネファリスの後ろで呻いていたデーモン族たちが、いきなり「ウゴゴゴッ」と呻き出した。

先ほど俺の魔法を食らって倒れていた者たちだが、やはりまだ生きていたらしい。だがその彼らが、口から泡を吹いて苦しみ始めている。

とすれば、あの煙の正体は明らかだ。

「あれは毒の煙か。オルティアナ、マリアンロッテ、浄化を」

「はい陛下、『ピュリフィケイション』!」

聖女2人による浄化魔法。強烈な光が広がり、こちらに迫っていた紫色の煙がスウッと色を失っていく。さらにこの場一帯に立ち込めようとしていた煙もすべて白くなると、そのまま広がって消えていった。

泡を吹いていたデーモン族たちも、咳き込んだりしているがどうやら毒からは解放されたようだ。

「毒耐性が高いはずのデーモン族があそこまで苦しむとは、相当に強力な毒だな。聖女2人の魔法があって助かった」

「『ピュリフィケイション』は効果がしばらく持続しますので、毒の煙はもう大丈夫でしょう」

オルティアナの言葉に俺は「うむ」とうなずき、そして「遠距離攻撃を」と指示を出した。

「行くわ!『フレイムジャベリン』!」

ヴァミリオラが炎の槍を放つのを合図に、アルファラが 螺旋の矢(スパイラルアロー) を、クーラリアが飛ぶ斬撃を、ミアールが飛ぶ刺突を放つ。

それらの攻撃は吸い込まれるようにネファリスの巨体に命中……すると思われたのだが、その直前、ネファリスの腹部にある人面が目をカッ見開き、そして口を開いたかと思うと、なんとすべての攻撃を吸い込んでしまった。

「馬鹿め! その程度の攻撃などすべて跳ね返してくれるわ! このようにな!」

ネファリスが両手を開いてこちらに向けた。

その手のひらにも人面があり、目と口を大きく開くと、先ほどの攻撃をそのまま撃ち出してきた。

「『アイスフォートレス』!」

俺が反応するより先に、フォルシーナが準備していた魔法を放った。

瞬時に俺たちの前に分厚い氷の壁が出現し、返された攻撃をすべて受け止めた。だがそれで氷の壁は全壊してしまう。もっとも、跳ね返された攻撃が本当にヴァミリオラらの一斉攻撃と同等のものであれば、それを受け止められるだけでも大したものである。

「なんなのあれは。あんな能力は見たことがないわ」

ヴァミリオラが杖を構えたまま警戒心をあらわにする。

アルファラも次の矢をつがえたままで待機、クーラリアとミアールも驚いた顔だ。かくいう俺も少なからず驚いていたが、しかし先ほどの技自体はゲームで見たことがなくはない。

終盤で出てくる『スペルイーター』という、ストーリーには絡まない中ボスが使っていた技である。もちろん対応策も知っている。

「リン、アミュエリザ、行くぞ。クーラリアとミアールも続け」

そう、対応策は単に物理攻撃、それだけである。

俺は先頭になって『縮地』で一気に距離を詰め、『殻断ち』という強攻撃スキルを用いて大上段から剣を振り下ろす。光の軌跡をまとった刃が、腕をクロスさせて防御姿勢を取ったネファリスの、その太い腕を斬り裂く。

「はあっ!『サウザンドスラスト』!」

「せいっ!『サウザンドスラスト』!」

さらにリンとアミュエリザによる、槍での超高速連続突きがネファリスに襲い掛かる。

一瞬で全身に無数の突きを浴び、「ぬうううッ!」と唸り声を上げる一つ目の巨人。

そこにクーラリアが『燕返し』による二段の強烈な斬撃、ミアールの『刺突烈閃』による光を帯びた強烈な突きをくらい、2歩3歩と下がるネファリス。

だがそこで踏みとどまると、太い腕を振り回して殴りつけてくる。

ネファリスが暴れるたびに肩の人面からは毒の煙が吐き出されるが、それはマリアンロッテ、オルティアナのダブル聖女の浄化魔法で無効化される。

「こいつ、硬すぎだぜっ!」

クーラリアが何度目かの『燕返し』を放つが、それでもネファリスの腕一本落とせない。確かにネファリスのタフさは異常である。

「攻撃こそ単調ですが、身体の頑強さはあのドブルザラク以上のようです」

将軍リンの『シャイニングチャージランス』の直撃を太ももに食らいながら、ネファリスはそれでも崩れることなく拳を振り下ろしてくる。

もちろんそんな単純な攻撃をリンはスルリと躱すが、必殺スキルの効果が薄いのは厄介である。

かくいう俺も何度か攻撃を加えているのだが、ネファリスの硬さには少し驚いていた。

確かにネファリスは 一つ目巨人(サイクロプス) で、死霊術師というわりに高い体力と防御力を誇るキャラではあったが、四至将ドブルザラクを超えるということはもちろんなかった。その分召喚するアンデッドが厄介でゲーム後半の中ボスとしてそれなりに強かったのだが、目の前のネファリスは明らかに別キャラであった。

仕方ないのでインチキ中ボスパワー全開で行くことにする。

「ロゼディクス様に頂いたこの力、貴様らごときに破れはせぬゥッ!」

「果たしてその通りか確かめてやろう。皆下がれ!」

俺の指示で、クーラリアたち4人が一気にネファリスから距離を取る。

ネファリスが、ミアールを狙った右フックを空振りしてたたらを踏んだ。もちろんその隙を逃す陰険国王ではない。

「 無尽(むじん) 冥王剣(めいおうけん) 」

魔力を込めた『シグルドの聖剣』を俺は大上段から振り下ろす。瞬間ネファリスの全身に無数の光の斬撃が走り、 一つ目巨人(サイクロプス) の身体をズタズタに引き裂いた。

強烈な光属性を込めた中ボス専用技の威力は絶大である。ネファリスは四肢を失い、辛うじて首がつながっている状態で地面に倒れ伏した。

「グオオオオッ!? バカなあああァァッ!」

この状態でなお叫べるのは凄まじい生命力だ。だがもはや、ネファリスの死は確定した。

止めはレアドロップ狙いで『神運メイド』のミアールに――などとゲーム脳を起動させてたのがマズかったのだろうか、ネファリスの左胸、心臓のあたりが強烈に光った。

その瞬間あふれ出る膨大な魔力。そのいびつな力の奔流には覚えがあった。

「『ソウルバーストボム』か!?」

気付いた時にはもう『ディスペルオール』は間に合いそうになかった。

「これはァッ!? ロゼディクス様ああァァァッ!!」

ネファリスの絶叫は、忠誠を誓った主君に裏切られたと気付いたゆえだろうか。

そんな考えは、『転移魔法』を発動したと同時にかき消された。