作品タイトル不明
13 ドブルザラク
魔族軍四至将エルゴジーラは巨大なドラゴンである。
命を助けた恩返しに、エルゴジーラは俺をその背に乗せることを申し出てくれた。
俺が背に乗ると、エルゴジーラはすさまじい速度で一気に戦場の上空まで飛び上がった。高度は100メートルほどか。ここからだとドブルザラク軍10万の、地を埋め尽くすようなモンスターの大群である。
最も数が多いのはゴブリン、次いでオーク、さらに巨躯のオーガが交じり、巨人サイクロプスが一定間隔で並んでいる。その叫び声は上空の俺の耳にまで地鳴りのように響いてくる。
そのドブルザラク軍の最前部真ん中あたりに、いきなり青白い魔法陣が出現した。直径は100メートル近いだろうか。その魔法陣の中にいたモンスターは一瞬で凍り付き、そして砕け散って消えていった。雑魚とはいえ数百のモンスターを一撃で倒す強大な氷属性魔法、間違いなくフォルシーナが放ったものである。
「ホウ、アレホドノ魔法ヲ使エル者ガイルトハナ。魔族デモ5人トハイマイ」
「あれは我が娘だ。以前より腕を上げているようだな」
「ナルホド、ソナタノ娘カ。ナラバ納得デキル」
どうやらエルゴジーラの中で俺の評価はかなり高くなっているようだ。
と喜んでもいられない。放っておくと、ゼファラたちがエルゴジーラを攻撃してしまう。俺は『シグルドの聖剣』に魔力を充填し、エルゴジーラの背中から最上位光属性魔法『ライトオブドゥーム』を地上に向けて放った。
極太レーザーが地上を一薙ぎすると、数百のモンスターが炭になる。王都軍から歓声が上がり、地上でフォルシーナが俺のことを指さしているのが見えた。これでエルゴジーラが敵ではないということは理解しただろう。
とすると、次は『カオスデーモン』の居場所を確認しなければならない。
召喚される奴隷扱いのモンスターと違って、カオスデーモンは魔族の一種族である。魔族はデーモン族やサキュバス族、ヴァンパイア族などを総称して呼ぶ言葉だが、これは人族やエルフ族、ドワーフ族、獣人族などを人間族と呼ぶのと同じである。要するにモンスターとはまったく扱いが違う存在であり、ゆえに軍勢の後ろの方にいるはずだ。
そして見る限り、カオスデーモンは100人くらいの部隊に分かれて、軍勢の後方に分散して配置されていた。
恐らくその中のどこかに四至将ドブルザラクがいるはず……と思っていたら、ドブルザラクはなんと先陣を切っていた。
身の丈5メートル近い、巨躯の大鬼である。赤い肌、恐ろしく発達した筋肉で全身を包み、身に着けている防具は腰蓑一丁のみ。武器は両手一丁ずつ持った巨大な両刃斧である。蓬髪からは二本の雄々しいツノが天を衝くように伸び、両の目は燃えるように赤い。右頬に縦に走る傷跡は、先代魔王と戦った時に負ったものという設定だった。見るからにパワー系中ボスといった見た目の魔族である。
なおドブルザラクはオーガ族だが、これはモンスターのオーガとは別物である。
そしてそのドブルザラクだが、先の俺の一撃を見て、立ち止まってこちらを見上げてきた。そして俺とエルゴジーラの姿を認めると、牙が並んだ大口を開いて咆哮した。
「グガアアアァッ!! テメエ、エルゴジーラァッ!! ドウイウツモリダァッ!! ナゼ人族ヲ背ニ乗セテンダァッ!!」
「タワケガ、我ハモトヨリ貴様ラノ仲間デハナイ。ロゼディクスノ 軛(くびき) ヨリ逃レタ今、貴様ト慣レ合ウ必要モナイ」
「ナンダトォッ!! フザケタコト言ッテンジャネェゾコラァッ!!!」
「ダガ一度ハ共ニ肩ヲ並ベタ仲、我ノブレスデ貴様ヲ灰ニスルノハ控エテヤロウ」
「ワイバーンドモモ簡単ニ落トサレタジャネエカ! ドウセテメエモ見掛ケ倒シ野郎ナンダロウガァ!!」
「ナントデモ言エ。ソレカラ一ツダケ忠告ヲシテヤロウ。死ニタクナクバ退ケ。我ノ背ニアル人族の長ニ、貴様ハ勝ツコトハデキヌ」
「黙レ腰抜ケガァ!! コノ数ノ差デ負ケルハズガアルカァ!!」
ドブルザラクの赤い肌がさらに赤みを増した。ゲームでも見た、ドブルザラクの『怒りモード』である。
直情径行、短気で残虐な 狂戦士(バーサーカー) という設定の四至将なので、もとから話し合いができる相手ではない。この分だと、『ソウルバーストボム』の話をしても会話にならなそうだ。
エルゴジーラとドブルザラクが大声で話をしたおかげで、どうやら将軍のドルトンたちもドブルザラクが近くにいることに気づいたようだ。
ドルトンとリン、フォルシーナ、マリアンロッテ、アミュエリザ、ミアール、クーラリアの七人組パーティがドブルザラクの方へと向かってきた。
彼らを援護するようにゼファラのエルフ部隊が周囲の雑魚を駆逐しまくっているので、そちらは問題なさそうだ。とすれば俺は『ソウルバーストボム』をかけられたカオスデーモンの対応に集中しよう。
「エルゴジーラよ、ドブルザラクは我が将たちが相手をする。妙な動きをするカオスデーモンがいたらそちらへ飛んで欲しい」
「承知シタ。デハサラバダ、ドブルザラクヨ。戦場ニテ果テルガヨイ」
エルゴジーラはそう言い捨てると、さらに上空へと舞い上がった。
ドブルザラクは怒りに任せ手にした大斧を投げようとしたが、ドルトンたちの接近に気付いて一声吠えるとそちらに向かっていった。
戦場はすでに前衛同士がぶつかり合っていた。王都軍の最前列は強固な鎧や盾を装備した重装歩兵であり、長槍を持った兵が幾重にも並んでいる。前世の知識によるファランクスという陣形の応用だが、ただ突っ込んでくるだけのゴブリンやオークには非常に効果が高い。
さすがにオーガ相手だと身体能力で突破されかかるが、後衛の魔導師兵が狙い撃ちで倒している。サキュバス兵がかなり有能で、彼女らがいればオーガ相手でも被害は抑えられそうだ。
なお巨体のトロールはゴーレムが相手をしている。ゴーレムが振るうのは総金属製の丸太のような長杖で、その一撃はオーガまでならまとめて吹き飛ばせるほどである。その攻撃はトロールにも有効で、一対一なら完全にトロールを圧倒していた。
これなら10万以上の魔族軍も撃退できるだろう、と楽観視したいところだが、それだけに『ソウルバーストボム』がかけられたカオスデーモンの存在は危険である。魔力の高いカオスデーモンが隊列の真ん中で爆発したら、それだけで千人以上の兵が吹き飛ぶだろう。
高所から見下ろせば、全軍の動きはすべて見渡せる。
と、いままで後方で様子を見ていたカオスデーモンたちが、前衛の劣勢を見て動きを見せた。