作品タイトル不明
01 城にて
魔族軍には完勝したものの、直後に周辺2国がこちらに圧をかけてきたと連絡を受けた俺は『転移魔法』で急ぎ王城へ帰還することにした。
もちろんフォルシーナたちも一緒だが、マリアンロッテ、アミュエリザ、クーラリアは自室に戻って休ませ、俺とフォルシーナ、ミアール、そしてツクヨミの4人は執務室へと向かった。
すぐに宰相のマルダンフ侯爵を呼び、こちらに侵攻する構えを見せているというミルザム王国、ベランゴル民主国について詳細な報告を頼んだ。
「まず最初に王城へとやって参りましたのはミルザム王国の使者でした。ズビアン子爵という、魔導師として有名な人間が使節団の長をしておりました。私が応対いたしましたが、こちらの書状を差し出して、口頭でも先に魔導具でもお知らせしたことを伝えて参りました」
「この国の王位を、先王妃殿下とその腹の子に返せという話だな。そしてミルザム王国が後ろ盾になると」
「はい。私には返答する権利はございませんので、国王陛下にお伝えするとの旨のみ先方に伝えました。すると、すでにミルザム王国は兵を出している、回答までの猶予はないと申してきました。実際、その時にはすでに兵は動いていたようです」
「ふむ……」
書状を開いて見てみるが、大体同じようなことが書いてあった。
端には先代王妃の直筆と見えるサインが記されていたが、筆跡などを調べるまでもなく本物であるのだろう。
俺は書状をフォルシーナに手渡して、マルダンフ侯爵に目を向けた。
「その次がベランゴル民主国だな」
「はい。ミルザム王国の使者が去って同じ日に使者が参りました。ワリャール議員という者が使節の長で、差し出してきた書状はこちらになります。やはり口頭で陛下が正当な王でないこと、民を虐げていることなどありもしないことを述べたて、民を自由にするためには実力行使も辞さないとつもりだと申しておりました」
「随分と勇ましいものだな。しかしミルザム王国は 傀儡(かいらい) 政権を立ててこちらの国を実質属国にするのが狙いだろうが、ベランゴル民主国はそうではあるまい?」
「ご賢察にございます。どうやら陛下がお作りになった錬金術レシピが目的のようです。ワリャール議員とやらは、レシピを引き渡せば兵を引くということをほのめかしておりました」
「その話、信用していいと思うか?」
「約束を守るつもりはないでしょうな。ミルザム王国とベランゴル民主国が裏で手を結んでいるのは確実ですし、ベランゴル民主国がミルザム王国を裏切る意味があるとは思えません。彼らは我々が魔族との戦いで兵力を失うことを前提に動いているでしょうから、この機を逃すことはありますまい」
「同感だ」
ベランゴル民主国の書状も目を通すが、こちらもマルダンフ侯爵の報告どおりのことが記されていた。
気になるのは、向こうが欲している錬金術レシピの中にミスリル錬成のレシピが含まれていることだ。なにしろそのレシピの存在を知っているのはごく限られた人間だけなのだ。
それ以外は、文章の中でやたらと民主主義の素晴らしさを説いているのが目についた。民衆に支持されている我々が民衆を救う! などと臆面もなく書かれているのを見ると、元日本人の俺としては少し気恥ずかしくなってしまう。
「お父様、なにか不愉快なことが書かれているのですか?」
「いや、ベランゴル民主国は我が国とは異なる政治体制を取っているのだが、そのことを何度も自画自賛しているのが少しおかしくてな」
書状を手渡してやると、フォルシーナは目を通し、そして露骨に不機嫌な顔になった。
「この書状をしたためた者は限りなく愚かですね。お父様ほど民衆に支持されている人間はいないというのに。いったい何様のつもりなのでしょう」
「まあそう言うな。そちらの首相は実際に選挙で選ばれているのだ。彼らにしてみればそれが最大の矜持なのだろう」
「この国でも選挙をしたならば、お父様が満票で選ばれるはずです」
「ふっ、そうなるようにこの難局も切り抜けねばな」
正直俺としては民衆の支持よりフォルシーナ1人の支持が重要である。まあ、今の反応からすると好感度的には問題なさそうだ。
さて、それはともかくまずは目の前のことを片づけないとならない。といっても、どちらの要求も吞むことができない以上、結局は戦をするしかない。
しかし相手がモンスター主体の魔族軍ならともかく、人間が相手の戦は俺にはなんとも気が重い。もちろんゲームにはなかった展開であるから、どうすれば正解なのかもわからない。
マークスチュアート的には両方の国を落として併合しようなどという野心も芽生えるところだが、俺してはそんな面倒は御免こうむりたい。ならば互いの損害をなるべく少なくしつつ確実に勝ち、相手国に賠償を求めるくらいが目標となるだろうか。
「私としては戦うしかないと考えるが、侯爵はどう思う?」
「陛下のおっしゃる通り、戦う以外に道はございますまい。先方ももとからそのつもりでございましょう」
「うむ。向こうが指定してきた回答の期限は明後日の正午だったな」
「さようでございますな。ドルトン、ラシュアル両将軍の軍が戻るまではなんとかローテローザ公、ゲントロノフ公の軍に抑えてもらうしかありません。『転移の魔道具』を使っても軍の移動には最低4日はかかるでしょう。それまでに甚大な被害が出ると思われますが……」
「私がなんとかしよう。本来はやりたくないが、この国と民衆を守るためには使える手はすべて使う」
「とおっしゃいますと、もしや『転移魔法』ですかな」
「うむ。向こうにとっては悪夢のようだろうがな」
俺の『転移魔法』と『 魔の源泉(チート) 』を使えば、3,000ほどの兵を一度に転移できることはすでにわかっている。ピストン輸送すれば数時間で数万の兵を戦場に送り込むことができるのだ。
はっきり言って いかさま(チート) なんてレベルじゃない、完全な国家バランスブレーカーであり、さすがに俺もこれを使うのは後で問題になりそうな気はする。だが国と国民と、なにより自分の保身のためには手段を選んでいる暇はない。悪いのはこんなタイミングで仕掛けてきた2国である。
俺の言葉を聞いて、マルダンフ侯爵は安心したような、それでいて少し困ったような顔を見せた。
「本来なら陛下の手をそこまで煩わせることのないようにしたかったのですが、不甲斐ない私をお許しください」
「これは誰のせいでもあるまい。さて、ではまずその使者とやらに会いに行くか。彼らはどこにいる?」
「それぞれ王都のホテルに宿泊しております。王城内に宿泊するよう勧めたのですが、いずれも事前に商人の名前で予約を取っていたようで」
「手際が良すぎるな。やはり手引きした者がいる、か」
今回の使者がアポなしで来たのは事実上の宣戦布告だからいいとして、宿泊場所をあらかじめ確保しているというのは妙な話だ。しかも魔族襲撃のタイミングとほぼ完全に被せて取るなど、内部の者でしかできない芸当である。
「陛下?」
「気にするな。それより宿へ私自ら乗り込んでやろう。向こうも城に呼び出されるのは気が気でないであろうからな」
「では急ぎ馬車の手配をいたします」
さて、使者はそれぞれ各国で力のありそうな人間を寄越してきたように見える。とすれば、俺のマークスチュアート面が上手く働いてくれれば、なにか情報を得られるかもしれない。
……と、少し楽しみになっているにつけて、この身が所詮腹黒陰険中ボスなのだと感じてしまう悲しさである。