作品タイトル不明
10 フェニックス戦
王都に飛来してきたランクA反応の正体は、ゲームでも登場した幻獣フェニックスであった。
どうやら彼らの住処『幻獣境』から宝が盗まれ、その下手人が俺だと勘違いしての来訪らしい。
その『勘違い』の裏に良からぬ者の気配を感じるが、ともかく今は怒れるフェニックスを鎮めるのが先である。
「仕方ない。一度こちらの力を見せねば話もできぬようだ。フォルシーナ、ミアール、クーラリア、準備はよいか?」
「はい、お父様。魔法いつでもいけます!」
「はい、お館様」
「おうよ、ご主人様!」
フォルシーナは『精霊樹の杖』を、ミアールはミスリルショートソードと『獅子面の盾』を、クーラリアは刀を構えながら答える。
俺が『シグルドの聖剣』の切っ先を向けて、
「来い、格の違いを見せてやろう」
といつものセリフを口にすると、フェニックスは空中で大きく翼を広げて威嚇をしてきた。羽ばたかなくても飛んでいられるのがなんとも幻獣っぽい。
「ナマイキだぞおマエ! ウチのチカラをオモいシれ!」
そう言ってフェニックスが大きくひと羽ばたきすると、翼の羽根が10枚ほど飛び散った。しかもその羽根一枚一枚が赤い鳥に変化して、こちらに向けてダイブしてくる。
そう、このフェニックスは『小型の分身を作り出してくる』というボスキャラなのである。
「迎撃せよ」
「はい、お父様!」「はい、お館様」「任せろ、ご主人様!」
フォルシーナは無数の氷柱を飛ばす『スプレッドアイスアロー』を射出して、10羽の鳥たちに満遍なくダメージを与える。
それでもなんとか突っ込んでくる鳥をミアールとクーラリアが見事な剣技で次々と斬って落としていく。俺も3羽を斬り捨てたところで第一波は全滅した。最初の魔法から20秒も要していないだろう。
「それくらいでいいキになるなッ!」
今度は三倍の小型分身を生み出すフェニックス。
「多いな。フォルシーナ、同時に魔法を撃つぞ」
「はいお父様!」
さすがにフォルシーナの魔法ではすべてに打撃を与えることはできないので、父娘同時に『スプレッドアイスアロー』を放つ。威力はほぼ同等で、やはり『氷の令嬢』フォルシーナの氷属性の強さが光る。
後はヘロヘロになった鳥を3人で叩き落とすだけだ。
数が多いので何羽かフォルシーナに襲い掛かろうとしていたが、それはミアールが見事に防いでいた。
「このおッ! ホントウにナマイキなニンゲンだなあッ!」
分身攻撃をあっさり破られて、フェニックスは第二段階に入った。
全身が炎に包まれて、火の鳥状態に変化する。周囲に火の粉みたいなものを飛び散らし始めるので、周囲の建物が火事にならないかハラハラである。
「クロコげになれッ!!」
火の鳥になったフェニックスが、炎の軌跡を描きながら旋回し、そして一気に降下してくる。炎をまとった体当たりによる全体攻撃『バーニングトレイル』だ。
ゲームだとすれ違ってダメージを受ける描写だったが、リアルだと完全に体当たりである。
「フォルシーナ、『アイスフォートレス』だ」
「はいお父様、『アイスフォートレス』!」
ここでも父娘2人で魔法を合わせ、二重の氷の壁を作る。
フェニックスは急に出現した巨大な氷壁に頭から突進し、しかし弾かれずにそのまま自分の炎によって氷を溶かそうとする。
「フォルシーナ、『アイスパイル』を」
「はいお父様、『アイスパイル』!」
さらに巨大な氷の杭が2本、フェニックスの背に落ちる。さすがにバランスを崩し、着地せざるをえないフェニックス。全身を覆っていた炎も勢いを減じている。
「なッ!? ナンでこんなにツヨいんだよぉッ!」
地上で慌てて体勢を立て直そうとするフェニックスだが、そこに俺とミアールとクーラリアで斬りかかる。
「『 無明(むみょう) 冥王剣(めいおうけん) 』」
「『 刺突(しとつ) 閃(せん) 』!」
「『燕返し』だおらぁっ!」
それぞれ必殺技を繰り出して大ダメージを与えていくと、フェニックスはバランスを崩して転倒し、翼で頭を覆うようにしてうずくまってしまった。
「うえええ……ッ、イタいよう、イタいよう……ッ。ナンでだよう……ッ。ウチらのおタカラをヌスんだワルモノのくせにぃ……」
これはゲームでも見た降参ポーズである。セリフは違うが間違いない。
「皆、攻撃をやめよ」
「はいっ」
俺の指示でミアールとクーラリアが下がり、フォルシーナが駆け寄ってくる。
「お父様、とどめはよろしいのですか?」
「このフェニックスは幻獣であり、モンスターとは違うのだ。ここに来たのも誤解からであるようだ。話ができるならそれで解決したい」
「さすがお父様、広い心をお持ちなのですね」
単にゲーム知識で倒しちゃマズい奴って知ってるだけなので、フォルシーナの尊敬のまなざしが心に痛い。
それを顔に出さないようにしつつ、俺はフェニックスの頭部のあたりに近づき声をかけた。
「フェニックスよ。お前がこれ以上攻撃をしないのであればこちらも刃を引く。いかがする?」
「……ホントウに?」
「私は嘘はつかぬし、ここで嘘をつく意味もない」
「……わかった。もうコウゲキはしない」
頭を守るようにしていた翼を畳んで、こちらに顔を向けてくるフェニックス。近くで見るとつぶらな瞳が意外と可愛い気もする。ちょっとデカすぎるけど。
見ると全身傷だらけで、なかなか酷い状態だ。まあやったのは俺たちなんだけどね。
俺はマジックバッグから『エクストラポーション』を出して差し出した。
「まずこれを飲め。傷が回復するだろう」
「……ワかった」
一瞬 逡巡(しゅんじゅん) したのは罠だと思ったからだろうか。しかしすぐに嘴でビンを 咥(くわ) えると、頭をクイッと上げて中身を飲み干した。
もちろん全身の傷はたちまち塞がり、フェニックスは身体をゆっくり起こした。
「あ、イタくない……。スゴいねこのクスリ」
「効いたようだな。さて、まず誤解を解いておくが、我々は幻獣境の宝などまったく知らぬ。貴殿の怒りは見当違いであることを理解してもらいたい」
「じゃあダレがヌスんだの?」
「それは我々にもわからぬ。そもそも貴殿はどうして我々が盗んだと思い込んだのだ?」
「それは、ヘンなニンゲンがそうオシえてきたからだよ」
「どのような奴だ?」
「シロいフクをキて、シロいかぶりものをしたニンゲンだよ。5ニンいたかな」
「ふむ……」
残念ながらそれはゲーム知識にはない情報だった。ただ、マークスチュアートの記憶によると、白い服と白い被り物をした集団には思い当たる節がある。
「その者たちは、例えば首になにか下げていなかったか?」
「そこまではオボえてない。ただ、タカラがなくなってミンナでサワいでるトキに、そのニンゲンたちがこのクニにタカラがあるってイってたんだ」
「なるほど……。しかし幻獣たる貴殿がそのような怪しい者の言葉を信じたというのも不思議な話ではないか?」
そう問いかけると、フェニックスは首を2、3度かしげた。
「そうイえばそうだね。あれ? どうしてウチはカンタンにシンじちゃったんだろう?」
「ふむ……」
と考えていると、腰の『通話の魔導具』から呼び出し音が響いた。
「どうした?」
『マスター、北方からランクA反応が急速接近中です』
「わかった、こちらで対応しよう」
この流れだとまた幻獣がやって来たという感じだろうか。
俺が北の空を見ると、遠くから飛んでくる影が見えてきた。しかもその姿は、つい最近見たことがあるものだった。
「フェニックスヨ! ソノ人族ノ王ト事ヲ構エテハナラヌ!」
なんとやってきたのは超巨大ドラゴン、元魔族軍 四至(しし) 将(しょう) エルゴジーラだった。遠くからでも必死の形相でこちらへ飛んできていることがわかる。
「人族ノ王ヨ、ソノ者ヲ許シテヤッテ欲シイ。頼ム!」
さらにそんなことを叫びながら上空まで飛んできたエルゴジーラは、広場に着地をすると頭をペタンと地面につけた。
「頼ム、ソノ者ヲ許シテヤッテクレ。フェニックスハマダ子供ナノダ」
これがあのエルゴジーラかと思うような泣きそうな声を出すのに驚いてしまったが、俺は気を取り直して答えた。
「安心せよ、もとよりこの者をどうこうするつもりはない。一度戦うことにはなったが、こうしてすでに和解している」
するとエルゴジーラはわずかばかり頭を持ち上げて、大きな目をぱちくりさせた。
「ソ、ソウカ……ナラバ良カッタ。イヤ、良クハナイナ」
「気にせずともよい。ところでこのフェニックスから事情は聞いた。幻獣境の宝が盗まれたとか」
「ウム、我ガ戻ルトソレデ騒ギニナッテイテナ、シカモフェニックスガコノ国ヘ向カッタトイウノデ慌テテ止メニ来タノダ」
「フェニックスにも伝えたが、もちろんその下手人は我らではない。その上、どうもフェニックスは軽い術に掛けられたようだな。我々を下手人と信じ込まされていたようだ」
「我ラニ術ヲカケラレル者ナド、ソウハオルマイガ……」
「そういう術に長けた者もいるということだ。ともかく話はついた。フェニックスを連れて幻獣境に帰るがよかろう」
「良イノカ?」
「うむ……」
と言いかけて、俺はそこでドルトンの言葉を思い出してしまった。
どうせ貸しを作るなら、すぐに返してもらうのもいいだろう。
「……いや、待て。せっかくだから少し我々の雑事を手伝ってもらおうか。そのほうが貴殿らも気が晴れよう。なに、少し愚かな人間たちを脅かしてもらうだけだ」
「ウム、ソレデ許サレルノナラ喜ンデソナタニ従オウ」
フェニックスをけしかけた奴は気になるが、大体の目星はついたのでそちらは後回しでいい。今は西の戦闘を終わらせることだ。
フェニックスとエルゴジーラが来てくれたお陰で、かなりいい感じで事が運ぶかもしれない。まあちょっとばかり、俺に黒歴史が増えてしまうかもしれないが。