作品タイトル不明
14 戦後処理のついでに
戦勝を祝う宴の席。
聖女オルティアナからミランドラ先代妃などについての話を聞いて一段落ついたところで、意外な人物が俺のところにやってきた。
それはサムライみたいな風貌の達人剣士、リープゲン侯爵であった。
「この度の大勝利、心よりお祝い申し上げまする、マークスチュアート国王陛下」
「うむ。卿も戦場ではよくやってくれた。ミルザム王国の強者、将軍メンディエッタを見事退けていたな」
「ありがとう存じます。彼女は実に強敵でござったが、全軍の勢いもあって勝つことができ申しました。ただ、その際彼女の片腕を奪うことになってしまい、それが同じ 武士(もののふ) として気がかりでございまして……」
そこで眉を寄せ、視線を下に向けて言いづらそうにするリープゲン侯爵。
剣の達人らしからぬその態度に俺は首をひねる。
「戦場では仕方ないことと思うが、卿が気がかりに思うのは彼女の身の上か?」
「左様にございます。あれ程の 研鑽(けんさん) を積んだ者、ここで終わらせるのはもったいのう思いまして」
「ふむ。それを私の元に相談に来たということは、将軍メンディエッタの失われた腕を治す目的で、『エクストラポーション』を彼女に渡してよいかどうか確認するためか?」
と確認すると、リープゲン侯爵は「その通りにございます」と頭を下げた。
強者同士のシンパシーとかそういう感じだろうか。俺としても、強者が失われることを惜しいと思う気持ちはないでもない。今後ミルザム王国がこっちに牙をむいてくることはもうないだろうし。
俺は腰のバッグから『エクストラポーション』を一本取り出してリープゲン侯爵に手渡した。
「ならば卿の手から渡すがよい。私も強者が失われるのは忍びない。この件はゲントロノフ公に私からも話をしておこう」
「か、感謝いたしまする! 必ず彼女の手に渡すことを約束いたしましょうぞ!」
剣の道一筋といった雰囲気のリープゲン侯爵だが、引き締まった頬を緩めているので将軍メンディエッタについてはよほど心に引っかかっていたのだろう。リープゲン侯爵は『エクストラポーション』をしまうと、何度も礼をして去っていった。
が、その後ろ姿を、聖女オルティアナが何度もうなずきながら見ているのはなぜだろうか。
「聖女オルティアナ、なにか気になることがあるのか?」
「いえ、ただ今のリープゲン侯爵閣下のお話がとても良いものだと感じまして」
「ああ、強者同士思うところがあるのであろうな」
「いえ陛下、私が気になったのは、お相手のメンディエッタという方が女性でいらっしゃるということです。リープゲン侯爵は、そのメンディエッタという方に特別なお心を抱いていらっしゃるのでしょう」
「特別な心というのは……もしや男女の情ということかな?」
「ええ、殿方のあのお顔は間違いなくそうだと思います。陛下は今とても素晴らしいことをなさいましたね」
いやいや、今のってそんな話だったのか。
確かに将軍メンディエッタは野性味あふれる美女みたいな雰囲気はあったけど、戦場でそんな話があるなんてまったく考えてなかった。
「そういうことならリープゲン侯爵の想いが通じることを祈っておこうか」
「はい、私もそうしたいと思います。ところで陛下はそのようなお相手はいらっしゃらないのでしょうか?」
「む……?」
いい話になりそうなところで、いきなりクリティカルな質問をしてくる聖女オルティアナ。
しかもその雰囲気を察して(?)か、フォルシーナやマリアンロッテ、アミュエリザの3メインヒロインや、女公爵ヴァミリオラ、さらにエルフのゼファラ・アルファラ親子まで集まってきて、俺の周りがいきなり華やかになってしまった。
その様子を見た周囲の貴族たちや、教皇ハルゲントゥスなどは訳知りな顔でこちらをチラチラ見てきたりして、どうも俺が 美女(ヒロイン) を権力で無理矢理集めているように見られているような気が……。
まさかフォルシーナたちとは関係ないところで、色ボケ国王追放ルートなんてものが生まれてきたりしないだろうか。
急に背筋が寒くなってきて身震いしていると、隣にフォルシーナがやってきた。
「お父様、楽しそうにお話されていらっしゃいますが、なにか良いお話でしょうか?」
「う、うむ……まあ、リープゲン侯爵が少しな」
「侯爵様が? 聖女様、そうなのですか?」
「ふふっ、そうですね。リープゲン侯爵に い(・) い(・) 方(・) がお出来になったのではないかというお話だったのです」
「まあ、そのようなお話が! 後でぜひお聞きしなくては!」
こちらはマリアンロッテだが、聞くのはやめてあげて欲しい……と思ったら、聖女オルティアナが人差し指を口に当てるポーズをして止めてくれた。
「マリアンロッテ、そういうお話は遠くから眺めるのがマナーですよ」
「そうなのでしょうか……。ちょっと残念です」
「ですから私は、国王陛下にもそのような方がいらっしゃるのではありませんかとお聞きしたのです」
「まあ、それはとても興味深いですね!」
オルティアナの言葉を聞いて、両手を胸の前で合わせてキラキラした目でこちらを見てくるマリアンロッテ。アミュエリザも同じ感じでこの2人は微笑ましいのだが、フォルシーナのジトッとした目と、急に突き刺すような視線を向けてくるヴァミリオラが怖い。
なぜかエルフのゼファラ、アルファラ母娘は腕組みをして、したり顔でうなずいているのだが……それって『後方〇〇面』とかいうやつではないでしょうか。
「それでお父様、どうなのですか?」
「無論そのような相手はおらぬ。とりあえずこの度魔族の大侵攻と、それに乗じた2国を退けたとはいえ、いまだこの神聖インテクルース国を取り巻く状況は不安定すぎる。この状態で男女の情など王が考えることではない。前にも同じようなことは言ったと思うが」
「お聞きしたかもしれません。しかし今回、2国に関してはもうお父様に支配されたも同然、魔族もあれほどの戦力を失っては風前の灯でしょう。とすれば少しはお父様のお心持ちもお変わりになるのではありませんか?」
なんでそこでさらに踏み込んでくるのだろうか。
娘として父王の女性関係が気になるのはわかるのだが……。そういえば、もし俺に妃ができて息子が生まれたりしたらフォルシーナは難しい立場になるもんなあ。
「フォルシーナよ。なにがあろうともお前に対する心は変わらぬ。安心するがよい」
仕方がないので多少の親バカ発言をして好感度アップを図っておく。フォルシーナは「そっ、そういうことではないのですが……」と言いつつ頬を赤らめているのでOKだろう。
「聖女オルティアナよ、そのような理由で、私には今想うような相手はおらぬ。それでよいか」
と言うと、オルティアナは少しつまらなそうな顔をしたが、「ではまだ大丈夫なのですね」と意味不明の言葉を漏らした。
そのやりとりを微妙に忌々しそうに見ていたヴァミリオラだが、溜息をひとつ漏らすと切れ者女公爵の顔に戻った。
「それで国王陛下、あの2国についてはどう処理をするつもりなのかしら? まさかただ賠償金を取り立てて、それで終わりにするつもりではないわよね?」
「それ以上なにかを求めるつもりはない。我が国はすでに領地は十分以上に広く、今後魔族との関係によっては北の平原も開拓をするつもりでいるので新たな土地も要らぬ。鉱山などは得られるかもしれぬが、そもそも我が国は資源には困ってはおらぬからな」
「王がそのように無欲では困ってしまうのだけれど……。でも貴方がそんな単純な人間でないのは私もわかっているわ」
「それはどのような意味でしょうか?」
と聞き返したのはフォルシーナだ。マリアンロッテやアミュエリザ、そして聖女オルティアナも期待の眼差しでヴァミリオラを見つめている。
「この国王陛下は、ミルザム、ベランゴル両方について火種を用意していたのよ。少し調べさせたけれど、まずミルザムは帰ったキルリアン王が完全に魂が抜けようになっていて大変みたいね。しかもキルリアン王が悪者と名指ししたマークスチュアート王が、聖剣を携えドラゴンにまたがる『神に選ばれた王』だって噂が立ってしまっているのよ。だから国内でもキルリアン王を弾劾する動きが強まっているそうよ」
「なるほど、さすがお父様です」
「まさかそこまでをお考えになっていたとは……」
いやちょっと、エルゴジーラについては完全に偶然だからね。まあキルリアン王が戻ればひと悶着はあるだろうとは思ってたけども。
俺が難しい顔をしていると、さらにヴァミリオラは言葉を続けた。
「それとベランゴル民主国だけど、国王陛下の策の通りに議会がかなり荒れているようね。今の首相はなかなかのやり手だったみたいだけれど、その分水面下でかなり恨みを買っていて、それがかなり燻ってきているみたいよ。収容所にいた政治犯を解放しようという動きもあるとかで、この後確実に一波乱あるんじゃないかしら」
「お父様の深慮遠謀はまさに神の如くですね」
「本当に陛下は神の 御業(みわざ) の代行者なのかもしれません」
フォルシーナさんとマリアンロッテさん、教皇猊下と聖女の前でそれは真面目に危険発言ですからお控えくださいね。聖女はニコニコ笑ってらっしゃいますけど、教皇猊下は……聞こえないふりをなさってますね。すみませんありがとうございます。
しかしベランゴルは予想通りとはいえ、大規模な政争となると血の雨が降りそうな予感もあるな。中央が荒れると北の開拓地なんかもまた放置されるだろうし。
と考えていると、ヴァミリオラが目を細めてこちらに一歩近づいてきた。
「あら、国王陛下は浮かない顔だけれど、なにか気になることがあるのかしら」
「なに、ミルザムの方は宮廷内だけでひと悶着あるだけだろうが、ベランゴルの方は少し規模が大きい争いになるだろうと思ってな。それによって被害を受けるのは民であるから、それが少し気になったのだ」
「ご自分で仕掛けておきながらお優しいことね」
「そう言うな。他国であっても民を苦しめることは望むところではない。それにベランゴルの北の開拓地は貴公の領地のすぐ南であろう。その民が困窮して盗賊などに身を堕とせば、困るのは結局こちらだ」
「それはその通りね。今のベランゴルの民にとって私たちの国はよほど豊かに見えるでしょうから。でも、だったらどうする気なのかしら?」
「ふむ……」
マークスチュアート面に従って内部分裂を煽ってしまったが、ベランゴル民主国については対岸の火事で済ませられないかもしれない。
さすがに無辜の市民が盗賊に身を落とすとか、しかもそれをこちらが討伐するとか、そんなことは御免被りたい。
それにベランゴル民主国はゲームにも出てこなかった国だし、しかも民主主義の国らしいので俺自身少し興味がある。『転移魔法』の転移可能地点を増やす意味でも、一度訪れてみるのもいいだろう。
俺は近くにいた宰相のマルダンフ侯爵と家宰のミルダートを呼び寄せて、新たな相談を持ち掛けた。