作品タイトル不明
04 開拓地援助
ベランゴル民主国の北の開拓地。
暴動すら起こるほど困窮しているとの情報通り、町は荒れ、畑は枯れ果てと酷い有様であった。
とりあえず町の代表者であるプレボア氏と挨拶をしたまでは良かったが、そこに『疫病発生』の知らせが届く。
そこで聖女オルティアナと『光の聖女』マリアンロッテに助けを頼むと、彼女らは二つ返事で承諾して、プレボア氏らとともに案内の青年の後をついていった。
「我らも向かうか。ミアール、クーラリア、用意してあったものを持ってきなさい」
「はいお館様」「はいよご主人様」
馬車をそのままにして、俺たちもプレボア氏は聖女オルティアナたちが向かった先に歩いていった。ミアールとクーラリアは、馬車に積んであった大きめのマジックバッグを運んでくる。
プレボア氏たちが向かった先には教会があり、俺たちがそこに着くころには多くの人々が集まり始めていた。全員で1500人くらいはいるだろうか。開拓地としてはかなりの人数であるが、全員がやせ細り、怪我をしている者も多く見られた。暴動が起きたことの名残だろうか。
プレボア氏が小走りにやってきて、「全員集まりました」と伝えてくると、聖女オルティアナは教会の方へと歩いていった。
教会前で神官と一言二言言葉を交わし、そして人々へと向き直る。するとその姿を目にした人々は、口々に「おお、聖女様……」と祈り始めた。
「わたくしはオルティアナ、教会では聖女を任されております。皆様の苦しい身の上を聞いて、この地へとやって参りました。まずはこの場にて皆様に回復魔法と浄化魔法をおかけします。効果が高まるよう、ラファルフィヌス神に祈りを捧げてくださいませ」
「ははぁ……っ」
聖女オルティアナが両腕を開いて、そして胸の前で合わせて祈りのポーズを取ると、人々も一斉に祈りの姿勢をとる。
オルティアナの全身が輝き始め、その光が人々を包み込むと、「おお、傷が……」「痛みが消えていく……」という声があちこちで上がる。
続いてオルティアナは浄化の魔法も行使した。彼女の身体から発せられる光が周囲を包むと、周囲の空気が一気に清浄なものに変化したことが感じられるほどであった。
俺の隣で祈りを捧げていたマリアンロッテが、
「さすがオルティアナ様。これほど神々しいお力をお使いになられるのはオルティアナ様以外いらっしゃいません」
と目を輝かせて感動をしているのも当然であろう。
魔法の行使が終わると、オルティアナはそこで俺に目くばせをした。俺はオルティアナの隣まで歩いていき、人々に声をかけた。
「私は隣国神聖インテクルース王国の王、マークスチュアート・ブラウモントだ。我々はベランゴル民主国の首都へと赴く途中であるが、諸君らの苦境を知ってこちらへ立ち寄った。聞けば食料がないとのことゆえ、これから諸君に非常の食料を配ろうと思う。間違いなく全員の手に渡る量は用意してあるので、焦らず受け取って欲しい」
「おお……」
「インテクルース王国の王様がなんで……」
「ブラウモント王は冷酷非情って話じゃ……」
「でも聖女様と一緒に来たっていうことは……」
ちょっと気になる言葉も聞こえてくるが、そんな情報操作くらいは当然行われているだろう。
俺はミアールとクーラリアに指示をしてマジックバッグから非常食を取り出させ、プレボア氏に配布の手伝いができる人間を出してもらって食料の配布を始めさせた。フォルシーナたちも率先して手伝ってくれるのも、なんともヒロインっぽくて少し感動してしまう。なおアルファラも手伝っているのだが、エルフである彼女の姿を見て驚いた顔をしている者も何人もいた。
ちなみに配布しているのは『カロリーバー』という、錬金術で作られる携帯食料である。その見た目は、前世日本にもあった口の中の水分を奪っていく直方体のお菓子みたいなアレだ。ゲームでは体力全回復の効果があったものだが、さすがにこの世界では怪我を治すような効果はない。代わりに一本で満腹になるという優れモノで、ほんのり甘いクッキー味は、この世界の庶民にとってはかなり美味いと感じるもののはずである。
「この食料は一回一食で済むものだ。空腹だといって2本食べると胃が破裂するので決して食べてはならぬぞ」
と一応脅しておけば、無駄に消費してしまうことはないだろう。そもそも一人10本、5日分しか配れない。ちなみにこの世界、庶民は一日2食である。
配られた人間の中には少し離れたところで食べ始める者もいた。
「うお……これすげえ美味い……! しかもなんだ、身体に力が湧いてくるぞ!」
「えっ、これ美味しい! しかもお腹が一杯になって……なんか身体がさらに軽くなった気がするわ」
やせ細り背を丸めていた人間が、急に背筋が伸びて、しかも頬まで心なしかふっくらしている感じである。錬金術によるアイテムは魔法的な効果があるものが多いが、どうやら『カロリーバー』も見た目以上の効果があるらしい。
先ほどの聖女オルティアナの魔法と合わせて効果が倍増したのだろうか、今にも死にそうな雰囲気だったご老体までが腰が伸びて運動を始めたりまでしている。いや、そこまで変わるとちょっと怖いんですけど。
彼らはしばらく互いにわいわいやっていたが、急に俺の方に駆け寄ってくると、一斉に頭を下げ始めて、「マークスチュアート国王陛下、ありがとうございます!」などと口々に礼を言い始めた。
「王として当然のことをしたまでだ。だがこの食料配布では一時しのぎにしかならぬ。明日以降、この地を実りある地とするために諸君らの力が必要になる。その方策は用意してあるので協力をして欲しい」
「おお、さらにお力をお貸しくださるのか……」
「ウチの国のお偉いさんとはまるで違う……」
「これがまことの王様じゃ……」
う~ん、ただ苦しいところにやってきて善人のふりしてるだけだからなあ。こっちとしては目の前の人々に盗賊化されると困るから手を貸しているだけである。
ともかく食料配布も終わり、俺たちは人々に感謝されながらその場を後にした。