作品タイトル不明
02 ベランゴルへ行く前に
3日後、俺は供の者を連れ、ベランゴル民主国へと出発した。
といっても、まずは王城から直接ローテローザ公爵邸に『転移魔法』で転移するところからスタートである。
公爵邸に移動したのは、ベランゴル民主国がローテローザ公爵領からすぐ南にあるためである。マークスチュアートもベランゴル民主国に行ったことはないため、ここからは馬車で向かうことになる。
なお、普通に考えれば大陸最強国かつ戦勝国の王自身が他国に行くなどということは基本ありえない。それが乗り込むということになれば、普通ならとんでもない大名行列になるところである。
しかしこの世界では、供回りは人数を揃えるより、高レベルの強者をどれだけ連れて行くかが重要で、なおかつ評価されることになっている。
なので今回俺が連れているのは、『氷の令嬢』フォルシーナ、『光の聖女』マリアンロッテ、『緋の麗槍』アミュエリザ、『神運』メイドのミアール、狐獣人クーラリア、古代アンドロイドのツクヨミ、そしてエルフのアルファラと、ベランゴルの教会に用事があるという聖女オルティアナという、いつもの錚々《そうそう》たる美女美少女メンバーであった。
見た目が華やかすぎてちょっとアレだが、実力的には全員がツクヨミの言うランクBであり、これだけで小さな国なら落とせるレベルの一団である。もっとも見た目的にこのメンツで乗り込んでいったら、俺に関して酷い噂が立つような気もするのだが……。しかしゲーム的にもメインキャラで実力も折り紙付きなのでじゃあ別の人間で、というわけにもいかない。
ちなみにエルフのアルファラだが、母親のゼファラとの話し合いの結果、側仕えみたいな形で俺の元に来ることになった。実質的にはフォルシーナをリーダーとした原作ゲームパーティ(改)の一員という扱いである。
さて、公爵邸に転移した俺たちだが、挨拶を終えてすぐにベランゴルへ向けて出発することになる。そして今、館の門の前で女公爵ヴァミリオラとその妹ロヴァリエに見送られているところである。
門の前に並ぶ美少女御一行様をしばらくうっとりとした顔で眺めていたヴァミリオラだが、急にキリッとした表情に戻ると、俺をジロッと睨んできた。
「実力的にこの娘たちが貴方の供になるのはわからなくはないのだけれど、それにしても貴方の強い意思を感じる一団ね」
「この供について、私の意思がほとんど反映されていないことはローテローザ公には伝えておこう」
先に「この世界では強者が重要」などと言い訳をしたが、実際当初は護衛のクーラリアと助手のツクヨミだけを連れて行く予定で、後は親衛隊で形を整えるつもりだったのだ。ところがフォルシーナが譲らず、マリアンロッテやアミュエリザ、さらにはアルファラまでがそれに加勢したため予定を変更せざるをえなかった。俺にとって彼女たちはやっぱり断罪が怖いのである。
「そうは見えないけれど。今回は私はついていけないけれど、アミュエリザやオルティアナに妙なことはしないでもらいたいわ」
「今まで一度もなにかをした覚えはないのだが」
「だからこそ今回は見送るだけに留めているのよ」
そう言ってから、ヴァミリオラは聖女オルティアナのところへ行って「ティア、くれぐれも身の回りに気を付けてね。それとアミュエリザのことも頼むわね」などと俺に聞こえるように念を押していた。相変わらずヴァミリオラからの信用は低いようで、今後も継続的な好感度アップが必要のようだ。
そんなことを心に決めていると、赤い髪をツインテールにした10歳くらいの少女、ロヴァリエがやってきた。なにか小声で話をしようとしているので俺が腰をかがめると、ロヴァリエは耳元に口を近づけてきた。
「お姉様は国王陛下がアミュエリザ姉様やオルティアナ様にとられるのではないかと心配なのです」
「……む?」
なにかの聞き違いだろうか。
ロヴァリエの言葉をそのまま信じるなら、ヴァミリオラが俺のことを……なはずはないよなあ。
「ですから、陛下もヴァミリオラお姉様に一言声をかけてあげてください。それだけでお姉様は満足されると思います」
「うむ……」
なんだかよくわからないがロヴァリエは勘違いをしているようだ。まあこの年頃の女の子はなんでも恋愛とかに結び付けたがるからなあ。
俺とロヴァリエがひそひそ話をしていると、「あら」と咎めるような声が聞こえてきた。
見るとヴァミリオラが熱光線でも出てるんじゃないかという目つきで俺を睨んでいる。
「国王陛下はなにをしていらっしゃるのかしら? まさか年端も行かないロヴァリエにまで毒牙にかけようというのかしらね」
「毒牙とは少しばかりひどい言われようだな。貴公でなければ聞き捨てられぬところだ」
「ふぅん、私なら聞き捨ててくださるのね」
口元を隠すようにして、挑発的な目で俺を見上げてくるヴァミリオラ。
半分冗談なのはわかっているので、俺はそれに乗って彼女に一歩近づき、顔を彼女の耳に寄せた。
「それは無論のことだ。私がベランゴルに安心して行けるのも貴公がいればこそ。共に国を治める者として、私が最も信頼をしているのは貴公なのだ。それは忘れないでもらいたいものだな」
マークスチュアートの陰険糸目キャラボイスでそう囁くと、ヴァミリオラは目を見開いてのけぞった。
「ちょっ……急になにを……!?」
と叫びかけて、ヴァミリオラは自分が取り乱したことに気づいたのか、顔を赤らめながら咳払いをした。
「……ま、まあそれはわかっているわ。国王陛下がいない間も周囲には気は配っておくし、東のミュールザンヌ教国のほうの情報も集めておくから、ゆっくりとベランゴル観光を楽しんでいらっしゃるといいのではないかしら」
「ふっ、そうさせていただこう」
どうやらロヴァリエのおかげでヴァミリオラの好感度アップができたようだ。
おふざけが過ぎたのでフォルシーナの視線がいきなり氷点下になったのは仕方ないだろうか。こちらは馬車の中で好感度アップを図ればいいだろう。
その後俺たちはヴァミリオラとロヴァリエに別れを告げ、ローテローザ公爵邸を後にした。
2台の馬車が向かうのは、まずはベランゴル民主国の北の開拓地である。
確かベランゴル軍はこちらに攻めてくる前に開拓地の反乱を鎮圧していたみたいだが、さて、どんなことになっているのやら。