作品タイトル不明
05 不作の原因と対策
その日の夕方は、開拓地の代表者プレボア氏の家で、この開拓地で起きたという暴動について少し話を聞いた。
その場でプレボア氏が、実は臨時の代表者だということを知った。どうやら前任の代表者は中央の役人とべったりで、暴動の際に追い出されたらしい。
「不作な上に前任がなんの手立ても取らず、もともと開拓民の間に不満が溜まっていたのです。そんな中アルバッハ首相がこちらに視察に訪れたのですが、その時に前任が大層派手にもてなしたのです。開拓民は食うものに困る状況でそのようなことをしたものですから、開拓民の不満が爆発しまして……」
「なるほど……。それで軍まで出てくる話になったのだな」
「ええ、そういうことになります。ただやってきた軍の方は、パリヨー将軍が話の分かる方で、そこまで大事にはなりませんでした。もともと開拓地についてはついでだったようでして」
「彼らは我が国に侵攻するのが主目的だったようだからな」
「は、はい。しかしそれもすぐに戻ってきて、我々も非常に驚いておりました。正直な話をいたしますと、我々もいつ陛下の軍が来るかと戦々恐々としておりました」
戦争をしに行ったと思ったら数日で敗走してきたなんてそれは驚くよね。
しかも負けたら当然逆に攻めてこられるはずだし、そんな時に犠牲になるのはなんの罪もない一般市民というのは昔からのお約束である。
「私はこの国の領地には一切興味はないので安心するといい」
とプレボア氏を安心させるために言っておいたが、
「いえ、こうなるとむしろ陛下の領地としていただいたほうが安心できるくらいです」
などと返されてしまった。
しかもその瞬間フォルシーナたちが目を輝かせたりして、簒奪ムーブの次は侵略ムーブを強要されるのかと思い、プレボア氏との対談はそこで打ち切ることにした。
さて、夜は適当な場所に亀の甲羅型魔導具、魔法の家である『モバイルフォートレス』を設置してそこで一泊した。
翌日、俺たちはプレボア氏と、何人かの開拓者の男女とともに、耕作地へとやってきていた。
「ここは麦を植えているのですが、ご覧の通りの有様なのです」
プレボア氏が指し示す先には、多くは枯れ、緑を保っているものは痩せて穂が出ているのかどうかさえ怪しい麦の畑がある。
「なぜこうなってしまうのか原因はわかっているのかね?」
「原因として考えられるのは2つです。この土地そのものが痩せていることと、麦を食う土着の虫のせいです」
「土地と虫か。ツクヨミ、調べられるか?」
俺は見た目は黒髪ロング幼女、正体は古代文明アンドロイドであるツクヨミを呼んだ。
ツクヨミは「はいマスター、分析してみます」と答え、畑に入っていって作物を観察したり、手を地面に差し込んだりして調べ始めた。
髪の毛が一部変形してアンテナや片眼鏡みたいなデバイスになったりするのだが、もちろんそれを見てプレボア氏が目を丸くしている。
ツクヨミは5分ほど調査をして、そして戻ってきた。
「調査完了しました。作物が育たない原因として考えられるのは、まずは土地の栄養分と、精霊力の不足が上げられます。特にこの地には精霊力が足りていません。過去に魔法的な災害が起きたか、周囲で地脈の分断が起きているものと思われます」
「ふむ」
この世界では作物を育てるのに、肥えた土地と精霊力の2つが必要と言われている。前者は前世でいう栄養分のことだが、後者はこの世界ならではの考え方である。
『精霊力』は『地の精霊クーロ』のような精霊が発するエネルギーのことで、基本的にはどの土地にも満遍なく存在する。ただその精霊力は、地脈なる流れに沿って大地に行き渡っていると考えられていて、その地脈がどこかで断たれると、その土地は枯れた土地となってしまう。
見渡すと、確かに遠くに見える木々もどこかやせ細っていて、この地が耕作に向いてないことがなんとなく察せられる。
そしてそれはプレボア氏も理解しているらしく、
「もともとここは耕作に適していないので、開拓する意味はないと言われていたのです。それが中央のお偉いさん方が無理矢理開拓団を送り込んで、開拓させた挙句にこの状態なのです」
と泣きそうな顔で口にした。
「それは酷い話だな。ツクヨミ、他には?」
促すと、ツクヨミは手を俺の方に差し出してきた。その指先には、カメムシに似た虫がつままれている。
「このムギクイムシが大量発生しています。この虫は麦の根本付近の茎を食い破り、麦を枯らせてしまう厄介な虫です。古代から農業従事者を悩ませている虫です」
「なるほど。この虫については対策はないのかね?」
俺の質問に、プレボア氏は首を横に振った。
「虫除けの植物がありまして、本来ならそれを用意して煙を焚くのですが、それも中央から届かなくなってしまったのです。噂では、この開拓事業を推進する勢力と敵対していた議員の嫌がらせとか」
「度し難い話だな。そもそもこの地を開拓しようという位なのだから、国全体として食料が不足しているのではないのか?」
「おっしゃる通りです。ですから、本来なら中央が全面的に後援をするべきものなのです。実際、そのように説明を受けて我々は開拓に来たのですが……」
話を聞くほどに酷い状況のようである。
もちろんプレボア氏の言葉も100%その通りではないのだろうが、おおむね事前に集めた情報とも合致しているようであった。
俺は鷹揚にうなずいて見せると、プレボア氏に切り出した。
「瘦せた土地と虫の害、どちらも解決する手段を我々は持っている。それをこちらにいくばくか預けよう」
「そ、それはどのようなものなのでしょうか?」
「これだ」
俺はマジックバッグから『土壌改良石』と『虫除け石』を取り出した。見た目は七色に輝く石と、金平糖みたいな黒い石だ。
ちなみに『土壌改良石』は『叡智の魔導師』エメリウノが発明したもので、『虫除け石』は王家お抱えの錬金術師リラベルが作り出したものである。
「これはそれぞれ『土壌改良石』『虫除け石』というもので、その名の通りその土地を精霊力あふれた肥えた土地にする効果と、虫を寄せつけなくする効果があるものだ」
「そのようなものがあるのですか!?」
「わが国で新たに錬金術で作っているものだ。効果は保証するが、まだ作り出して間もないものなので、運用については手さぐりでやってもらうことになる」
「は、はい。しかしそれはとても貴重なものなのではございませんか?」
「現時点では非常に貴重なものだ。だがこれを使わねばこの土地はどうにもならぬだろう。逆に言えば、これらが役に立つかどうかを測るためにこの土地は丁度よい。だからこそ預けるということは含んでおいてもらいたい」
俺の言葉に、プレボア氏はコクコクとうなずいた。
「わかりました。我々はもはやほかに頼るものがありません。こちらを是非使わせてください」
「うむ。では効果の説明をしておこう」
その後プレボア氏と集まった男女に『土壌改良石』『虫除け石』の説明をして、それぞれ十分な数を預けておいた。
これで上手くいけば作物が取れるようになるだろう。この土地の人間が難民化することが防げればこちらとしても心が休まる話であるし、『土壌改良石』の検証ができるのも意味がある。
しかも貴重な物資を渡した分の貸しはベランゴル民主国の政府に丸ごと請求するつもりであるから、こちらの懐も痛まない。
このあたりの腹黒さがいかにもマークスチュアートであるが、まあ俺の周りの人間は不幸にならないのでいいだろう。
その後俺たちはプレボア氏始め人々に見送られながら、開拓地を後にした。