作品タイトル不明
03 南方戦線決着せり
パリヨー将軍の対応を終え転移をした先は、森の端である。
ちょうど戦場を横から見ることができる場所であり、木の上に移動をすると戦場の様子を一望することができた。
見ると、矢と魔法の撃ち合いが終わったタイミングで、ベランゴル軍の一部の騎兵が突撃を始めたところだった。その先頭には赤い鎧を身につけ、太い槍を持った男がいる。あれが猪突猛進と評されたセドレン将軍なのだろう。
一方神聖インテクルース軍からは、将軍ドルトンとアミュエリザが馬に乗って前に出た。その後ろには騎馬隊が続き、ドルトンらを援護するように陣形を整えている。
「我はセドレン! ベランゴルにその槍ありと言われた将である! そこにいるは将軍ドルトンとお見受けいたす! いざ尋常に勝負いたせ!」
古臭い口上を述べながら突貫するセドレン。
だが対するドルトンは鼻をほじりながら答えた。
「確かに俺はドルトンだが、留守を狙うハイエナ相手に尋常に勝負するつもりはねぇな。悪ぃがさっさと終わりにさせてもらうわ」
「なんだと!」
といきり立つセドレンに向かって、さらにポニーテールの少女が叫ぶ。
「私はアミュエリザ、ローテローザ三姉妹が次女! いざ参らん!」
「ふざけるな! 女子供に用はない!」
うん、なんかもう無茶苦茶というか、傍から見ると漫才に近い。
見る間にドルトン・アミュエリザ対セドレンの、2対1の戦いが始まった。
「なっ!? 二人がかりとは卑劣な!」
「ハイエナ風情が言えた口かよ」
「せいやァッ!!」
ドルトンのハルバードとアミュエリザの槍『スカーレットプリンセス』が同時に閃き、巧みな連携で一撃のもとにセドレンを馬上から突き落とした。
「くっ! 卑怯者の分際で……っ!」
辛うじて受け身を取り、素早く起き上がるセドレン将軍。すぐに槍を構え直すまではさすがに強者である。
だが、その槍ををドルトンのハルバードで弾かれ、アミュエリザの突きを腹に食らうと、セドレンは「無念……!」と叫んで倒れ伏した。
「おらおらァッ!! セドレンは討ち取ったぞてめえら! かかってくるなら全員その首が飛ぶと知れィッ!」
そこでドルトンが、多分に芝居がかった動きでハルバードを振り回した。
そのあまりの迫力(?)に、セドレンを助けようとしていたベランゴルの騎兵は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
するとほぼ同時に、ベランゴル軍の後方から大きな鐘の音が連続で響いてきた。どうやらそれは退却の合図だったらしい。潮が引くようにベランゴル軍は速やかに全軍が退却を始めた。
一方で、神聖インテクルース軍は追撃のそぶりすら見せずにその場にとどまった。勝ち気に逸らないのは、よく訓練と指示が行き届いている精兵たちだからこそである。
ベランゴル軍は、そのままあっという間に平原のはるか向こうまで退いていった。ドルトンがゴーレムに途中まで追いかけさせたので、山の向こうの国境線まで一気に逃げていってくれるだろう。
残念ながら戦場にはいくばくかの兵の亡骸が残ってしまったが、助けられる者は敵味方関係なく救助が入るので、その数は少しでも減らせるはずだ。
倒れていたセドレン将軍もドルトンがポーションを使って回復させたようだ。もちろん直後に高レベル者用の特製拘束具で縛り上げている。
ともかく魔族軍との戦いでも戦死者がゼロというわけにはいかなかった。戦である以上仕方ないとはいえ、戦争などするべきものではないな、本当に。
さて、西のリン・ゲントロノフ側から連絡もないので、戦場の様子が落ち着くと、俺はいったんドルトン軍の本部テントへと馬で向かった。
そこには将軍ドルトンとアミュエリザ、そしてヴァミリオラが揃っていた。俺がテントに入るとドルトンたちは立ち上がって敬礼をしてくる。ヴァミリオラもさすがに公の場では礼を失することはない。
「よい戦いだったなドルトン、そしてローテローザ公。そして敵将を捕えた手際も見事だった。アミュエリザ嬢もこの戦いで名が上がるであろう」
「いつも言ってますが、国王陛下の事前準備が完璧なんで、誰がやっても勝てる戦ですわ」
頭を掻いて苦笑いするドルトン。アミュエリザはポニーテールを揺らして俺の前に立ち、直立不動の姿勢を取る。
「お褒めにあずかり光栄です! しかし今回は、ドルトン将軍とともに当たったゆえ楽に仕留められただけと考えております。陛下に頂いた槍があっても一対一では勝てたかどうかはわかりませんでした。ゆえに更に 研鑽(けんさん) を積みたいと思います」
「アミュエリザ嬢単騎でも勝てたであろうとは思うがな。だが私は、戦では個人の功績より勝利を優先する。理解はして欲しい」
「もちろんです! 我が槍は陛下の御為にあります。私自身の名のためではありません!」
凛とした見た目通り、アミュエリザは元ゲームだと騎士道精神あふれる少女騎士という設定だった。だから二対一で戦うのは微妙に嫌がると思っていたのだが、今回そういうそぶりは一切見せなかったんだよな。主君のためなら多少卑怯な戦法でもOKということだろうか。
俺とアミュエリザのやり取りを嫌そうに見ていたヴァミリオラが、そこで割って入ってきた。
「ところで別動隊のパリヨー将軍はどうなったのかしら? 捕虜にはしなかったの?」
「彼はもともと兵を逃がす囮として動いていたようだ。そこで説得をして、全軍を撤退させる指揮をとってもらった」
「説得って、いったいなにをしたらその場で敵将を説得できるの?」
「なに、向こうは魔導師だからな。こちらの力を見せつけただけだ」
俺の答えにヴァミリオラは小さく溜息をついた。一方でアミュエリザは目を輝かせていて、それを見てヴァミリオラはまた嫌な顔をする。
「なるほど、貴方の力を見ればまともな魔導師なら戦おうなんて微塵も思わないでしょうね。しかし軍をそのまま返して、ベランゴルは大人しくしてくれるかしら」
「パリヨー将軍に毒を撒くよう頼んでおいた。今の首相を議会が引きずり降ろさぬなら、私が直接乗り込んで議員全員を縛り首にしてやるとな」
「ふぅん。確かにそれをパリヨー将軍が議員たちに伝えれば、政局は一時的に荒れるでしょうね。代わりに首相になった者が少しでもマシな人間になればいいけれど」
「誰がなってもこちらに攻め込もうなどとは考えまい。そうさせないように戦後処理で搾り取るつもりであるしな」
俺が断言すると、ヴァミリオラも特に異論も口にせず、ドルトンとアミュエリザはうんうんとうなずくばりである。
「さて、こちらはもう少し貴公たちに任せることにしよう。ローテローザ公は戻るのは明日になるかな」
「そうね、ベランゴル軍が完全に退いたのを確認してから戻るわ」
「よろしく頼む。ドルトンは済まぬが西方の戦線が片付くまではこちらにとどまっていて欲しい」
「わかりやした。食料は十分にありますんで問題ありません」
「西が長引くようなら連絡するが、5日はかかるまい。では私は西の戦線に向かう。ゴーレムは連れていくぞ」
さて、これであとはミルザム側がどう動くかだな。早馬を飛ばせば2日後にはミルザム軍にベランゴル軍撤退の報は届くだろう。
そこでミルザム王がどういう判断を下すかだが、期待はしないで待つことにしよう。