軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

07 西方戦線動きあり

エルフの里から王城へと戻り、少しだけ執務を行うともう夕方であった。

予定では、そろそろミルザム王国軍にベランゴル民主国軍撤退の報が届く頃である。

俺はツクヨミを連れて、西方の戦線へと転移をした。

本部テントでは将軍のリンとマリアンロッテ、ほか幹部将校が数名詰めていた。

「皆ご苦労。リン将軍、ミルザム軍に目立った動きはないな?」

「はっ。ミルザム王国軍は今日も一日対岸で示威行動を行うのみで、川を渡ってくる様子はありませんでした」

「やはり予想通り、ベランゴル軍が南方戦線で勝利することを待っている線が濃厚か。とすれば、今夜あたりに動きがあるかもしれんな」

「ベランゴル軍敗退の報が届くということですね」

「うむ。そうなればミルザム軍は事を起こさざるを得ぬ。そして恐らく退くことはするまい。ここで退けばミルザム王は笑い者だ。国に戻っても、我が国の機嫌取りのために奔走することになる」

「愚か者の末路として当然と思いますが、愚か者ゆえ更にみじめな末路を選ぶのでしょう、かの王は」

「ふっ、しかしそこまで愚かではないのかもしれぬぞ。どうやらミュールザンヌ教国方面でも動きがあるようなのでな」

「ミルザム王はミュールザンヌ教国にも通じていると?」

「うむ。もっともなにがあろうと対応は可能ゆえ恐れることはない。小人の策など、私の前では稚児のいたずら程度のものだ」

などと放言しておいてなんだが、実は俺としてはかなり心配である。ただランクAだろうがなんだろうが、チート中ボスパワーを全開にすれば対応はできるはずだ。

こういう場面でリーダーが弱気を見せるというのはタブーなので、マークスチュアート面を前面に出して余裕たっぷり胡散臭さたっぷりの笑顔を見せる。

するとリンは目を潤ませて、「さすが我が王です」と言いながら一礼した。

「国王陛下のお言葉、本当に素晴らしいと思います。これは必ずフォルシーナ様にお伝えしなければなりません」

その言葉は横にいたマリアンロッテのものなのだが、見るとその手にはなぜかペンとノートが握られていた。俺はどこかで見たその光景にすごく嫌な予感を覚える。

「もしやマリアンロッテ嬢は記録を取っているのかな?」

「あ、はい、そうです。ただしこれは正式な軍議の記録ではなくて、フォルシーナ様に頼まれた私的なものになります」

「フォルシーナはそれをどうするつもりなのだろうか」

「陛下の素晴らしいお言葉を記録し、皆で共有するのだそうです」

「その『皆』というのは誰のことだろうか」

「ええと、それは――」

というところで、本部テントの外から「ご報告があります!」という兵士の声が聞こえてきた。

リンが中に入れると、その兵士は直立不動の体勢で報告を始めた。

「ミルザム王国軍に早馬らしきものが入っていったと、偵察兵から報告がありました。服装からは所属は判別できなかったとのことです」

「早馬はどちらから来た?」

「南側から来たとのことです」

「なるほど、ご苦労」

「はっ、失礼いたします!」

兵士が去っていくと、テントの中の緊張感がわずかに高まった。リンや幹部将校たちが揃って俺のほうに目を向けてくる。

「リン将軍、兵たちに決戦近しと伝えるようにしてくれたまえ」

「はっ!」

さて、どうやらパリヨー将軍は約束通りやってくれたようだ。

後は向こうがいつこちらへ突撃をしてくるかだが、さすがにこれ以上待たせるのは勘弁願いたいものである。

翌朝。

本部テントを出た俺は馬に乗り、ツクヨミを前に乗せて陣の前方へと移動した。

こちらの兵たちはすでに戦の準備を整えて待機状態にある。その隊伍の間を進み、川が見えるところまで馬を歩かせると、対岸に陣取るミルザム軍の様子が以前と違うことに気付いた。兵の動きがせわしなく、どことなく殺気立っているようにも見える。

「ツクヨミ、どうだ?」

「ランクB反応が中央より移動をしています。2つは前面に、1つはそのやや後ろです」

「ふむ。騎兵隊を率いるジャマザ将軍と歩兵隊を率いるメンディエッタ将軍が前、そして魔導師隊を率いるズビアン将軍が後ろか。他に動きは?」

「ランクB反応の動きに従って多くの反応が移動を開始しています」

「やはりやる気のようだな」

対岸に、銀色に輝く甲冑に身をまとった重装騎兵が並び始めた。ミルザム王国軍が誇る 鋼鉄騎士隊(アイアンナイツ) だ。その後ろに歩兵隊と魔導師隊が並んでいるが、どうやら歩兵隊が弓で、魔導師隊が魔法で援護をし、鋼鉄騎士隊が突撃するという脳筋戦法を取るつもりのようだ。

もっとも 鋼鉄騎士隊(アイアンナイツ) の機動力と打撃力を最大限に活かすには、その方法が最も適しているのだろう。

しかしこちらはすでに多くの拒馬槍や落とし穴などを用意してあるし、もちろん50体の巨大ゴーレムが前面にずらりと並んでいる。

その後ろには重装歩兵隊や魔導師隊が厚く並び、守りの硬さはミルザム側から見ても明らかなはずだ。それでも突撃を行おうというのだから、ミルザム王キルリアンがどれだけ焦っているのかわかろうというものだ。

俺が最前列へと出て行くと、馬に乗ったリンが振り返る。

「陛下、とうとうミルザム軍が動き出したようです」

「うむ。問題は 鋼鉄騎士隊(アイアンナイツ) の突撃をどういなすかだ。正面から当たればさすがにこちらも大きな被害は免れまい」

「それについては魔導師のバヌアル殿が渡河中を狙って魔法を使う手筈になっております。動きが停滞したところで、ゴーレムの投石を行います」

「ほう」

陣の右翼を見ると、ゲントロノフ軍の前面に女魔導師バヌアルの姿が見えた。量の多い髪が魔女帽から爆発したようにはみ出ている、目つきの悪い美人である。

その近くには黒髪を後ろに縛った髭の達人剣士、リープゲン侯爵の姿もある。

「ジャマザとメンディエッタが前に出てきました。どうやら始めるようです」

リンの言葉に目を敵陣に移すと、 鋼鉄騎士隊(アイアンナイツ) の先頭に一際体格のいい騎兵が姿を現していた。全身を銀色の板金鎧で包み、同じく銀のランスを携えている。他の騎兵と同じく馬にも甲冑がつけられており、非常に威圧感のある出で立ちだ。

横に広がる鋼鉄をまとった騎士たちの数は二千といったところだろうか。ミルザム王国の規模を考えればかなりの数だ。もっともそうでなければ戦争など仕掛けてはこないだろう。

一方ジャマザのはるか右方には、体格のいい戦士の姿がある。

赤い軽装の鎧を着て、身の丈よりも長い金剛杖を肩に背負い、ウェーブのかかった赤い髪をなびかせた、赤銅色の肌を持つ女偉丈夫だ。話には聞いていたが、なるほどあれがメンディエッタ将軍か。

不意に、敵陣の奥から銅鑼の音が響いてくる。

同時に 鋼鉄騎士隊(アイアンナイツ) が、将軍ジャマザを先頭に前進を開始した。