作品タイトル不明
06 土壌改良石
「国王陛下ぁ~、ちょっといい?」
ラエルザとアラムンドの報告の後、執務室に戻ってきたフォルシーナと共に書類の処理をしていると、『叡智の魔導師』ことエメリウノがやってきた。
紫の髪を羽みたいなツインテールにした、競泳水着風ボディスーツの上に白衣という壊滅的に意味不明な格好をした美人である。
なお見た目は完璧に人間だが、実際は自身が作り出した魔導人形に魂を移した存在だ。
「執務室に来るとは珍しいな。なにか急ぎの用か」
俺が筆を止めて答えると、エメリウノは執務机を回り込んでわざわざ俺の隣にやってくる。
しかも俺にしなだれかかるようにして豊満な胸を押し付けてきたりして……横に座っているフォルシーナの目から冷凍ビームが出そうなので、俺は慌ててエメリウノの身体を引き剥がした。
「ここは執務室だ。そのような行為は慎んでくれたまえ」
「あはっ、ごめんなさいねぇ~。陛下に会うのが久しぶりな気がしたからつい甘えちゃった」
舌を出していたずらっ子みたいな顔をするエメリウノ。美人はなにをしても絵になるからいいのだが、フォルシーナの視線が俺の横顔に突き刺さってくるのは非常に困る。
「んんっ。それで、なにかあったのかね。もしやその手にしているものがなにか関係あるのか?」
「あはっ、正解~。はいこれ、国王陛下が欲しがってた『土壌改良石』が完成したのよぉ~」
エメリウノは右手に持っていた小さな革袋から、七色に光るピンポン球くらいの大きさの石を取り出して机の上に置いた。
そのアイテムには見覚えがあった。ゲームで出てきた換金アイテムである。確か『虹鉱石』という宝石だったはずなのだが、まさかCGの使い回し……なわけはないか。
俺はその『土壌改良石』を手に取って眺めてみた。表面がしっとりとした魔力で覆われているのが感じられる。確かにかなりの力を秘めた石であるようだ。
「どのような効果があるのだろうか」
「これを土に埋めると、半径500メートルの土壌に精霊力を与えるって感じかなぁ。あっ、精霊力って言うのはあの地の精霊クーロ様が持ってる力と同じ感じのやつだよぉ。で、その精霊力が植物の生育を助けてくれるってわけ。効果の持続時間は三年くらい。でもこれがあればこの国は不作とか飢饉とか、そういうのとは無縁でいられるってわけよねぇ」
「素晴らしい効果だな。民が飢えないというのが、国を治めるうえで最も大切なものだからな」
「その考えができるだけで、国王陛下は名君確定よねっ」
「王は行いの結果のみで評価されるべきだ。考えだけで評するのは危ういぞ」
「そういうところも素敵~。で、その『土壌改良石』の量産なんだけど、ツクヨミちゃんにレシピをお願いできるかなぁ」
「試してみよう。ツクヨミ、頼めるか?」
俺が呼ぶと、古代アンドロイド少女のツクヨミがやってきて、無表情のまま俺の手から『土壌改良石』を受け取った。
「はいマスター。解析を開始します」
ツクヨミの頭部が変形し、羽根型アンテナ付きヘッドセットとゴーグルが現れる。
「対象、『土壌改良石』、解析開始……データベース照合……錬金術魔法陣構築……解析完了。錬金術レシピを出力します」
紙にスラスラとレシピを書きだしていくツクヨミ。30秒ほどで書き上げて、ツクヨミはレシピを俺に渡してきた。
エメリウノと、いつの間にか後ろに来ていたフォルシーナがのぞき込む。
レシピは地の精霊クーロがくれる『精霊石』を使う以外は平凡な素材で間に合うようだ。これなら量産は容易だろうが、錬金術部門の責任者になったトリリアナにさらなる錬金術師の増員を打診しなければならないかもしれない。
「うむ、ツクヨミ、良い手際だ。助かるぞ」
「ありがとうございますマスター」
頭をなでると、ツクヨミは目をつぶって気持ちよさそうな顔をする。普段無表情なのにこういうときだけ表情あるのはちょっとあざとくないですかね、古代の技術者の皆さん。
エメリウノもツクヨミの頭をなでて……はいいのだが、そのまま全身をタッチしはじめるのはやめてあげて欲しい。興味あるのはわかるけど。
「ツクヨミちゃんはホントにすごいよねぇ。それで国王陛下、これで『土壌改良石』の研究はひとまず終わりでいいかなっ」
「うむ、今回もよくやってくれた。この『土壌改良石』は、『通話の魔導具』とともに人類史に残る発明となろう。記録は国史に残すが、他に褒美も与えよう。エメリウノ殿はなにを望む? 爵位でも土地でも与えることはできるが」
と問う時に俺が笑っているのは、半分以上冗談であるからだ。そんな俗なものを『叡智の魔導師』が欲するはずがない。と思っていたのだが……
エメリウノは指を口元にあてて悩むフリをして、その後笑いながら答えた。
「欲しいのは王子様のキスかなっ。それがあれば乙女はいくらでも頑張れるからね~っ」
ギャルゲーキャラっぽいことを言いながら、急に顔を近づけてくるエメリウノ。
直後に背後から漂ってくる強烈な冷気と板挟みになり、さすがの陰険国王もフリーズしてしまう。
「ま、待ちたま……」
迫る最高レベルの危機。急激に高まる背中の冷気は、背筋を流れる汗も凍るほどである。
「マスターへの過剰な身体的接触は許可できません。別の褒賞を選択してください」
なんとそこから救ってくれたのはツクヨミたっだ。
正面から身体に抱き着くようにして、エメリウノをブロックしてくれたのだ。
「あれぇ? ツクヨミちゃんもしかしてジェラシー?」
「嫉妬ではありません。マスターへの過剰な身体的接触をブロックしているだけです」
エメリウノの豊満な胸部に頭をうずめながら押し返そうとしている健気な姿にエメリウノもホッコリしてか、ツクヨミの頭をぎゅっと抱きしめて「可愛い~」などと言いながら俺から離れていった。
どうやらツクヨミのファインプレーで、背後の極大冷気が俺を氷漬けにするのは避けられたようだ。
俺は胸を撫でおろしながら、『土壌改良石』を再度手に取った。この七色の石は間違いなく国家バランスブレーカーの一つになるものだ。それだけに、使い方は考えないとならない。
しかしまあ、そう考えるとベランゴル民主国がこの錬金チートを欲しがるのも理解はできるものではあった。
こういうものは独り占めしても周囲の反発を買うだけなので、ゆるやかに他国に融通することも考えるとしよう。