軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

04 執務室にて ラエルザ

さて、二人の使者を追い返したことでミルザム、ベランゴル両国との開戦が確定した。

ツクヨミの観測によると、両国の軍が国境沿いに現れるのは明後日の夕方になるようだ。とすると、戦闘になるのは三日後の朝からということになる。

ドルトンとリンが率いる主力部隊が北の平原から全力で引き返しても、王都に到着するのは明後日の昼ごろだろう。普通なら絶対に国境線には間に合わない。つまり両国は 素(・) 晴(・) ら(・) し(・) い(・) タイミングで侵攻をしてきたことになる。

だからこそ俺が『転移魔法』でピストン転送することにしたわけだが、ドルトン・リン両将軍には、その時まで兵士たちを休ませておくよう指示をした。

合わせて国境の守りにすでについているヴァミリオラと、マリアンロッテの父であるゲントロノフ公には、必ず援軍を送ると伝えてある。

ただ俺の力をよく知っているヴァミリオラは信じてくれたが、ゲントロノフ公は半信半疑というか、援軍が到着するまで頑張れという意味に取ったようだ。まあ後でマリアンロッテが補足説明してくるだろう。

夕食後、一人執務室で残務整理をしていると、ドアがノックされて秘書官のラエルザが入ってきた。

紫紺の髪を短くまとめ、金の瞳を銀縁眼鏡で隠した美女だが、正体は魔族軍四至将『冷笑のミルラエルザ』である。

「陛下、ご報告があります」

「聞こう」

「魔宰相ロゼディクスは、今回の敗戦の報告を受け取ったようです。合わせてドブルザラクの戦死、エルゴジーラの裏切りも知ったようですが、話によると始めこそ激怒していたものの、すぐに落ち着きを取り戻した様子であったとか」

「ふむ。今回の出征で過半の戦力を失えども焦りはないか。もっとも四至将最後の一人の能力を考えれば当然ではあるな」

「『不死のネクライガ』、アンデッドを操るリッチです。陛下はその力をご存じなのですね」

「噂程度だがな。しかしロゼディクスに焦りが見えぬなら、その力は噂通りということだろう」

「はい」

「お前の主、魔王の方は動きはないのか?」

これに関しては答えないだろうと思っていたのだが、ラエルザはわずかに眉を寄せ、微妙に困ったような表情をしつつ口を開いた。

「魔王様は静観の構えです。実はロゼディクスは魔王様すら知らぬ魔法を操るため、 迂闊(うかつ) に動けないというところがありまして……」

「ああ、そういうことか」

俺はついうなずいてしまったが、実はそこは原作ゲーム『オレオ』でも批評されていたところだったのだ。

なにしろ魔王はロゼディクスの専横をずっと許したまま、最後まで自分からはロクに動かず、主人公たちがロゼディクスを倒した後に姿を見せるという小物ムーブを見せていたからだ。実力から言えば、ロゼディクス配下の四至将3人が倒された時点で魔王はロゼディクスを倒せるはずなのにもかかわらず、である。

リアルではそのあたり変化があるのではないかと思って聞いてみたのだが、なるほどそういう理由があるのなら、この世界でもゲームと同じ展開になりそうだ。

ロゼディクスが『鬼』の魔法を使ったのは意外だったが、エルゴジーラを従えていた理由がその魔法にあったと考えれば、原作ゲームにもそんな裏設定が存在していた可能性は高い。とはいえ『ソウルバーストボム』にだけ気を付けて、あとは原作通りに対応していけば問題はないはずだ。

「ところで陛下がエルゴジーラを懐柔したことについては、魔王様も大層驚いていらっしゃいました。実力的にはロゼディクスすら凌駕する幻獣ドラゴンをどのように説き伏せたのか、それを知りたがっていらっしゃいます」

「大したことはしていない。力でねじ伏せた上で、ロゼディクスにかけられていた怪しげな魔法を解いてやっただけだ」

「そのどちらもが、陛下以外には不可能なことでしょう。やはり陛下に出会えたのは幸運でした」

「私は約は違えぬ。安心するがいい」

ラエルザが俺を褒めるのは、魔王と敵対してほしくないからだろう。念を押してやると、ラエルザは微かに笑みを漏らしながら一礼をした。

「それで、ロゼディクスは次の動きを起こすつもりはありそうか?」

「いえ、さすがにこの度の敗戦はあまりに大きく、しばらくは魔族領で力の回復に専念するようです。ただ守りにはネクライガがつきますので、こちらから攻めるのは非常に難しいかと」

「うむ。奴は少し面倒だからな。そちらは私に考えがあるので任せよ」

先にも話が出たが、四至将ネクライガはリッチ、すなわち魔導師系アンデッドである。しかも特殊なアイテムを所持していて、普通に戦って勝ってもすぐに復活してしまうのだ。

ゆえにゲームではネクライガを倒すためには手順を踏まなければならないのだが、もちろんその知識はあるので問題はない。

「ところで陛下、今人間の国を相手に面倒なことが起きているようですが」

「うむ、こちらの隙を狙って国取りを仕掛けてきた者たちがいる。だが問題はない、戦に負けることはありえぬ」

「お貸しした魔導師部隊はお好きにお使いください。多少の役には立ちましょう」

「そうだな。魔族軍との戦いにも活躍したと聞いている。彼女らにはもうひと働きしてもらおう」

「彼女らも回りに鍛えられた男が多いのでとても満足しております。このまま魔導師兵を続けてもいいと言う者もいるようです」

「そ、そうか。それは重畳。間違っても吸い過ぎぬように言っておいてほしい」

ラエルザがいきなりアダルトな話をしてきたので言葉に詰まってしまう俺。

「魔導師部隊」というのはもちろんサキュバスが化けた部隊なのだが、人間の精を糧とする彼女らが「満足する」というのは そ(・) う(・) い(・) う(・) こ(・) と(・) である。男の兵士たちにとってもラッキーな話だろうが、 腎虚(じんきょ) にだけは気を付けていただきたい。さすがに労災にならないからね。

「ふふっ、そのような愚か者はおりませんのでご安心を。量はきちんとわきまえておりますので」

目を細めて笑うラエルザから隠し切れない色気がにじみ出る。サキュバスクイーンたる彼女だが、相手ができるのはそれこそ魔王くらいのものだろう。

と思っていたのだが、ラエルザが俺を見ながら舌なめずりをしたような……。まさか婚約者がいるのにつまみ食いとかしないよね。サキュバスにとってはただの食事なのかもしれないけど、さすがに魔王様もそれは許さないと思うし。

俺の内心の焦りをよそに、ラエルザは笑みを口元に浮かべたまま、執務室を出て行った。