作品タイトル不明
12 ドラゴンの恩返し
俺がエルゴジーラの相手をしているうちに、ドブルザラクの軍はこちらの本隊の間近まで迫っていた。
もともと俺がドブルザラクの相手を将軍のドルトンやリン、そしてフォルシーナ達に任せたのは、ゲーム知識からエルゴジーラ戦において俺が戦場から離脱する可能性があると踏んでいたからである。
予想通りそうなったわけだが、本来ならドルトンらに任せておいても、ドブルザラク戦は勝てるだろうとは思っていた。
だが『ソウルバーストボム』を使われるとなると話は別だ。『ソウルバーストボム』は、その者の持つ魔力を体内で暴走させて爆発させる魔法である。要するに人間爆弾を作り出す魔法というわけで、原作ゲーム中でもトップクラスで胸糞の悪い要素であった。
元は『鬼』が使ってくる魔法なのだが、前王家の魔導師団団長レギルが使っていたのが記憶に新しい。彼はどうやら『鬼』とつながりがあり、その結果『ソウルバーストボム』を使えるようになっていたらしい。
「……とすると、魔宰相ロゼディクスも『鬼』と関係しているということか」
ゲームではロゼディクスが『ソウルバーストボム』を使うことはなかったし、そもそも魔族と『鬼』は別勢力なので、ロゼディクスが『ソウルバーストボム』を使えるはずがない。となれば、ロゼディクスと『鬼』が接触していたという予想はすぐにつく。
それはともかく、エルゴジーラの話によると、今回『ソウルバーストボム』をかけられた相手は『カオスデーモン』らしい。『カオスデーモン』は魔族の主要な構成員だが、その魔力は人間とは比較にならないほど高く、さらに空を自由に飛ぶ能力まで持っている。それらが『ソウルバーストボム』をかけられて飛んできたら、こちらの軍勢に壊滅的な被害が出るだろう。もちろんフォルシーナたちも無事では済まない。
とすれば、俺が『ディスペルオール』を使って阻止するしかないわけだが、なにしろ相手は数万の軍勢である。どこにいるかもわからない『ソウルバーストボム』個体を探すだけでも大変である。
「『ソウルバーストボム』は厄介だな。できればそれがかけられたカオスデーモンを率先して無力化したいが……」
俺が手をあごにあてて考えていると、エルゴジーラが首をもたげた。
「イッタイドノヨウナ魔法ナノダ?」
「かけられた者の魔力を暴走させ自爆させる、外道が使う魔法だ」
「アリエヌ。ロゼディクスメ、悪魔ニ心ヲ売ッタカ」
「悪魔が相手ならまだよかったのだがな。しかし私はそれを無力化できる魔法を使えるが、戦場の中で『ソウルバーストボム』をかけられた個体を探すのは不可能に近いだろう。極めて厄介な状況だ」
「カオスデーモンナラ空ヲ飛ブハズ。空カラナラ容易ニ発見デキヨウ」
「なるほど、そうかもしれぬ。だが残念ながら私でも空は飛べぬのだ」
「ナラバ我ガソナタヲ背ニ乗セテ戦場ノ上ヲ飛ボウ」
その言葉を聞いて、俺はついエルゴジーラを見上げてしまった。
こちらに向けられた青い目には、ゲームでは見られなかった穏やかな光がある。
なるほど、ゲームでは存在しえなかった恩返しイベントか。リアルをイベント扱いはちょっと問題あるかもしれないが、俺にとっては渡りに船の申し出だ。
「頼めるか?」
「ソナタニハ我ガ命ト矜持トヲ救ワレタ。ソレクライハサセテモラオウ。タダ偽リトハイエドブルザラクハ一時デモ仲間デハアッタ。ユエニ彼奴トソノ軍ニ、我ガブレスハ浴ビセラレヌ。ソレハ理解シテモライタイ」
「うむ、その気持ちは理解できる。私もそこまでは望まぬ」
「済マヌナ」
「気にするな。背に乗せてもらえるだけでこちらは大いに助かる。では近くまでは『転移魔法』で移動をしよう」
「『転移魔法』……失ワレタ業デハナイカ。ナルホド、我ガブレスヲ躱シタノハソレカ」
「では移動をするぞ」
『転移魔法』を発動し、俺とエルゴジーラの巨体を戦場の近くまで転移させる。
すでにインテクルース軍本隊とドブルザラク軍の戦闘は始まっており、双方の前衛の距離は200メートルを切っていた。
ドブルザラク軍は、ゴブリン、オーク、オーガの混成兵である。少し後ろに数百体のトロールが巨体を並べている。地上兵力としては魔族軍の基本的編成であるが、その総数10万以上となると悪夢としか言いようがない。
一方インテクルース軍の前面に並ぶのは50体のゴーレム、そして弓箭隊や魔導師兵だ。もちろん弓箭隊と魔導師兵は射撃が終われば、すぐに部隊の中心である重装歩兵隊の後ろに下がる予定である。
まずは遠距離攻撃であるが、ドブルザラク軍は飛び道具を持たないため完全にこちらのターンとなる。
すでにゴーレムは数回の投射を行っているが、今回投げているのは石ではなく、火炎樽とでもいうべき兵器であった。要するに火炎瓶の大型版で、地面に着弾すると樽の中の油が飛び散り周囲一面が火の海になる。かなり強力、かつエグい攻撃だ。
弓箭隊から放たれた矢は放物線を描いて、ゴブリンやオーク、オーガの頭上に豪雨のごとく降り注いでいる。モンスターは盾を持つものが少ないため、こちらも多大な戦果を挙げているようだ。
魔導師兵による魔法射撃は『ファイアアロー』や『アイスジャベリン』などの投射系がほとんどで、中位の範囲魔法『フレイムサークル』や『アイスサークル』を使っているのはラエルザが連れてきたサキュバスが化けている魔導師兵だろう。サキュバスはゲームでは魅了魔法を主に使ってくる魔族だが、魔力が高く通常魔法も人族より強力なものを扱える。おかげで大量のゴブリンやオークが次々と黒い霧となって消えていく。
その中で時折螺旋をまとった矢が水平に飛んでいって複数のモンスターを貫いているが、こちらはもちろんエルフ族による射撃である。ワイバーンを貫く矢は対地攻撃でも恐ろしく強力だ。もともと地上戦は依頼していなかったので、ゼファラたちには後で礼をしておこう。
『デハ背ニ乗レ』
「頼む」
飛び上がって背に乗ると、エルゴジーラは大きくひと羽ばたきして空へと舞いあがった。
ドラゴンの背に乗って空を飛ぶのはファンタジー世界では憧れのシチュエーションの一つだろうか。
俺自身も、そして俺の中のマークスチュアート面も心が昂ぶるのを抑えきれない。