軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

08 王家軍転移と南方戦線

「陛下、ミルザム、ベランゴル両国の軍勢が国境から見える所まで迫って参りました。明日の午前にはこちらの国境を侵してくると思われます」

二日後の執務室、俺はマルダンフ侯爵の報告を聞いて椅子から立ち上がった。いよいよ動く時が来たようだ。

「ご苦労。では私は軍勢の転移を行ってくる。そのまま前線にとどまるゆえ、なにかあれば魔導具にて知らせて欲しい」

「かしこまりました。相手国への賠償などの案はすでに考えておりますゆえ、存分に陛下のお力をお振るいください」

「私の力などあまり使わぬ方が良いのだがな。民のためには致し方あるまい」

俺はそのまま、同じく立ち上がっているフォルシーナに顔を向ける。

「フォルシーナよ。私がいない間こちらのことは任せる。こういった時にこそなにが起きるかわからぬ。身の回りにも十分注意しておくのだぞ」

「はいお父様。精霊様たちや錬金術関係など、主要な場所にはすでに親衛騎士を守りに配置しております。ミアールもクーラリアもおりますから、お父様は安心して戦のほうに専心ください」

「うむ。お前がいるから私も動けるのだ。よろしく頼むぞ」

肩に手を置くと、フォルシーナはその手を取って頬にあてる。

いつの間にかルーチン化している好感度アップ(小)アクションである。

「では参る」

俺はその場で『転移魔法』を発動した。

将軍ドルトンと将軍リンの軍勢、総数5万の転移は、2時間ほどで終了した。

すでに三千人の部隊で一組にされ整列している部隊を、それぞれの国境線近くの平原にポンポンと転移するだけである。

もちろんほとんどの兵が『転移魔法』は初体験なわけだが、『転移の魔導具』もある我が国のこと、そこまでの騒ぎには至らなかった。一般兵までチート慣れしていることには、さすがの腹黒国王も苦笑いするしかない。

などと冗談めかしてしまいたいところだが、実態として大陸トップクラス大国が擁する大部隊が瞬間移動したわけであり、歴史的に見れば驚天動地などというレベルの話ではない。もしこの戦いを歴史につづろうとする歴史家が現れた時、間違いなく嘘判定するだろう謎用兵である。

部隊の移動を終えた俺がまず訪れたのは、ベランゴル民主国軍と対することになる神聖インテクルース王国の南方、ローテローザ領よりさらに南の国境沿い野営地である。

その平原にはローテローザ公であるヴァミリオラの軍1万と、将軍ドルトンの軍2万五千が駐屯している。南に目を向けると山がいくつか重なっているのが見えるが、その先がベランゴル民主国となる。

丘に建てられた本部テント前で遠くに目を凝らすと、山の手前を2万の軍勢がこちらに向かっているのが見えた。魔族軍とは違い、兵たちは統一された装備をまとっており、隊列も整然としたものだ。

ほぼ歩兵部隊だが、奥には騎兵や魔導師部隊などもいるはずだ。情報によるとベランゴル民主国の軍は歩兵を主体としたオーソドックスなものである。もちろんゴーレムなどもいない。

「ツクヨミ、なにか気になる反応はあるか?」

俺はレーダー代わりに連れてきているツクヨミに声を掛けた。

「ランクBが2体、ランクCが6体、ランクDが22体が確認できます。他に気になる魔力反応はありません」

「ランクB」はドルトンやリン、ヴァミリオラと同じクラスの強者で、これのどちらかがベランゴル軍の総大将だろう。ランクCは大隊長クラス、ランクDは中隊長クラスだ。ちなみにランクCは魔族軍で言えばいわゆる幹部魔族であるが、先の戦いではこのランクCが100体もいたのだから魔族軍がいかに本気だったかよくわかる。

なおこちらの軍は、ランクBとしてドルトン、ヴァミリオラ、アミュエリザの3人がいて、ランクCもランクDも倍以上いる。さらにランクC上位のゴーレムも20体いて兵数そのものも上となれば、あまりにも酷い戦力差である。

俺はツクヨミとともに、ドルトン軍とヴァミリオラ軍の間あたりに設置された、大型の本部テントへ入っていった。

中には大きなテーブルが置かれていて、その上にはこの周辺の地図が広げられている。テーブルの周りには椅子が20ほど並んでいて、将軍ドルトンとその部下10人ほど、そして赤いロングヘアの妖艶女公爵ヴァミリオラと、その妹で、赤い髪をポニーテールにした少女騎士アミュエリザが座っていた。

「あら、これはブラウモント国王陛下。色々とお疲れ様ね」

ヴァミリオラがそう言って立ち上がろうとする。

「そのままで結構。この度は出陣いただいたことに礼を言おう、ローテローザ公」

「南の守りはもともと私の管轄だから礼などいらないわ。それより本当に王家軍5万を半日で移動するなんて、本当に貴方は恐ろしいことをするのね。戦場の常識が根底から覆るのではないかしら」

「今回は緊急事態だったゆえ、自重はせぬことにしたのだ。ローテローザ公の軍に負担を強いるわけにもいかぬからな」

俺がそう言いながら椅子に座ると、アミュエリザがお茶を淹れたカップを持ってきてくれた。

「済まぬな」と礼を言うと、アミュエリザは嬉しそうな顔で椅子に座ったのだが、そこで姉バカのヴァミリオラが睨んできたのは言うまでもない。

「それで、今回はどう戦うつもりなの?」

「それはドルトンに任せてある。ドルトン、作戦はまとまったか?」

声を掛けると、ドルトンは巨躯を揺すりながら頭を掻いた。

「一応ローテローザ公爵閣下から情報はいただきましたが、地形を考えると素直に正面から当たるしかなさそうですな。こちらにはゴーレムもいますんで、出鼻は 挫(くじ) けると思います。そこで向こうがどう出てくるかですが……」

「向こうの将軍はどういうタイプだ? 前に出てくるのか、後ろで指揮に専念するのか」

「情報では一人はセドレン将軍、一人はパリヨー将軍と言うそうです。セドレン将軍は槍使いで、こちらは猪突猛進の男のようですな。反対にパリヨー将軍は頭脳派の魔導師で、策略家でもあるようです」

「なるほど、一人は前線、一人は指揮か。オーソドックスなだけに面倒ではあるな」

「へい。それとちと気になるのは戦車の存在ですな」

「戦車だと?」

前世で『戦車』といえば、装甲と大砲を持った無限軌道車を指すが、この世界では馬に牽引される四人乗りの馬車を指す。御者と弓手と魔導師と槍使いが乗り込み、その一台で遠距離戦から接近戦までをまかなおうというもので、一時は戦場の華と言われた存在だ。

もっとも集団戦の発達によって今ではほとんど使われなくなったはずなのだが、それを使うとはどういうことだろうか。

「ベランゴルの戦車ってのは、二輪の荷馬車にデカい盾と強力な連弩を装備したもんです。戦場ではそれを前に並べて、連弩を撃ちまくってくるんでさ」

「連弩」というのは連射式の弩のことだ。荷馬車に載せるなら大型のものだろうし、基本的には対大型モンスター用の兵器だろう。普通はそんなものを敵地まで運ぶだけで一大事だが、無理を通したということか。

「しかしここまで運ぶ手間に比べて効果は薄いように思うが、なんの目的で持ってきたのだ?」

という疑問に答えたのはヴァミリオラだった。

「たぶん私対策じゃないかしらね。上位の魔導師を遠距離から攻撃するには丁度いい兵器だと思うわ」

「なるほど、そういうことか。とすると当然他の魔導師兵も狙われるということだな」

「そうなるわね。放って置くには厄介な武器かもしれないわ」

「ドルトンはどうするつもりだ?」

「ゴーレムを使うしかないですなあ。そっちの対策に食われちまうのはちと業腹ってやつですが」

ドルトンはそう言って頭をポリポリと掻いた。

「あと、槍使いのセドレン将軍は俺が相手します。アミュエリザお嬢様も手伝ってくださるそうで」

「ほう」

姉バカのヴァミリオラが渋ると思ったのだが、さすがに戦場に私情は持ち込まないようだ。もっともアミュエリザは『スカーレットプリンセス』を装備していることもあり、すでに槍使いとしては将軍リンに並ぶほどである。戦場の前線に出しても安心して見ていられるレベルではある。

「それなら万に一つもあり得まい。後は魔導師のパリヨー将軍とやらがどう動くかだな。策士であるなら不利を悟ればすぐに退く気もするが」

「ローテローザ公爵閣下の話だと、あまりやる気のないタイプらしいですぜ。今回の出征もかなり嫌々だったとか」

「もとが首相の人気取りの出征だから軍の士気も低いそうよ。事前に自国の反乱の鎮圧なんかもやって疲弊しているみたいだし、実際我々と戦うとなったらすぐに戦略面での誤りを悟るんじゃないかしら」

「なら話は早そうだな」

こちらはヴァミリオラもいるので、事前の情報収集も万全であった。

戦力的に勝っていて情報が揃っていれば、おかしなことにはならないだろう。

さすがにまた『ソウルバーストボム』みたいな隠し技が出てくると面倒だが、ツクヨミも今のところそういったイレギュラーは感知していない。

こちらは問題なしと判断して、俺はツクヨミを連れ、西の国境沿いへと転移した。