軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

05 インターバル 錬金棟

翌日、朝。

西の戦線に転移して様子を見るが、ミルザム王国軍は依然として動きなしだった。やはりベランゴル撤退の知らせが届かない限りは動かないようだ。

なので俺はいったん王城に戻り、久々に錬金棟を訪れた。

王家直属の錬金術師たちが勤める錬金棟は二階建ての大きな建物で、しかも敷地内に3棟ある。総勢200人以上の錬金術師がそこで日夜ひたすら錬金に励んでいるわけだが、王家の錬金棟は一般にレシピを公開していない重要物資を生産している、国家機密を扱う超重要施設という側面もある。

ゆえにその警備は厳重で、高い塀に囲まれている上に、多数の腕利きの衛兵たちが警備を行っている。

その衛兵たちに最敬礼で通された俺は、中央の錬金棟二階にある所長室を訪れた。

広めの部屋には執務用のテーブルが二つ、そして錬金術用のテーブルも二つある。

俺の顔を見て椅子から立ち上がったのは二人の女性。一人は錬金術師たちを統括する所長のトリリアナ、もう一人は副所長のリラベルだ。

トリリアナはフワッとした金髪をポニーテールにしたおっとりお姉さん系――と言っても俺より10以上年下だが――の美人、リラベルは丸眼鏡に太い三つ編みの地味系美少女である。もともとこの錬金工房の所長はリラベルだったのだが、トリリアナが年上で錬金術の腕も上ということで、リラベルの強い要望もあってこの形に収まっている。なお同じ部屋で仕事をするほど2人は仲がいいようだ。

「急に済まぬ。こちらの稼働状況や、例の品の生産状況などを直接確認しておきたくてな」

「いえいえ~、陛下に来ていただけるなんてこんなに嬉しいことはありませんわ」

「へへへ陛下、ご機嫌麗しくございますです。陛下のレシピは素晴らしく、とてもとても勉強になっておりますっ!」

トリリアナは俺が王になっても前のままのおっとりぶりだ。リラベルは目上の人間相手だと上がってしまうタイプらしく、俺とキチンと話ができたことがない。ゲームだとタメ口の錬金術ナビゲーターキャラだったんだけどなあ。

「まずは例の品についてだ。どれくらい生産ができている?

「はい、こちらになりますわ」

トリリアナが部屋の端に設置された大きな金庫を開ける。そこには七色に光る石が山積みになって入っていた。エメリウノが開発した『土壌改良石』、その土地の精霊力を上げて作物の収穫量を増やす 国家的戦略物資(チートアイテム) である。

「うむ、これだけあれば試すには十分だな。しかしまだトリリアナとリラベル以外の錬金術師が錬成するのは難しいか」

「かなり高度な魔力操作を必要とするので、作れるようになるまでに少し時間が必要かもしれませんわ。一応5人ほど、あと少しで作れるようになりそうな者はおります」

「ふむ……」

『土壌改良石』はツクヨミがレシピを作ってくれたものの、実際に錬成するのに錬金術師として高度な技術が必要であった。さすがにそう上手くはいかないらしい。

「魔力操作は子どもの方が伸びやすい。獣人族の子らにも試させたらどうだ?」

「そうですねえ。あの子たちなら国王陛下に忠誠を誓っておりますし、いいかもしれません」

獣人族の子というは、俺がまだ公爵だった時に『エクストラポーション』によって助けた娘たちのことである。実際は人体改造の実験台にするつもりで買った奴隷たちなのだが、まあそれは時効ということにしよう。

「今後も可能な限り錬成をしておいてくれたまえ」

「かしこまりました陛下」

金庫をトリリアナが閉めていると、リラベルが赤い顔をしながら話しかけてきた。

「とと、ところで国王陛下。こちらの『土壌改良石』は、どこで試験をなさるのでしょうか?」

「王都近郊の農場でまずは試験をさせるつもりだが、それについては大臣に任せている。近年不作になっている地域などがあれば、そちらを優先したいとは考えているがな」

「でっ、でしたら、私の父の領地はいかがでしょうか!? その、私が子どもの頃から不作になることが多く、実は私が錬金術師になったのも、それを解決するのが目的だったりしまして……」

あれ、そんな裏設定があったのかリラベルちゃん。ただのナビゲートキャラだと思ったんだが、そういえばゲームでも食い物関係の錬成だと少しテンション高めになっていた気がしなくもないな。

「ふむ、ならば大臣に伝えておこう」

「あ、ありがとうございます!」

「ふふっ、よかったわね~。リラベルちゃん『土壌改良石』の話を聞いた時にすごく感動していたものね」

「そうなんです。私も研究していたんですけれど、全然うまくいかなくて……」

と少ししょんぼりするリラベル。自分が研究していたものをポッと出の『叡智の魔導師』に追い越されたらそりゃガッカリするだろうなあ。まあ相手はレジェンドクラスの大物だから諦めてもらうしかない。

見ると、リラベル用の錬金机の端に、いくつか黒い石のようなものが無造作に山積みになっていた。多分研究の過程で錬成された失敗作だろう。

しかしその中にゲームで見たことのある形のものを見つけて、俺はそれを手に取ってみた。金平糖みたいにいくつも突起のある黒い石である。

「ふむ、これは面白い」

「えっ!? それはただの失敗作ですけど……」

「いや、これは多分意味のある錬成物だろう。トリリアナ、ミルダートを呼んでくれ」

「はい陛下」

ミルダートは家宰として主に王家関係の内の仕事を任せているロマンスグレーの老紳士である。

「お呼びでしょうか陛下」

「急に済まぬな。これの鑑定を頼む」

ミルダートは『鑑定』という超便利レアスキル持ちである。王城には『鑑定』スキル持ちは他にもいるが、重要なものに関してはやはりミルダートを頼ることにしている。

ミルダートはモノクルを取り出して、俺が渡した石の鑑定を始めた。その目が一瞬するどく光るが、これは鑑定結果が良かったときのしるしである。

「こちら、『虫よけの石』というものでございますな。これを置いておけば周囲一帯に虫が近づかなくなるという効果があるようです」

「ということだリラベル嬢。これは失敗作どころか、相当に価値のあるものだと思うがどうかな」

「えっ!? はぁ……まさかそんな効果が……いえ、そうですね、虫よけ……ですか……」

いきなりの話にリラベルは頭の整理が追い付いていないようだ。目を白黒させていたが、急にハッとなって真面目な顔になると、直立不動の姿勢になった。

「たっ、確かに、虫よけというのはとても重要なものだと思います。特に農業においては、虫との戦いだと父も言っておりました」

「うむ、そうだろうと思う。普段の生活においても家から虫を追い出せるというのは重要だ。更に言えば、病気を媒介する虫が出現する地域もある。そういった地域を救うことにもつながるだろう」

「まあ! それはすばらしい発明ですわ! リラベルちゃん、やったわね!」

「トリリアナさん、ありがとうございます! でも、そんなものを作っていたなんて陛下に言われなければ気づきませんでした。本当にありがとうございます!」

「今日偶々にここに来て正解だったな。こちらのものを作った時のレシピは残してあるか? なければツクヨミに解析させるが」

「大丈夫です。すべて残してあります!」

「結構。こちらも王家の重要指定品目として扱うことにしよう。トリリアナ、済まないがこちらも量産を視野に入れて体制を組みなおして欲しい。錬金術師が足りなければミルダートに相談せよ。ミルダート、済まぬがその時は相談に乗ってやってくれ」

「かしこまりました国王陛下。すぐに量産できるよう体制を整えますわ。現在研修を行っている新人さんたちもそろそろ生産ラインに入ってもらえますので大丈夫です」

「はっ。錬金術師についてはいくつか当てがございますので、言われればいつでも」

いや、有能な家臣が多いって素晴らしい。

それと『虫よけ石』も、この後魔族領に旅する時にも重要なものなのだ。なにしろ野営って、虫との戦いみたいなところがあるからな。

国としての基盤も整いつつあるし、さっさと戦争を終わらせて、 本来(ゲーム) のルートに早く戻りたいところだ。