作品タイトル不明
06 インターバル エルフの里
翌日。
今日の朝も西方の戦線には変化はなかった。
予定なら、今日の夕方には南部戦線にてベランゴル軍が撤退したという報告が行くはずだ。
東方のミュールザンヌ教国方面に動きはなし。ミュールザンヌ教国側は旧ブラウモント公爵領、現王家領が隣接しているので、そちらの代官に指示をして国境線の監視は強化させている。
もっとも、隣接といっても間には『 不帰(かえらず) の森』が広がっていて侵攻ルートがかなり限定されるため、ミュールザンヌ教国が軍を出して攻めてくるというのは考えづらい。無論国交はあって交易路も存在するので、何かがあるとしたらそこだろうか。
とはいえもしかしたら『不帰の森』を経由して何かしてくる可能性も考え、エルフの里に行ってみることにした。
魔族軍との戦いの後、エルフたちはすぐに里に『転移魔法』で送ったのだが、その後のあれこれを後回しにさせてもらっているのだ。彼らなしでは魔族軍と戦いは大きな被害が出たはずなので礼も必要であるし、なにより彼らと友誼を結んだことを国内には正式に知らせる必要もある。
転移したのは族長ゼファラの執務室である。もちろん事前に『通話の魔導具』で行くことは連絡済みだ。
部屋には金髪縦ロールでグラマラスなエルフ美女ゼファラと、その娘で、長い金髪を三つ編みにした美少女アルファラ、そして族長の側近である金髪オールバックの切れ者美人ミュゼが揃っていた。
「おおマークスチュアート、待ちかねたぞ」
「マークスチュアート、なぜもっと早く来ない」
と口々に言いながら、なぜか二人してハグをしてくる族長母娘。
おかしいな、ゼファラはともかくアルファラとはこんな距離感だっただろうか。
ともかく二人ともエルフのお約束(?)で露出が多く、スタイルもいいためハグはかなり刺激が強い。しかしここで妙な態度を見せればエルフとの関係は一瞬で崩れかねないので、俺はポーカーフェイスに徹する。
「戦にてあれほどの助力をいただきながら、すぐに礼もできず済まぬな」
「他国が急に攻めてきたのでは仕方あるまい。もっとも貴殿ならなんの問題もなかろうがな」
そう言いながら、椅子に座るよう促してくるゼファラ。
俺とゼファラ、そしてアルファラが席に着くと、ミュゼがお茶を用意してくれる。
「攻めてきたのは2国、ベランゴル民主国とミルザム王国だが、ベランゴルに関しては一昨日追い返した。そちらは今後国内が荒れるであろうから、今後問題になることはあるまい」
「ふふっ、さすがだな。もう一国の方はどうなっている。必要なら力を貸すが」
「ありがたい申し出だが、人族同士の戦にエルフ族を巻き込むわけにはいかぬ。ミルザム王国についても戦が始まればすぐに決着はつくだろう」
「貴殿が言うなら確実だな。しかし、それならば今日はどうして急ぎこちらに来たのだ?」
「うむ、それなのだがな、東のミュールザンヌ教国という国を知っているか?」
その名を出すと、ゼファラは急に眉間に皺をよせ険しい顔をした。
「久しぶりにその薄汚い名を聞いたな。あの国、いやあの宗教は、我らがこの地に隠れ住むことになった原因の一つにして最大のものだ」
「他種族排斥を掲げているからか」
「排斥などという生易しいものではない。他種族を狩って奴隷にするような奴らだ。我らの同胞がどれだけ奴らに捕らえられ慰み者にされたか、その恨みをエルフは永遠に忘れることはないだろう」
エルフの雲隠れは、現在のこの世界でエルフ族が『幻の種族』と言われるようになるほど古い話である。それにまで関わっているとなると、ミュールザンヌ教は相当に古くから存在していたらしい。
「先代族長の命を受けて外の世界に出た時、奴らが国を興したと聞いて愕然としたものだ。 性質(たち) の悪い夢でも見ているのかと思ったくらいだからな」
「そうであったか。我が国も多少の交易をしている程度で深く国交を持っているわけではないが、あまりいい話は聞いておらぬな。私が王になってから獣人族などが多くこちらに逃げてきているという話も聞いている」
「奴らの他種族への迫害ぶりは救いがないからな。で、その 唾棄(だき) すべき国がなにかあるのか?」
ゼファラの目が鋭さを増し、アルファラは母の様子を見て事の重さを感じ取ったように前のめりになった。
「実は、ツクヨミがミュールザンヌ教国との国境線あたりに強力な魔力反応を感知してな。魔族軍の四至将、もしくは先日のダーマと同等クラスの反応だったそうなのだ」
「なに? もしやダーマがミュールザンヌに……いや、それはないか。奴らが魔に堕ちたダークエルフなどと取り引きをするはずがないからな」
「ふむ……言われてみれば確かに」
『鬼』の暗躍は俺も疑ったところだが、ゼファラの言う通りかもしれない。
ミュールザンヌ教の信徒にとって『鬼』など真っ先に排除すべき対象である。教国には『聖堂戦士団』という、聖属性の武具で全身を固めた対アンデッド特殊部隊もいるらしい。
『鬼』はすべてランクAの化物だが、無敵というわけでもない。特に聖属性を弱点としているので教国に手を出す可能性は低そうだ。
「とすると、残念ながら私にも心当たりがない。ともかくその反応があったゆえ、ゼファラ殿たちには気を付けて欲しいのだ。ミュールザンヌ教国がこちらの国に手を出してくるのであれば、この『不帰の森』を経由する可能性が低くないのでな」
「なるほど、それをわざわざ伝えに来てくれたのか。ふふっ、それはそれで嬉しく思うぞ」
そこで艶っぽい笑みを見せるゼファラは、もとが超絶美人なだけに恐ろしいほどの色気がある。俺にマークスチュアートとしての精神力がなかったら一瞬で惚れていたかもしれない。
隣のアルファラも美少女だが、さすがに年齢差もあってなにかを感じることはない。ゲームをやっていた時の年齢だったら多分一発アウトだっただろうけど。だってリアルエルフの美形度は反則すぎである。そこはフォルシーナたちメインヒロイン勢も同じなのだが。
おっと、ゼファラに見とれていてもう一つの目的を忘れるところだった。
俺はマジックバッグから封筒を取り出してゼファラに渡した。
「これは……?」
「例の薬のレシピだ。今回協力いただいた礼ということになる」
「それは……よいのか? もう少し交換条件が必要という話だったと思うが」
「戦場での戦いぶりを見て、エルフ族とは深く友誼を結びたいと感じた。そういった意味合いもあると思って欲しい」
「む……っ?」
気持ちを分かってもらうために、俺は糸目キャラ必殺の『糸目開眼』――目を見開いて急に真面目そうな顔になるアレ――を炸裂させてゼファラの顔を正面から見た。
最初は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていたゼファラだが、その頬がうっすらと赤身を帯びてきたかと思うと、急に真面目な顔になって咳払いを始めた。う~ん、多分これも好感度アップかな。
「そ、そうか、 深(・) く(・) 友(・) 誼(・) を(・) 、な。まあその話はすでにこちらも 了(・) 承(・) 済(・) み(・) なので問題はない。こちらも貴殿とその国とは親しくしたいと考えている」
「結構なことだ。よろしく頼む」
といい感じになったところで、アルファラが横から身体をねじ込んできた。
「ところでマークスチュアート、友誼を結ぶのに、母上だけということはあるまいな」
「む? それはもちろんだ、私はエルフ族全体と――」
「そうではなく、私とはどうなのだ? 私とは深く友誼を結びたくはないのだろうか」
「無論アルファラどのとも深く信頼し合えるようになりたいと思っている」
という答えだけではどうも満足していないみたいなので、再度『糸目開眼』を使ってアルファラの目をじっと見る。
するとゼファラ同様アルファラも頬を赤くしつつ、微妙にしかめ面をして椅子に座り直した。分かりづらいがしかめ面は照れ隠しで、好感度アップ動作のはずだ。
「な、ならばよい。お前ほどの人間なら母上も私も納得できる。これからもよろしく頼む」
「うむ」
とうなずいてみたが、どうも微妙に2人の態度がおかしい気がする。将軍リンと同じく目つきが熱っぽいというか……もしかしてこの間の力比べでエルフ的な尊敬ポイントを稼いでしまったのだろうか。現実世界なので好感度以外のパラメータも存在するだろうし、そっちまでは管理するのは不可能である。
まあともかく、これでエルフとの関係は完全に結べたと考えていいだろう。
気になるのは2人の態度と、後ろで見ている側近エルフのミュゼさんの視線が妙に生暖かいことなのだが……まさかなにか騙されてるとかはないよね?