軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

02 ミルザム王国の使者

さてまず向かったのはミルザム王国の使者ご一行様のところである。

王家の馬車でホテル前に乗り付けると、ホテルの主人が慌てて出てきたりと騒ぎになってしまったが、主人に場を設定してもらい、貴賓室で使者と対面することになった。

貴賓室のテーブルセットにて向かい合うのは、ズビアン子爵という、30前後の男の貴族である。

短い黒髪と口ひげを綺麗にセットしていて、いかにも伊達男といった風貌……になりそうなのだが、全体的に丸い体形と、妙にギラギラした肌の質感がそれを台無しにしていた。庶民より贅沢ができる貴族といっても、ここまで豊満体形の人間は初めて見た気がする。

なおこの会見での同伴者だが、俺の方は宰相のマルダンフ侯爵とフォルシーナが後ろに立っており、ズビアン子爵も補佐官らしき女性を一人伴っている。同伴の者が立ったままなのは身分制社会ゆえに仕方ないのだが、フォルシーナについては本人の希望である。

「初にお目にかかる、ズビアン子爵殿。私が神聖インテクルース王国の王、マークスチュアート・ブラウモントだ。お見知りおき願おう」

「お目にかかれて光栄でございますな、ブラウモント公。ミルザム王国、宮廷魔導師団団長のズム・ズビアンでございます。この度は公自らのご来訪、誠にありがたく思いますぞ」

慇懃(いんぎん) 無礼(ぶれい) を絵に描いたように、 鷹揚(おうよう) に礼をする子爵。俺のことを「公」と呼ぶのは、「王として認めてないぞ」という態度の表れなのだろうが、もちろん他国の王に対する態度として完全に喧嘩を売っているのと同じである。

後ろではマルダンフ侯爵とフォルシーナが身じろぎしたのが感じられたが、俺は無反応を通した。

「ふむ、宮廷魔導師団長自らお出でになるとは驚いた。それともミルザム国には宮廷魔導師団が複数あるのだろうか。 寡聞(かぶん) にして知らぬのだが」

「まさか。ミルザム王国にて宮廷魔導師団団長と言えばわたくししかおりませぬ」

こめかみのあたりをピクッとさせて答えるズビアン子爵。

まあ俺の言葉は「お前なんて大勢の中の1人だろ」と言っているのと同じなのだからムカつくよね。俺のマークスチュアート面が出ただけだから許してね。

「して、書状のほうは読ませてもらったが、もし私が王位を譲ったらどうなるのかね」

「当面は王妃様が仮に玉座につき、お子が生まれ成人した後はそちらに譲位するという形となるでしょう。ブラウモント公については本来ならば刑死以外の先はありませぬが、我が王は、ブラウモント公のままでいられるよう王妃様を説得するおつもりです」

「それはありがたいな。もっともこちらの留守を狙う空き巣の親玉に、それを求めるほど私も愚かではないつもりだが」

「ブラウモント公、我が王への侮辱はそのまま交渉の決裂を意味しますぞ」

「それは失礼。だがこちらに益のない交渉など初めから成立するはずもない。それは貴殿も理解していよう」

「そうでしょうかな。死を前にした人間ならば、どれほど苦い薬であってもそれにすがるものと思いますが」

そこでニヤリと笑うズビアン子爵。ムカつくイキり糸目野郎に上手いこと言ってやった、くらいに思ってるんだろうなあ。

まあ実際、普通に考えたらこっちの国は魔族との戦いで軍はボロボロ、その上すぐには西の戦場には行けないって前提になるからね。ミルザム王国から見れば、俺の命は風前の灯みたいに見えることだろう。

もちろん実際はそうではないので、俺の中のマークスチュアート面が笑みを漏らす。

「ふっ、ならば貴国の王がどの程度まで苦い薬に耐えられるか、それを試すのも面白そうだ」

「それは、譲位の意思はない、そうおっしゃられたと捉えてよろしいのですな」

「無論だ。貴国の王に伝えるとよい。ブラウモントがこの世で一番苦い薬を持ってくるぞ、とな」

う~ん、今日のマークスチュアートさんはちょっと煽りすぎじゃないですかねえ。相手の力量を図ろうとか思ってたはずなんだが。まあ目の前のズビアン子爵が本当に宮廷魔導師団団長なら、たかが知れているという感じではあるんだが。

「かしこまりました。きっとそのようにお伝えいたしましょう。では急ぎ国に戻らせていただきますぞ」

ズビアン子爵は複数の青筋を浮かべ、それでもなお自分の方が強い立場にあるという態度を崩さずに部屋を出ていった。

「あまり収穫のない会見となってしまったな」

ソファから立ち上がりながら俺がそう言うと、マルダンフ侯爵は微かに笑いながら首を横に振った。

「もとより決裂以外はない交渉ですからな。ミルザム王国の王キルリアンの狙いも確認が取れましたし、このようなものでしょう」

「うむ。しかしあのズビアン子爵が宮廷魔導師団の団長というのは本当なのか。あれならフォルシーナの方がはるかに上だと思うのだがな」

「ミルザム王国の主力は騎兵ですので」

「ああ、そうであったな。野戦では比類なき強さを誇る 鋼鉄騎士隊(アイアンナイツ) か」

「はい」

マークスチュアートの知識にあるミルザム王国は、確かに騎兵を主体とする軍団を多数有している。鎧と槍で武装した重装騎兵による突撃は、モンスター相手にも人間相手にも強烈な打撃力を有する。一度戦うことになれば、相当の被害は覚悟しなければならない相手である。もっとも重装騎兵は平地しか移動できないなど運用に難があり、決して万能ではない。

「ふっ、時代遅れの騎兵など相手にはならぬがな。さて、ではベランゴルの使者にも会いに行くと――」

と声を掛けようとして、俺はフォルシーナが奇妙なことをしているのに気付いた。

ノートとペンを持って、なにかを必死に書き留めているのだ。

「フォルシーナ、なにをしているのだ?」

「お父様の素晴らしいお言葉を書き残しております」

「議事録を取っているということか?」

「いえ、書き残すのは、お父様があの愚かな子爵に投げかけた、心地の良いお言葉のみです」

「えぇ……」

それってつまり、俺の中のマークスチュアート面が暴走気味に口にした恥ずかしいイキりセリフを書き残しているということだろうか。あまりに恐ろしいフォルシーナの行動に、俺は戦慄を覚えずにはいられない。

「待てフォルシーナよ、それは決してならぬ。あのような言葉残すことは王として恥ずべきことだ」

「いいえお父様、これは天から与えられた私の使命なのです。お父様のご指示でも聞くことはできません」

「えぇ……」

あまり強く言うと断罪追放ルートの影を踏みそうなので、俺もそれ以上言うことができなかった。

まあ書き残すだけなら俺が気になるくらいで実害はないが……間違っても皆に発表するとか、そういう断罪だけはやめてもらいたいものだ。