軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11章 → 12章

―― ベランゴル民主国 首相執務室

「待てリヴィヨン、それはどういうことだ。なぜ北部で暴動が起きる!? この間の災害時には、私が直接現地に向かって民を 慰撫(いぶ) したはずだろう!」

「はあ……。本当になぜかわからないのかショーテルン? お前が現地で、知事相手に過剰なもてなしを強要したからだろう」

「強要? 強要とはなんだ。私は何も強要などしていない。あれは知事が私に対する敬意から自らやったことだ」

「もてなさない人間をこれ見よがしに投獄していたら、誰だって保身のために学習するものだ。しかも罪状は贈収賄に婦女暴行、横領に不当蓄財、いかにも民衆が嫌いそうなものばかり。誰だってでっちあげだと見抜くだろうよ」

「くだらない! それらはすべて真実だ。ただこの国にはびこる悪が法の下に罰せられただけに過ぎない」

「僕にはそうは見えなかったがね。まあともかく、災害で人民が困窮している時に、そこを訪れた首相が贅沢三昧をしていたら、暴動だって起こるというものだ」

「だいたいその情報は誰が流したんだ。そいつこそ暴動の首謀者に違いあるまい」

「情報源は地元の新聞社だよ。知ることは民衆にとって重要な権利だからね。我々もそう掲げて国を運営しているはずだろう?」

「わざわざ民衆を扇動するような情報を流すのが新聞社なら、そのような存在は必要ない。すぐに取り締まりをさせろ。代表者は裁判にかける必要はない。拷問でもして殺せ」

「馬鹿なことを言うな。そもそもその情報も、今回の災害もきっかけに過ぎない。もともと政府に対する不満が蓄積していたんだ。そしてその不満の大元は、政治が上手くいっていないという事実にある」

「なんだとリヴィヨン、私を無能だと蔑むつもりか?」

「いいや、君は有能だよ、それもすこぶるね、ショーテルン。だがその有能さは今や、民衆を導く方ではなく、自らの権力を強め財を築く方にしか向いていない。君は首相という座についてから、まるで人が変わってしまったようだ」

「私はなにも変わってなどいない。お前だって知っているだろう、この国の内情を。選挙で選ばれた首相と言っても、自身に強い権力と財がなければ容易に足をすくわれる。だからこそ私は自らの足元を固め、その上で確固たる政治を行おうとしているんだ」

「知っているさ、僕たちだって相手の足をすくって今の地位にいるんだからね。だが君はやりすぎだ。民衆の君に対する感情は悪くなる一方だ」

「地を這うネズミは、天翔ける鷹の志など量れないものだ」

「君は本当に……」

「だが愚かなネズミにも餌は必要か。リヴィヨン、インテクルース王国についての情報は入っているか? クーデターが起きて王が変わったという野蛮な話は聞いているが」

「先代の王が悪政を敷いていたらしく、その政権を打倒して新たに王位についたブラウモント王は非常に評判がいいようだ。商人たちからも話を聞いたが、王都復興の手際が恐ろしい程にいいらしい。教会と連携して民の慰撫にも力を尽くしているそうだ」

「ふん、それで」

「しかも錬金術において今まで見たこともないような製品をいくつも開発している。その分野は多岐にわたっていて、薬や化粧品、調味料、そして一部の希金属まで錬金術で作っているという話もある」

「それは王の功績というわけでもないだろう」

「ブラウモント王は早くから天才的な錬金術師だと言われていた人物さ。しかも彼は種族を差別しないという態度を強く表明していて、獣人族やドワーフ族などがインテクルース王国に流入しているという話もある」

「くだらん。見かけ上だけの人道主義か」

「問題はそういった情報や商品がこちらの国にも伝わってきているということだ。それも当然、インテクルース王国に近い土地からね」

「……まさか、北の暴動の下地がそれだと言うんじゃないだろうな?」

「そのまさかだと思うよ。民を優先する専制君主と、自らの保身と蓄財に専心する民衆の代表。民衆が選ぶのは前者となってもおかしくはない」

「愚かしい。独裁者がどれほど自らを 虐(しいた) げてきたか、それを忘れたとでもいうのか」

「……」

「しかしそれなら、その王の化けの皮が剝がれれば民衆は再び民主主義のすばらしさに気付くだろう。しかもその化けの皮を剥がしたのが私ということになれば、民心は再び私に戻ってくることになる。ついでに錬金術のレシピのいくつかを得られれば、国力も上がるというものだ」

「ショーテルン、なにを言い出すんだ?」

「ふっ、お前が知らない情報を私は握っているということさ。そうだろうラムー?」

「はっ!」

「……っ!? 待てショーテルン、彼女は何者だ? ダークエルフ……なのか?」

「くくっ、そう慌てるなリヴィヨン、少し前から雇っている密偵だ。色々と面白い情報を仕入れてくれていてね。ブラウモント王が多くの情婦を囲っている性的倒錯者だという話をこの間聞いたところだ」

「そのような話は聞いたことがないが……」

「さらに、隣のミルザム王国に、先代インテクルース王妃がかくまわれているらしいという話も聞いている。しかもその腹には、先代王の子が宿っているとか」

「まさか……」

「そして、そのミルザム王国からも秘かに打診が来ているんだ。共に神聖インテクルース王国を打倒して、富を分かち合わないか、とね」

「待てショーテルン、君はそれに乗る気か!?」

「北の王国は常にこの国にとって重しになってきたんだ。ここで 楔(くさび) を打ち込んでおくのは必要なことだろう? 私の足場を固めるにもうってつけの案件だ。北の暴動を鎮めるついでに少しばかり足を伸ばすだけさ」

「馬鹿な……。ただでさえ国内がまとまっていないのに外征などありえない。考え直せショーテルン」

「これは高度な政治的判断だ。理解できないなら黙っていることだよリヴィヨン」

「議会を通さない軍事行動はベランゴル憲章に反する。僕はすぐに議会を招集させてもらう」

「やれやれ、どうやら決別の時が来たようだ。君は確かに優秀だったが、柔軟性には大いに欠けていたよ。そのことを牢の中で省みることだね。ラムー、そいつを捕らえて司法局に引き渡せ。罪状は国に不利益をもたらそうとした、国家収奪罪としておこうか」

「なっ!? ショーテルン、君は……っ!!」

「私の政治基盤を盤石にするためにはナンバーツーというものは不要でね。そこは王制などにも 倣(なら) うところがあるというわけだ」

「君は今なにをしようとしているのか理解しているのか! これではまるで独裁者のやり方……」

「黙れ! ラムー、さっさと連れていけ。これ以上不愉快な雑音は耳にしたくない」

「はっ!」

「……ふっ、これで邪魔者はあらかた消えた、か。まったくどいつもこいつも、民主主義の本質を理解していなくて困る。私は民衆の支持によって選ばれた首相なんだぞ。その言葉は民衆の声、その行動は民衆の叫び。私に逆らうなどあってはならないのだ」