軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

08 万魔の森での野営

『万魔の森』1日目の野営。

ヴァミリオラの鋭い眼光に耐えながら女子に交じって水浴びをした後は、料理と歓談の時間になる。

今日の料理は、新しく錬金術で作り出した『スパゲティ』である。要するに見慣れた乾麺のアレなわけだが、もちろんこの世界には今までなかったものである。

なお、同時に錬成した『コンソメ』を使ってトマトソースもどきを作って食べたのだが、どちらも評判はかなり良好だった。

クーラリアなどは「美味え、美味え」と言って食べるだけだが、聖女オルティアナは、

「保存が効いて、茹でれば美味しく食べられるというのはとても使いやすくていいと思います。それとこのコンソメという不思議な調味料も素晴らしいですね。加えるだけでこれほど深みと広がりのある味がでるのは驚きます」

と冷静に評価をしていた。

「本来なら宮廷料理人たちが手間暇をかけて作り出す味を簡単に加えてしまうものだからな。もっとも、味そのものは一歩引けはとるかもしれぬが」

「そうは思えませんが……。ミリーはどう思う?」

オルティアナが話を振ると、ヴァミリオラはトマトソースのついた口元を拭いて答えた。

「そうね、この味は私の家の料理人でも簡単に出せるものではないと思うわ。ただ、この調味料が広まったら、どこも同じ味になってしまいそうで困るわね」

「そうか、どの料理店でもこれを使い始めたら同じ味になってしまうかもしれないのね」

「ええ。むしろこれは庶民に広めてしまった方がいいかもしれないわ。家でこの味が出せるなら、料理人たちはその上を行こうとしてより高みを目指すようになるでしょうし」

「ミリーは厳しいことを言うのね」

「私が厳しいというより、そちらの国王陛下がこんなとんでもないものを気軽に作り出すのが悪いのよ」

ヴァミリオラが呆れたような目を俺に向けてくる。

「調味料一つで随分な言われようだな。しかしまあ、この『コンソメ』のレシピは一般に広めてもいいかも知れぬな」

「しばらくの間は高級品になるでしょうけれどね。入れるだけで貴族家の料理に近い味が出せるなんて知られたら奪い合いになるわ」

などと言われたが、コンソメのレシピはかなり『軽い』ので、そこまでの値段にはならないだろう。

さて、料理が食べ終わって次に話題になるのは、先ほどの中ボス『ブラッディスパイン』からドロップしたアイテムだ。

テーブルの上にあるのは、うっすらと赤い色を帯びた、金属製の 籠手(ガントレット) だった。しかも拳の指の付け根のところから鋭い棘が四本突き出ていて、かなり殺意の高い見た目をしている。

要するに、先ほどの中ボス、ブラッディスパインの両腕を模した(?)、格闘用の武具ということのようだが、原作ゲームにはなかったものなので詳細は俺にもわからなかった。

多分『神運』スキル持ちのミアールが止めを刺したから現れたレアアイテムなのだろう。少なくとも、フォルシーナの持つ『精霊樹の杖』や、アミュエリザの槍『スカーレットプリンセス』と近い力がある武具である。

「お父様、これはどのような武具なのでしょうか? 籠手というのは分かりますが……」

フォルシーナがその籠手を持ち上げて、マリアンロッテやアミュエリザと一緒に眺める。

クーラリアと将軍リンも、珍しい武具なので目を輝かせている。

「これは籠手だが、多分武器として使うものだろう」

「つまり、これを着けて殴る、ということですか?」

「そういうことだ」

「とすると、誰が使うのがよいのでしょうか?」

という質問は当然出てくるものであるが、俺を含め、何人かの視線は、自然と聖女オルティアナに向けられた。

このパーティの中で、素手の格闘術で戦うのは彼女だけなのだから当然である。ただ、この見た目凶悪な籠手を聖女が着けるのはどうかとも思うが……。

見られたオルティアナは少し驚いたような顔をしたが、

「私、ですか……?」

と言いながら、その籠手を手に取って装着した。

白い修道服風ドレスと、棘が突き出た赤い籠手の組み合わせは壊滅的に似合っていなかった。

……のだが、オルティアナは妙に嬉しそうに頬を緩めていた。

「あ、これ、不思議と私に合うような気がいたします。まるで私のために作られたような……」

オルティアナは立ち上がって、少し離れたところでシャドーボクシングのような動きを始めた。しかもだんだん乗ってきて蹴りまで繰り出しているのだが、その度ごとに白いおみ足がのぞくのが非常によろしくない。

一通り具合を確かめて満足したのか、オルティアナはニコニコしながら戻って来た。

「これがあれば私はもっと強くなれる気がします。陛下、もしよろしければこちらは私が使いたいと思います」

「うむ、気に入ったのなら使うとよかろう」

「ありがとうございます。一生大切にいたしますね!」

外した籠手を抱きしめて、ほおずりまで始めるオルティアナ。その姿を横目に見て渋い顔をするのはヴァミリオラだ。

「ティア、貴女は聖女なのだから、あまりそのような派手な武具を表に出してはだめよ」

「似合わない?」

「貴女自身の見た目の問題ではなく、聖女という肩書との釣り合いが取れていないと思うわ。旅をするには必要でしょうけど、人前ではあまり見せない方がいいわね」

「そうかしら。国王陛下はどう思われますか?」

無垢な瞳を向けてくるオルティアナだが、さすがに誤魔化すのも彼女のためにならないだろう。

「ローテローザ公の言う通り、その武具は聖女のイメージにそぐうものではなかろう。有用であることには間違いはなかろうが」

「そうですか……。似合わないのですね」

「うむ。だが聖女の戦う姿は美しいゆえ、戦いの中でならまた違った見方ができるかもしれぬ」

急にオルティアナがシュンとしてしまったので、俺は慌ててフォローをしておいた。まあ実際、籠手を着けて戦う聖女オルティアナはミスマッチが行き過ぎて、逆にいい感じになるような気もする。

フォローが効いたのかオルティアナはパッと明るい表情になって、

「ありがとうございます。陛下に美しいと言っていただけるように、もっと強くなりますね!」

などと言ってきた。

それで上手く話がまとまると思ったら、ヴァミリオラがすごく嫌な顔をした。

「貴方、オルティアナに妙なことを吹き込まないでちょうだい」

「しかし強くなるのは聖女にも必要なことではないか」

「そうではなくて、美しいなんて言葉、簡単に使わないでもらいたいの。さっきリンにも言っていたでしょう?」

「確かに言ったが、心からそう思ったから口にしただけだ」

「だからこそ危険なのよ。不用意な褒め言葉は女には時として毒となるのだから、特に国王陛下には注意して欲しいわね」

う~ん、まあ確かに腹黒国王が「美しい」なんて言ったら怪しいことこの上ないか。前世ならセクハラ認定間違いなしだしなあ。

ただ俺の中のマークスチュアート面が、それが好感度アップにつながるとささやいているんだよな。実際リンもオルティアナも好感度アップしてるっぽいし。

あ、もしかしてこれはヴァミリオラにも言わないとダメな感じなのだろうか。

「ローテローザ公がそう言うなら今後注意しよう。ただ最後に、ローテローザ公も美しいとだけは言っておこうか」

「そ、そういうことを言うのをやめなさいと言っているのだけど……!?」

睨んでくる割に妙に口元が緩んでいるヴァミリオラなので、どうやら正解だったようだ。

ただその一方で、エルフのアルファラが、「クーラリア、ここにいる女はやはり全員マークスチュアートの女なのだろう?」と聞いたりしている。

クーラリアはクーラリアで「そういうのは分かってても口に出すなってミアールが言ってたぜ」と答えていて、ミアールはこちらをチラチラ見ながら「クーラリア、私は『分かっていても』などとは言っていませんよ!」と部分的に否定していた。

これで俺が好色で有名な王だったらアルファラの言う通りになるのだろうが、マークスチュアートは妻の死後、女っ気は一つもない男だったからなあ。

ちなみに今のやり取りでどうなるか少し心配だったフォルシーナだが、マリアンロッテとアミュエリザに両側からヒソヒソと耳打ちされて、大きく息を吐き出していた。やはり『氷の令嬢』面が出そうになったのだろうか。マリアンロッテとアミュエリザには時々助けられているので、後でお礼を言わないとならないかもしれない。