軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

03 北の開拓地へ

ベランゴル民主国への旅。

最初の目的地である北の開拓地まで、馬車での旅は2日ほどかかった。

『転移魔法』で転移しまくっている身としてはもどかしいことこの上ないが、これがこの世界での本来の移動である。

そもそも2日というのも、地球の中世あたりの馬車移動などに比べると相当に早いはずなのだ。

この世界は魔法のおかげで文明的にかなり発達していて、街道の舗装はかなり程度がいい。しかも馬車そのものも、牽く馬が強靭なのでスピードが速く、しかもスタミナがある。地球での馬車のスピードがどれほどか知っているわけではないが、こちらの世界の馬車は感覚的に時速20キロ以上出ているのではないだろうか。しかも少ない休憩で7、8時間くらいは走り続けるので、一日の移動距離はかなりのものだ。

もっともその分、馬車に乗る方もある程度『レベルアップ』している必要がある。王家の馬車は乗り心地はかなりマシな方だが、それでも尻と腰に結構なダメージが来るからだ。

さて、神聖インテクルース王国とベランゴル民主国の国境を隔てる山岳地帯も一応道が切り拓かれており、その山道を乗り越えて、俺たちは2日目の夕方にはベランゴル民主国の北の開拓地へと到着した。

そこは確かに森が切り拓かれ、広大な耕作地が一面に広がっていた。

木造の大小の建物が並ぶ街が遠くに見え、本格的に開拓された地であるのも間違いなさそうだ。

問題はその耕作地に植えられた作物が、わずかな緑をところどころに残す以外、ことごとく枯れていることである。

用水路には水はほどよく流れており干ばつというわけでもなさそうだ。それなのにこの不作ぶりは不思議に思うくらいであった。

これで中央が政争なんてやっててろくに援助もしないのでは、それは反乱も起こるだろうという雰囲気である。もちろんこれを放っておけば、開拓民が難民となって神聖インテクルース王国側に逃げ込んできてもおかしくはない。

馬車の中から外を見てフォルシーナが小さく溜息をついたのも、それを感じたからだろう。

「これは思ったよりも深刻な状態のようですね、お父様」

「うむ。水がしっかりと引かれているのにここまで作物が育たぬのは、土地そのものに原因があるのかもしれぬ」

「土地が作物を育てるのに適していないということでしょうか?」

「そうだな。もしくは作物を枯らせるような病気などがあるのかもしれぬし、作物を食ってしまう虫などがいる可能性もある」

「なるほど。しかしこれは早急になんとかしなければ、この土地の人々が飢えてしまうのではありませんか」

「だからこそ暴動が起きたのだろうな。街を見るといい」

街はだいぶ近づいてきていたが、つぶさに見てみると、多くの建物が破損しているのがわかる。壊れ方からして明らかに戦いがあった跡である。

「ひどい有様ですね。通りに人も少ないように見えますし、いる人間も痩せているように見受けられます」

「うむ。対応をせねばこの開拓地は消滅してしまうだろう。ここまで森を切り開いておいてそれはあまりに残念というもの」

と話をしているうちに、馬車は街中へと入っていった。

見とがめる者や呼び止める者がいるかと思ったが、通りの道端を歩く、もしくは座り込んでいる人間は、もはやその力すらないように見える。時折子どもがこちらを興味深そうに眺めたりもしているが、その身体は骨が浮き出ていて痛々しいほどだ。

やがて馬車は街の中央の最も大きい建物の前で停まった。三階建てのその建物が、この街の代表者の家ということだろう。ちなみにこの馬車の御者席にはミアールとクーラリアが座っている。もう一台の馬車には聖女オルティアナとマリアンロッテが乗っているが、その御者はアミュエリザが買って出てくれていて、エルフのアルファラと一緒にいるはずだ。

ミアールが建物に入っていき、すぐに50歳くらいの役人風の男と共に出てきた。その男もかなり痩せていて、顔を見ると今にも倒れそうなほどに生気がない。

俺が馬車から下りていくと、その男は辛うじて姿勢を正して一礼をした。

「こ、これはマークスチュアート国王陛下、ようこそおいでくださいました。わたくしはこの開拓地の臨時の責任者をしておりますプレボアと申します。お迎えをいたしませんで大変申し訳ございません。中央からの連絡も来ておらず、陛下がご来臨されることも存じておりませんでした」

「そうか、では急な来訪となってしまったな。連絡が来ていないのであれば貴公に落ち度はない。そこまで 畏(かしこ) まらずともよい」

「ははっ、ありがとうございます」

「ときに、この地は非常に困窮しているように見受けられるが、実際どのような状況なのだろうか」

「そ、そのことなのですが……」

「プレボアさん、大変だ!」

プレボア氏がなにかを話そうとした時、通りを駆けてくる青年がいた。その青年もかなり痩せていて、今にも倒れそうなくらいに見える。

プレボア氏は、青年が俺とのやり取りに横入りしてきたことをマズいと思ったのだろうか、「も、申し訳ありません陛下」と謝った。

「よい。急ぎの件ならそちらを優先したまえ」

「はっ、はい、失礼いたします」

プレボア氏は青年の方へ駆け寄って、二、三言葉を交わした。

「……エモンの家で流行り病が……」

「……なんということだ。急ぎ隔離を……」

「……一応教会には話はしましたが……」

「……この状況で流行り病は、大勢の命にかかわる……」

う~ん、どうも深刻そうな話が聞こえてきてしまったな。

この世界で言う『流行り病』は、前世でのインフルエンザに近いものだ。

ヴァミリオラたちもかかっていたが、教会や医師に魔法をかけてもらい、栄養を摂って安静にしていれば3日くらいで治るものである。ただし本人の抵抗力が弱っていると容易に死につながる病でもあるため、この街で流行すれば致命的な事態に陥る可能性がありそうだ。

さすがに無視もできないため、俺はプレボア氏に声を掛けた。

「プレボア殿、もしよければ我らが対処を手伝おう。流行り病ならば強力な回復魔法と浄化魔法、そして食料があれば解決ができる。そのいずれも我らは備えているゆえな」

「は……、はっ!? いえ、その、陛下のお手を煩わせることでは……」

「目の前に苦しむ民あらば手を差し伸べることこそ王としての責務。それが他国であろうとも関係はない。貴公が遠慮する必要はない」

とちょっと格好をつけて言うと、プレボア氏は腰が折れるんじゃないかとうくらいに頭を下げた。

「あっ、ありがとうございます! 今この街には満足に食料もなく、流行り病が広がれば多くの者が犠牲になります。なにとぞお助けください」

「うむ、任せるといい」

なんて偉そうに言ってるけど、実際魔法をかけるのは聖女オルティアナとマリアンロッテだし、あとは持ってきた食料を配るだけなんだけどね。

俺が目配せをすると、馬車から聖女オルティアナとマリアンロッテが下りてくる。手早く事情を説明すると、2人はやる気まんまんでボランティア活動を承諾してくれた。

その姿を見て今度は腰が抜けそうになるプレボア氏。

「そっ、そちらのお方はもしや聖女オルティアナ様!?」

「事情はお聞きしました。その病にかかった方も含め、この街にいる方全員に回復魔法と浄化魔法をかけましょう」

「あ、ありがとうございます! では急いで皆を教会前に集めます」

「よろしくお願いしますね」

オルティアナがニッコリ笑うと、プレボア氏は青年と共にすごい勢いで教会の方へ走っていった。特に青年はこんな状況なのに顔を真っ赤にしているのだが、まあ一般の人間が聖女オルティアナに話しかけられたらそれが正常な反応である。