軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

05 執務室にて アラムンド

「お館様、失礼いたします」

ラエルザと入れ替わりに入って来たのは、ちょいエロ忍者コスチュームに身を包んだダークエルフ・密偵のアラムンドである。魔族軍侵攻の前から、彼女にはずっと周辺国の情報を集めさせている。

「ご苦労。知っての通りミルザムとベランゴル両国が宣戦布告をしてきた。ミルザムについてはお前の事前情報とは少し違ってしまったが、それについて情報はあるか?」

俺の問いに、アラムンドはその場に片膝をついて頭を下げた。

「まずは事前に先代王妃様の行方に関する情報が得られなかったことをお詫び申し上げます」

「よい。お前とてすべての情報を集められるわけではあるまい。それよりミルザム王国の現在の状況を知らせよ」

今回の件、本当にアラムンドが情報を得られていなかったかどうかは非常に怪しいのだが、俺はあえて気づかないふりをする。

「陛下のお心に感謝いたします」

アラムンドは再度頭を深く下げ、それから顔をこちらに向けて報告を始めた。

「ミルザム王国に先代王妃の身柄があることはほぼ間違いないようです。国王キルリアンは、すでにベランゴル民主国、ミュールザンヌ教国にその旨を伝えており、自らが先代王妃の後ろ盾として神聖インテクルース王国に干渉する同意を得ております」

「大義名分を内外に取り付けたというわけか。して、誰が先代王妃をミルザムに連れていったのかはわかったのか」

「はい、それはまったく調べがつきませんでした。申し訳ありません」

答えた時にアラムンドは頭を下げていたので、その表情を見ることはできなかった。

「過去のことでは調べるにも限度があろう。気にせずともよい。ところでベランゴル民主国の首相は私の錬金術レシピが欲しいと言ってきているのだが、その要求の中にミスリル錬成のレシピが含まれていた。いったいその情報はどこから漏れたのか見当はつくか?」

「それは……私が今持っている情報からは見当がつきません。しかしお館様の近くに内通者がいるのは間違いないでしょう。命じていただければ調査いたしますが、いかがいたしましょうか」

「ふむ……。いや、それについては私のほうに心当たりがある。お前の手を煩わせるほどのものではない」

「かしこまりました。その、心当たりについてお教えいただくことはできるでしょうか?」

「いや、それは秘しておこう。それよりベランゴル民主国、特にその首相についてなにか情報はあるか」

アラムンドはそこでまた顔を上げて答えた。

「はっ。首相ショーテルン・アイバッハは、政治的地盤を強固にするために私財を蓄え、権力を集中することに腐心しています。そのせいで民衆の心が離れつつある状況です」

「北の暴動がその現れだな」

「はい。更に先日、腹心のリヴィヨン・マイワールを投獄しました。マイワールは幼少のころから志を同じくする者であったにも関わらず、です」

「ナンバーツーを排除したか。やり方としては間違っていない。独裁者になるのであれば、だがな」

「現在アイバッハは行政、立法、司法、軍部のほとんどを手中に収めております。政治的な手腕はかなりのものかと」

「なるほど。逆に言えば、アイバッハの首さえつかめばベランゴルは麻痺するか。ベランゴルは旧王家の血筋も形だけ残していたと思うが、そちら健在か?」

「完全に形だけです。実権はすべて首相の元に集まるようになっております」

「ならばやりやすい相手だな。それとリヴィヨンとやらの投獄先はわかるか?」

「政治犯を収容する監獄が首都の西のはずれにあります。そちらに他の政治犯と共に収容されております」

「ふむ……。ならば彼の者らに恩を売るのが良いか。うまくすればよい関係を築けるかもしれぬな」

俺がマークスチュアート面を表に出して不敵に笑うと、アラムンドは妙な顔をした。

実は彼女はまだ魔族戦の結果を知らないし、俺がピストンで軍を移動できることも十分に理解していないのだ。『転移魔法』のことはもちろん知っているが、『魔の源泉』によるチートまでは理解していなのである。

「ベランゴルについてはわかった。お前の能力にはいつも助けられている。礼を言うぞ」

「はっ」

再度頭を下げるアラムンド。部下を褒めるのは重要である。それが裏切り中の相手となればなおさらだ。

「それからアラムンド、お前の同胞たちのことなのだがな」

「は……ははっ」

俺が話題を変えると、アラムンドはわずかに身体をビクッと震わせた。

「今回魔族軍との戦いを終えてから考えたのだが、ダークエルフたちの住む土地として北の平原はどうだろうか」

「北の平原、ですか」

そこでアラムンドは、頭を上げて俺の方に瞳を向けてきた。

ただその目には、わずかに怒りの色があった。それはそうだ、北の平原は魔族との間の緩衝地帯、要するに危険地帯なのだ。そこにダークエルフたちの里を作るなどというのは、本来馬鹿にした話でしかない。

「勘違いはするな。もちろん魔族との間に講和が結ばれてからの話だ。お前の同胞を危険な場所に住まわせるという話ではない」

「魔族との間に講和……そのようなことが可能なのですか? 魔族は人間にとって仇敵でありますが」

「それは私を信じてもらうしかないな。それでだ、魔族との間に講和が結ばれれば、北の平原は一転して我が国にとって非常に重要な土地になる。なにしろあそこほど耕作に適した場所はない」

「それは確かに」

「私は近いうちにゴーレムや錬金術の粋を尽くして北の平原を大開発するつもりでいる。その一端をダークエルフに担ってもらい、そのままそこに定住してもらいたいと思っているのだ。もちろんこれは国の事業であるから、耕作が安定するまではあらゆる面で国がバックアップする。無論講和を結んだといっても、北には砦や防壁も設けて魔族領との国境は監視させる。悪い話ではないと思うがどうだろうか」

俺が一気に説明をすると、アラムンドはしばし目をつぶって黙考し、そして再び目を開いて答えた。

「そのお話は大変すばらしいものと思います。ダークエルフの代表者を集めて話をしたいと思いますので、少しお時間をいただければと思います」

「うむ。今も言ったが実際に動き出すのは魔族との間に講和が結ばれた後になる。といっても、それまで一年はかかるまい。この度の戦の結果を見てもらえば、私の言に信が置けるとわかってもらえるであろう」

「戦の方はやはり大勝されたのでしょうか?」

「うむ、敵軍は全滅。四至将は一人は討ち取り、一人は我が軍門に下った。一方で我が方の被害は軽微だそうだ」

俺がさも当たり前のように答えると、アラムンドは非常に複雑そうな顔をした。

喜んでいいのか悲しんでいいのかわからないというような、いくつもの感情が交錯したような表情である。

「……おめでとうございます。さすがお館様です」

「多くは臣下の働きによるものだ。そしてその中にアラムンド、お前も含まれている。私はお前のことも大切に思っているのだ。それは忘れぬようにせよ」

誉め言葉に続き、いきなり口説き文句みたいな言葉を投げかけられて、一瞬凍り付くアラムンド。だがその動作が好感度アップ(大)であると俺は知っている。

「あ、ありがとうございます。今後もお館様のために粉骨砕身働く所存です」

「うむ。前にも言ったが、私がダークエルフに力を貸すのもお前の働きがあってこそだ。逆に言えば、お前の働きがそのままダークエルフの未来にもつながろう。よろしく頼むぞ」

「は、ははっ」

アラムンドは土下座寸前まで頭を下げ、執務室から去っていった。

う~ん、ちょっと好感度アップがてらつついてみたが、やっぱりアラムンドの内心はかなり揺れ動いているみたいだな。

もともと裏切るつもりで仕えている相手が、自分を全身全霊で認めて、しかも仲間を国を挙げて救おうとか言い始めたのだからアラムンドの葛藤はかなりのものだろう。

そもそもゲームでは、彼女は俺が断罪された後は行方不明になり、主人公たちが魔宰相ロゼディクスと対決するあたりで再び姿を現すことになっていた。だからこのリアル世界では、マークスチュアートとしてどうすれば彼女を仲間にするルートに入れるかは俺にもわからない。

なのでひたすらに好感度アップするしかないのだが、あの様子だとそろそろなにか起こりそうな気もするな。タイミング的には二国を追い返した後くらいだろうか。一応覚悟はしておくか。