作品タイトル不明
11 西方戦線再び
今俺は、天翔ける漆黒の巨大ドラゴン・エルゴジーラの背中に、フォルシーナとツクヨミと共に乗っている。
隣には真紅の巨鳥・フェニックスが飛んでいるのだが、その背にはミアールとクーラリアがまたがっている。
つまり二体の空飛ぶ幻獣に乗って空の散歩を楽しんでいるわけだが、ちょうど眼下に戦場が見えてきた。もちろんそれは神聖インテクルース軍とミルザム軍がぶつかる西方戦線の戦場である。
幸いなことに、戦場は膠着状態に陥っていた。
俺が王都に引き返す前にミルザム軍の主力である 鋼鉄騎士隊(アイアンナイツ) がほぼ壊滅し、ミルザム軍は最強の矛を失った状態にあったのだ。その後歩兵隊が突っ込んでくるところだったのだが、どうやらあの後ミルザム軍はいったん川むこうまで退いたらしい。
見ると歩兵隊を率いる女偉丈夫・将軍メンディエッタは健在だったが、その左腕は肘から先がなくなっていた。それでも包帯を巻いただけで平然としているのはこの世界の強者ならではだ。
一方ゲントロノフ軍の方の剣豪・リープゲン侯爵は健在なので、一騎打ちは侯爵の勝ちで終わったようだ。
と、俺がそこまで見てとったところで、背中のフォルシーナが声をかけてきた。
「お父様、戦の方はどうなっているのでしょうか? 動きがないように見えますが」
「どうやら一度ミルザム軍は退いたようだ。主力が壊滅してさすがに突破できぬと思ったのだろう」
「ではこちらから攻めるのですか?」
「いや、それには及ぶまい。エルゴジーラとフェニックスでひと芝居打てば大人しく退くはずだ」
そう、俺がこの幻獣たちとともに戦場の上空に転移して来たのは、エルゴジーラとフェニックスの姿で脅しをかけるためである。
さすがにこの巨大な幻獣の姿を見て、さらに俺がそれを味方につけていると知ったら、ミルザムの国王も退却せざるを得ないはずだ。
俺の中ボスパワーを使えば国王を捕らえて国を奪うことも難しくはないが、もともとそのつもりはまったくない。さっさと退却してもらって二度とこっちに来ないでくれればそれが俺的にはベストなのである。
「エルゴジーラのブレスで国王を狙い撃ちすれば良いのではありませんか?」
「愚かな王を始末するのはむしろ相手を利することになる。生かして帰した方がよい」
「なるほど! さすがお父様です」
物騒なことを言うフォルシーナを適当な理屈で丸め込んでおいて、俺はエルゴジーラに指示をする。
「ではエルゴジーラよ、あの軍の上空へ行き、お前が私と 友誼(ゆうぎ) を結んでいること、そして再び国境を侵せばお前が許さぬことを伝えよ」
「承知シタ」
エルゴジーラはミルザム軍の上空へ滑るように飛行していくと、100メートルほどの高さで滞空状態に入った。
ミルザム軍の一部は巨大なドラゴンの姿を見て半ば恐慌状態になっていたが、隊長格の人間が必死に叫んで抑え込んでいるようだ。もちろんほぼすべての兵士が目を見開いてこちらを見上げている。
エルゴジーラは、攻撃すらできないミルザム軍を 睥睨(へいげい) し、そして一発天に向かってブレスを吐くと、再度見下ろして口を開いた。
「ヨク聞ケ、愚カナ者ドモヨ! 我ガ名ハエルゴジーラ! 幻獣境ノ門番ニシテ、空ヲ支配スル最強ノドラゴンロードデアル!」
その声は地上に響き渡り、兵士の中には腰を抜かして地面にへたり込むものも続出した。
「我ハ今、背ニ乗ル人族ノ王、マークスチュアートト契約ヲシテイル! ユエニ、 マークスチュアートノ敵ハ我ガ敵、我ガ滅ボスベキ愚カ者ドモデアル!」
そこで俺は、エルゴジーラの背から立ち上がり、『シグルドの聖剣』を抜いて最上級光属性魔法『ライトオブドゥーム』を水平に放った。
どよめくミルザム軍。俺の黒歴史誕生の瞬間である。
「貴様ラガコレ以上コノ地ニ留マリ、我ガ盟友ノ土地ト脅カスノデアレバ、コノエルゴジーラノ怒リノ炎ニテ貴様ラヲ一人残ラズコノ地上カラ消シ去ッテクレル! ソレヲ肝ニ銘ジ、速ヤカニ立チ去ルガヨイ!」
再度エルゴジーラがブレスを放つと、ミルザム軍のほとんどの兵士たちは完全に戦意を失ってしまったようだ。
強者である将軍メンディエッタもこちらを見上げ、頭を掻きながら諦めたような顔をしている。
しかしそこで、地上から声を上げたのはなんとあの将軍ズビアンであった。宮廷魔導士団団長でもある男だが、上空から見てもわかるほど体形が丸い。
「なにを抜かすかモンスター風情がッ! トカゲの王如きが陛下の覇業を阻もうなど笑止千万! 我が魔法の前に消え失せるがいいッ!」
威勢のいい叫び声とともに、将軍ズビアンは杖を振り上げ魔法を行使した。
放ってきたのは上級風属性魔法の『ブルータルサイクロン』だ。もちろん俺の『ディスペルオール』によって瞬時に無効化される。
「なッ!? 魔法が消えただとッ!? 馬鹿な!」
ズビアン将軍は何度か同じ魔法を放ったが、すべて同じ結果にしかならない。
ここでエルゴジーラがブレスで攻撃すると被害が酷いことになるので、俺は『シグルドの聖剣』から上級光属性魔法『ライトオブシエンド』を放ち、ズビアン将軍だけを狙い撃った。
「ぎゃッ!?」
太めの光線が直撃し、ズビアン将軍の丸い身体は吹き飛んでいった。服は派手に焦げて髪もチリヂリになっているが、魔法耐性の高い防具をつけていたので死んではいないだろう。
フォルシーナにも及ばない魔導師と評したが、上級魔法を連発できるのだから魔法の腕は意外とあるし、エルゴジーラに向かっていけるのも大したものだ。おかげで他の兵士たちへのいい示威行為ができた。
さて、今の一幕でミルザム軍は完全に戦意を喪失したようだ。
普通に正面から戦って打ち破れず、頼みの『 鋼鉄騎士隊(アイアンナイツ) 』が崩壊しいったん退いたたところで、いきなり巨大ドラゴンが飛んできて脅しをかけたのだ。多くの兵士は、むしろ生きた心地がしないほどだろう。
「お父様、すでに勝敗は決しましたね」
「うむ。後は私自ら国王へ撤退するよう伝えに行くとしよう」
「では、私も是非その場に連れていってください。お父様のなさりようをこの目で見たいのです」
「物好きなことだ。だが勉強にはなるかもしれんな」
興奮気味のフォルシーナに答え、俺はエルゴジーラに高度を落とすよう指示した。
ミルザム国王がいる場所はすでに目星がついている。戦場のはるか後方、ミルザム軍の陣地の中の一際大きい天幕だ。
エルゴジーラをそちらに移動させ、俺は『瞬間移動』で地上へと降りた。
天幕の前には屈強な衛兵が6名いたが、エルゴジーラを見て地面にへたりこんでいた。
俺は彼らに、
「動けば命はないぞ」
と念を押して、フォルシーナと共に天幕へ入った。
天幕の中には、5人の人間がいた。
2人の武官は国王の護衛だろう。俺の姿を見て、瞬時に剣の柄に手をかけ前に出てくる。
もう1人は 位(くらい) の高そうなご老体で、いかにも国王の知恵袋的な男である。ただし今は目が飛び出さんばかりに驚いた顔をしていて、知恵者らしさは完全に失われている。
そしてもう1人、派手な椅子に座った初老の男がいる。長い黒髪と黒い髭、派手なミスリル製の鎧もあいまって、正直俺より威厳のある見た目の人物だ。彼がミルザム国王キルリアンで間違いないだろう。彼は俺の姿を見てもわずかに片目を見開いたのみで、その表情を変えることはしなかった。さすが国王、胆力も備わっているようだ。
気になるのはそのキルリアンの隣の椅子に、身重の女が座っていることだ。黒髪の美女、先代王妃にして今は亡きゲームの主人公ロークスの母、ミランドラである。ニセモノならありがたかったのだが、目の前にいて俺を睨んでくるミランドラは間違いなく本人であった。
「突然の訪問失礼する。私は神聖インテクルース王国国王、マークスチュアート・ブラウモントだ。貴殿はミルザム王国国王でいらっしゃるか?」
「いかにも。私がミルザム王国国王のキルリアン・ミルザムルだ。マークスチュアート王を歓迎しよう」
国王キルリアンは、剣を抜こうとする武官2名を抑えながら、 鷹揚(おうよう) にそう答えた。
しかし俺の目には、そのこめかみが微妙に 痙攣(けいれん) しているのが見て取れた。表面は平静を装っているが、内心かなり驚いているのだろう。
どうやらここにいる人間たちは、外で起きている状況をまだ把握できていないようだ。まあわかっていたら即逃げ出しているだろうからなあ。