作品タイトル不明
08 西方戦線の戦い1
ミルザム王国との戦いが遂に始まった。
銅鑼の音とともに、将軍ジャマザに率いられた3千騎を超える 鋼鉄騎士隊(アイアンナイツ) が前進を開始した。
後方の歩兵隊、魔導師隊も遅れて前へと移動を開始する。歩兵隊を率いるメンディエッタ将軍も先頭に立っているので、両将軍はこの世界の戦いを熟知している人間ということになる。
ミルザム軍の動きを確認し、リンが手にしたランスを高く掲げた。すると後方より太鼓の音が鳴り響き、こちらの軍も一斉に動きを開始した。
弓箭(きゅうせん) 兵は矢をつがえ、魔導師兵は精神集中を開始する。ゴーレムは足元にある石の山から、ソフトボール大の石をまとめて掴み上げる。
敵軍から、銅鑼がさらに三度鳴らされた。
鋼鉄騎士隊(アイアンナイツ) が 鬨(とき) の声を上げ、一気に速度を上げて、横たわる川へとなだれ込む。
先頭の将軍ジャマザが水面に向かって銀のランスを突き出す。するとその槍先が輝き、一瞬に三倍ほどに伸びて川面を激しく打った。槍使いのスキル『アークスラスト』である。
水中に綱や網が仕掛けられていることを警戒して、それを破壊するために技を放ったのだろう。戦法は脳筋だが、もちろん彼ら自身が脳筋というわけではない。
横に並んだ鋼鉄騎士隊の半分以上が川に入っただろうか。そこはすでに魔法と矢の射程である。
そこで杖を振り上げたのはゲントロノフ公軍の前に立つ女魔導師バヌアルだ。杖頭の水晶が鋭く光ったかと思うと、天空から青白い雷が、 鋼鉄騎士隊(アイアンナイツ) の中央あたりの川の中へと落ちた。次いで響く爆発のような落雷音。上位属性である雷属性の上位魔法『ライトニングハンマー』によって水面には複数の爆発が生まれ、その電気の力は水を伝って渡河中の鋼鉄騎士隊へと伝わっていく。
「 怯(ひる) むなァッ!」
と大音声で叫んだのは将軍ジャマザだが、打撃の受けたのは鞍上の騎士ではなく馬である。落雷場所の近くにいた馬は川面に倒れ、離れた所にいた馬も膝を折ったもの多数。だが耐魔法の装備をしているのか、大部分の馬は動きを止めただけで、再び前へと走りだそうとしている。
「撃て!」
そこでリンの掛け声が響き、矢と魔法が一斉に放たれた。
無数の矢と火の玉や氷の槍が放物線を描いて 鋼鉄騎士隊(アイアンナイツ) へと殺到する。だがその時、急にミルザム軍方向から強風が吹いてきた。
見ると奥の魔導師隊の方で、杖を振り上げている小太りの男がいる。宮廷魔導師団長にして将軍のズビアンだろう。なるほど風属性魔法の使い手だったか。しかも思ったより魔法の腕も悪くない。
突風に煽られ、多くの矢と魔法は 鋼鉄騎士隊(アイアンナイツ) の手前に落ちた。それでも多少は鋼鉄騎士隊の隊員に届いてはいるが、そこは重装騎兵、多少の飛び道具では有効打にならない。もちろん将軍ジャマザは無傷である。
「ゴーレム、石を投げよ!」
さらにリンが叫ぶと、50体のゴーレムがスムーズな投球フォームで一斉に投石を開始した。一体につきソフトボール大の石を100個近く投げているのではないだろうか。
おびただしい数の石が鋼鉄騎士隊の頭上に降り注ぐ。魔法耐性を無視した単純物理の攻撃は、実はこの世界でも非常に有効である。馬や騎士が石の直撃を受けて、馬が倒れたり落馬したりとかなりの酷い有様だ。
このタイミングで対岸の歩兵隊と魔導師隊が川岸まで追いついてきて、こちらへ矢を射かけて、魔法を放ってきた。
その時ゲントロノフ軍の魔導師バヌアルが再び杖を掲げた。途端に強烈な突風が追い風として吹いてきて、雨のように降り注いでくるミルザム軍の矢と魔法を押し返した。ズビアンと比較して、風魔法の腕は互角、雷魔法を使える分バヌアルの方が上だろう。
それでもこちらに火の玉や氷の槍が飛んでくるが、それは俺の『ディスペルオール』で多くを消滅させた。矢はゴーレムには届いてきたが、残念ながら有効打にはなりえない。
こちらも再度矢と魔法を放つと、遠距離武器の撃ち合いになる。しかしゴーレム投石がある分こちらが上だ。俺が風魔法で突風を作り出してやると、遠距離戦はこちらの優勢に傾いた。
だがその間に、将軍ジャマザを先頭に千を超える 鋼鉄騎士隊(アイアンナイツ) が川を渡り切ってきた。
「突撃ィィッ!!」
岸に上がった 鋼鉄騎士隊(アイアンナイツ) は、ジャマザの号令と共にこちらへ突進を開始した。彼らは拒馬槍を吹き飛ばし、落とし穴は軽々と飛び越えてくる。想像以上の精鋭部隊である。
まずはゴーレムが迎え撃つが、ジャマザはランスの一撃で正面ゴーレムを粉砕した。
後続の 鋼鉄騎士隊(アイアンナイツ) はゴーレムの棍棒に吹き飛ばされている者もいれば、三騎が一体となってゴーレムを撃破している者たちもいる。なるほどやはり打撃力と突破力は恐ろしいほどだ。
「リン将軍、参るか」
「はっ! 愚かな王の走狗、ジャマザの息の根を止めてくれましょう」
リンはミスリルランスを掲げて真面目な顔で物騒なことを言う。いや、戦場だから物騒ということもないが、俺の指示を忘れてもらうのは困る。
「できれば生け捕りというのは忘れるな」
「ははっ」
俺とリンは同時に馬を走らせ、鬼気迫る勢いで馬を駆る将軍ジャマザに向かっていく。
ジャマザもこちらに気付いたらしく、ランスを突き付けて、フルフェイスの兜の下から大音声を上げた。
「そちらにおわすはブラウモント王その人とお見受け致す! いざ尋常に勝負なされよ!」
「無礼な侵略者に尋常を以て対する必要なし。恨むなら愚かな主君を恨むがよい」
「それは遺憾! だがそれで怯むそれがしではございませぬ!」
声色からしてジャマザは堅物な真面目男っぽい気がするな。こういう苦労人気質の人間は恩を売っておくとなにかと得がありそうだ。
「リン将軍、私はジャマザに一撃を食らわせたあと、後続の鋼鉄騎兵隊を散らしておく。ジャマザは貴殿の手で捕らえよ」
「はっ! 必ずや!」
俺はリンに先行し、『シグルドの聖剣』を抜いてジャマザへと突っ込んでいく。
「来い、格の違いを見せてやろう」
いつもの煽りセリフとともに、俺は聖剣に魔力を込めて刃を輝かせる。
「なんの、負けるわけには参りませぬ!」
対するランスを構えたジャマザの全身が赤い光をまとい始めた。リンも使う騎士の必殺スキル、『シャイニングチャージランス』のジャマザ版だろう。
「ぬおおおおッ! 『クリムゾンチャージランス』ッ!!」
「『 無尽(むじん) 冥王剣』」
赤いオーラをまとい超高速で突進をしてくる人馬一体の重装騎兵。
その全身を無数の光の斬撃が駆け巡り、瞬時に大きなダメージを与えていく。
だがそれでもジャマザの勢いはわずかに衰えたのみで、赤く輝くランスが俺の身体を貫こうと迫る。
「お命頂き申すッ!!」
「笑止」
ランスの穂先が俺に届く直前、俺は『転移魔法』を発動し、ジャマザの後方に瞬間移動した。
「な……ッ!?」
という驚愕の声が後ろから聞こえてきた。
目の前の標的がいきなり消えるのは、歴戦の勇士をしてもやはり驚く事態であるらしい。