軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

01 開戦

ついに戦の朝となった。

俺はツクヨミとともに朝から西方のリン、ゲントロノフ陣営に移動をしていた。

すでに将軍リンとゲントロノフ公はそれぞれの軍にいて、敵方が攻めてくるのを今かと待っている。

ゲントロノフ軍の大将であるゲントロノフ公は、マリアンロッテとともに軍の後方で親衛隊に囲まれている。その近くには女魔導師バヌアルが率いる魔導師隊が控え、軍の先頭には剣の達人リープゲン侯爵率いる剣士隊がいる。

一方リンの軍だが、やはり『燐光の姫騎士』リンは先頭付近にいて、騎士隊とともに馬上にて川の対岸を睨んでいた。

そして俺はリンの隣で、前にツクヨミを乗せた状態で馬にまたがっている。

リンの軍全体の指揮は、後方にいる有能な副将が行うことになっている。妙な体制ではあるが、個人の武勇が集団を圧倒するこの世界では比較的スタンダードなスタイルである。

川を挟んで対岸にいるミルザム王国軍だが、まず中央に銀色の甲冑に身を固めた重装騎兵部隊『 鋼鉄騎士隊(アイアンナイツ) 』が見える。その数はおよそ三千ほどか。

この世界の重装騎兵は、魔法や矢をものともせずに突撃できる、すさまじい打撃力を持った部隊である。その分馬や武具などコストが高く、運用できる場面も限定されるが、平地での戦闘における優位性は極めて高い。

それを先頭に立て、後ろに重装歩兵や魔導師兵を揃えたミルザム王国軍は、確かにこの大陸でも屈指の攻撃力を備えた軍といえるだろう。

しかしそのミルザム王国軍だが、どうも対岸に姿を現してからの様子が妙であった。

「陛下、ミルザムはいつ動くつもりなのでしょうか? すでに半刻はこうしておりますが」

リンが怪訝そうな顔をして聞いてくるように、ミルザム王国軍は陣形を整えてから、動く様子がまったくなかったのだ。

「こちらが攻めてくるのを待っているようにも見えるな。考えられぬことだが」

「身の程知らずにも宣戦布告をしながら、陛下の御威光に恐れをなしたのでしょうか」

「ゴーレムを警戒しているのかもしれぬな。ツクヨミ、強者の配置はどうなっている?」

頭部アンテナを展開しているツクヨミが、前を向いたまま答える。

「はいマスター。ランクBはすべて集団の後方に集まっています。ランクC、Dは全体に散らばっています」

「ランクBが後方に集まっている? 確かなのだな?」

「はいマスター、間違いありません」

「ふむ……」

重装騎兵隊を見ると、先頭には隊長格らしき立派な鎧と身につけた騎兵もいる。それが騎士団団長ジャマザだと思っていたのだがどうやら違うらしい。

リンもその報告に眉を寄せた。

「騎士団団長ジャマザと戦士団団長メンディエッタは、最前列で戦うことを旨としている者たちのはずです。それが後方にいるというのは解せません」

「とすれば、彼らは今、こちらに攻めてくる意思はないということだ。今にも突撃を行うと見せながら、その実ただの示威行為を行っているに過ぎぬというわけか」

「いったいどういうつもりなのでしょう。こちらに緊張状態を強いることで、精神的に疲弊させる策でしょうか」

「考えられなくはない。ただ兵力的にこちらが優位にあり、しかも時間を掛ければさらなる増援も考えられる状況で採るべき策ではないな」

と言いながら、マークスチュアートとしての脳味噌をフル回転させて考えてみる。

ミルザム王国側の策として考えられるのは3つ。

一つ目はミルザム王国側が、さらなる増援を呼んだ可能性。しかし事前の情報によって、目の前の軍勢がミルザムが出せるほぼ最大の兵力であることはわかっている。

二つ目はリンが言う通り、こちらに精神的疲労を与える策。だがこちらも俺が言った通りで、あまり意味があるとは思えない。

三つ目は、俺たちが知らないような隠し玉を持っていて、その準備ができるまで時間稼ぎをしている可能性。ただこれはツクヨミの魔力捜査に引っかかってこない以上、なにかあるとは考えにくい。

実のところ、今回の二国による侵攻は、例の『鬼』が裏で糸を引いている可能性が高いのだが、それが逆にこれ以上のイレギュラーはないだろうという妙な確信につながっていたりもする。

「……ふむ、理解できぬな。南方のベランゴル民主国側は今日にでも決着はつく。そうなればミルザムに勝ち目はないのだがな」

俺が独り言のように言うと、リンが言葉を返してきた。

「もしやミルザム王国側は、南の戦線でベランゴル民主国が勝つと思っているのではありませんか。その報を聞いた我々が浮足立つのを待っているのでは?」

「む、それは……ふむ、なるほどな」

考えてみると、俺たちは西の戦線と南の戦線両方で我が軍有利と知っているが、ミルザム側はそのことをまだ知らないはずだ。向こうの立場に立てば、我々がこちらに援軍を回したのであれば、ベランゴル側は手薄だと判断している可能性はある。とすればリンの言には一理あった。

「よし、リン将軍、この場はしばらく貴殿に任せる。もし敵方に動きがあれば魔導具で知らせよ。私は南方のベランゴル側に行き決着を見届けてくる」

「はっ、了解いたしました。お任せください」

俺は『通話の魔導具』でゲントロノフ公に今の話を伝え、乗っている馬ごと『転移魔法』で転移をした。

転移したのは、将軍ドルトン・ローテローザ連合軍の後方である。

ちょうど近くにヴァミリオラ率いる魔導師隊がいたので、そちらへ馬の足を向けた。なお、まだ戦闘が始まっていないのは、『通話の魔導具』に連絡がなかったことからわかっている。

「ローテローザ公、戦場の様子はいかがかな」

声を掛けると、鞍上にいる美女、『真紅の麗炎』にして公爵のヴァミリオラが振り返った。

「あら、国王陛下。もしかしてミルザム王国軍はもう倒してしまったのかしら」

「さすがにそれは無理というものだ。どうやらミルザム王国軍は時間稼ぎをしているようでな、こちらの状況が先に動きそうなのだ」

「時間稼ぎ? なんの理由があってそんなことを?」

「あり得るとすれば、西の戦線にいる我が軍が、ベランゴル軍が勝ち進んだとの報告を聞いて焦るのを待っていることだ」

「ああなるほど。ミルザム王国からすれば、自分のところに全軍を差し向けたと思っているでしょうからね。当然ベランゴル軍は簡単に勝つはずだと考えるでしょうね」

「そうだ。だがベランゴル軍は違うだろう。彼らは自分たちがミルザムより戦力で劣っていることを知っている。自分たちが優先的に対応されるとは考えまい」

「そうね。自分たちが下だと知っているからこそ、自分たちに対して増援が送られるなら、ミルザム軍にも同等以上の増援が送られていると考えるはず」

「もっとも、そう判断しているならベランゴルはすぐに撤退するはずだが、そうはなっていないのだな?」

その質問に、ヴァミリオラは皮肉げな笑みを浮かべた。

「ええ、向こうはやる気みたいよ。セドレン将軍とやらが今か今かとこちらの様子を伺っているみたいだし」

「猪武者という噂の人物か。もう一人は……ツクヨミ、どうだ?」

「ランクBは、集団の先頭に一つ、集団より外れた西側に一つです」

「もう一人は魔導師のパリヨーと言ったな。この戦場の西の外れとなると森の中ということになるが、それはどういうことだ?」

「西側、こちらから見て右方から接近してくる300ほどの反応があります。ランクBの反応もその中にあります」

ツクヨミの報告を聞いてヴァミリオラが首をかしげる。

「別動隊で側面から奇襲をかけるつもりかしら。しかしあまり意味があるとも思えないわね。パリヨー将軍自ら率いると言っても、300の部隊なら私が兵を率いて迎撃すれば相手にならないわ。囮部隊としても将軍自ら出てくるとも思えない。どういうことかしら」

「パリヨーが策士というなら、単純な奇襲ではなかろうな。面倒だ、そちらは私が抑えよう」

「あら、そこまで国王陛下に頼ってしまっていいのかしら」

「今更の話だ。今の話をドルトンに伝えつつ、その分正面の本隊をしっかりと押し返して欲しい」

「承知したわ。そちらは任せてちょうだい」

うなずくヴァミリオラに片手を挙げて返事の代わりとし、俺は馬の首を右方へと巡らせた。