軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

05 厄ネタ回避完了

「このような深慮遠謀があったとは知らず、お父様を疑ってしまったことをお詫び申し上げます」

執務室に戻ると、フォルシーナは深く頭を下げた。

とりあえずあの場はそこまでとし、ミルダートとドルトンは各自の仕事場に戻した。獣人たちはアラムンドに言って使用人のところに連れていかせた。

今執務室にいるのは2人だけである。

「うむ、誤解が解けたのであればそれで良い。お前に黙っていたのも良くなかったのかもしれん」

俺がそう言うと、フォルシーナは恐る恐るといった感じで頭を上げた。また 父(オレ) に冷たくされるとか、そんなことを恐れているのだろうか。

「私もお父様の許可を取らず、勝手に錬金術棟に入ってしまいました。重ねてお詫び申し上げます」

「そうだな、あの部屋には危険なものもある。今後は許可なく入ることはならん」

「はい、肝に銘じます」

そう言った時のフォルシーナには『氷の令嬢』感がなくなっていたので、そっちの方は大丈夫そうだ。

「ふ、しかしフォルシーナがあれほど強く憤るとは思っていなかったな。普段物静かであるが、心のほうはよく動くと見える」

「は、はい。申し訳ありません、お父様の娘として恥ずかしく思います」

「いや、悪いと言っているのではない。むしろその方が好ましい。言いたいことがあるなら私には遠慮なく伝えるがいい。娘の気持ちを聞くのも父の喜びであるからな」

「ふぁ……!? い、いえ、ありがとうございます」

両手で顔を覆うフォルシーナ。好感度アップ(大)か。災い転じて福というやつだな。

「と、ところでお父様、彼女たちを回復させるために連れて来たというのはわかりますが、今後どうされるおつもりですか?」

「うむ、それなのだがな……」

そこで執務室の扉がノックされ、アラムンドと8人の獣人娘たちが入ってきた。

使用人たちの手によって全員が身体を洗われ、綺麗な服に着替えさせられたようだ。ただなぜメイド服なのかは不明だが。

狐獣人娘を始め、全員が表情を硬くしている。回復させられたのはいいが、その後どういう扱いを受けるのかはまだ言っていないから不安なのだろう。

「お館さま、連れてまいりました」

「ご苦労。アラムンドは下がってよい。しばらくしたら呼ぶのでそれまでは休んでおけ」

「はっ、失礼いたします」

アラムンドがシュッと消えると俺以外の全員が驚いた顔をする。

「さて諸君、改めて伝えるが、私は王国公爵のマークスチュアート・ブラウモントだ。先も言ったように、私は諸君らを薬の実験のために購入した。そして無事諸君らは身体が回復したわけだが、残念ながらこのまま諸君を解放することはできない」

何人かの少女が唾を飲む。ただ狐獣人娘だけは小さくうなずいたように見えた。

「理由はいくつかあるが、まず君たちは奴隷として買われたということがある。こちらも金銭を払っている以上、その分だけの働きはしてもらわなければならん。それから先の薬について、しばらく 秘匿(ひとく) しておきたいという理由もある。ゆえに1年ほどは諸君らをこの館から出すことはできぬ。そして最後だが、今の諸君らには帰るところはない。辛い話をするようだが、諸君らの里はもう存在しないのだ」

最後の言葉で狐獣人娘以外は全員泣きそうになる。

「なので諸君らには、今後館の中で使用人として働いてもらう。また公爵家の使用人となる以上、それなりの教養も身につけてもらうことになる。非常に忙しい身となるが、衣食住、そして多少の給金は与える。もし早くに解放されたくばその給金を貯めて自らを買い戻せ。以上だがなにか質問はあるか?」

獣人娘たちは互いに目配せなどしているが、特に質問をする者はいない。

それを見て、狐獣人娘が手を挙げた。

「オレは剣に自信があるんだ。できれば使用人じゃなくて、兵士とかそっちで使ってもらいてぇ。もしくはその、公爵様の護衛とかでもいいぜ」

「ふむ、私の護衛としてもいいが、モンスターの狩りにもよく行くことになるぞ?」

「むしろ望むところだ。公爵様は強いんだろ。オレも強くなりてぇんだ」

「ふ、いいだろう。強さを求める者は歓迎しよう。ただその言葉遣いでは側には置けぬ。他のものと共に勉強をせよ。よし、では話は以上だ」

俺は魔道具で使用人を呼びだし、獣人娘たちを連れていかせた。

2人きりに戻ると、フォルシーナは尊敬のまなざしみたいな目を俺に向けてきた。

「彼女たちは里を失っていたのですね。それを助けるために実験と称して回復させ、さらに職を与えて自立の機会までお与えになる。お父様のなさりようは素晴らしいと思います」

「偶然の成り行きではあるがな。結果的に彼女らが救われるならそれもよかろう」

「はいお父様。ただあの態度の良くない娘を護衛とするのはいかがかと思います。そもそもお父様に護衛が必要とも思えません」

「フォルシーナ、先の王城での襲撃でもわかったと思うが、これから恐らく魔族の攻撃が増えるだろう。であれば一人でも強い者が必要となる」

「彼女は強くなると?」

「うむ。里を守るために戦った剣士なのだそうだ。それに率先して毒見をする心意気もよい。あのような人材はそうは得られまい」

「あくまでも剣士として、戦力として手元に置くということですか? 言葉遣いはともかく、 見目(みめ) は悪くない娘に見えましたが」

「無論だ。それに見目で言えばお前に敵う者はない。安心せよ」

「あぅ……お父様、それは卑怯です……」

はい好感度アップ(大)。

どうやらフォルシーナは彼女をよからぬ理由で側に置くのではないかと疑っていたようだ。

しかしどこからでも好感度アップにつなげるテクを覚えた俺に隙はない。

さて、後はアラムンドさえ言いくるめれば、今回のミッションは完了だな。狐獣人娘も使える人材になりそうだし、逆にラッキーなイベントになるかもしれない。

フォルシーナが自室に戻ったので、俺はアラムンドを呼び出した。

いつもの通り忍者のように現れたアラムンドだが、その表情はいつもと違い、少し焦っているように見える。

「さてアラムンドよ。フォルシーナについてはこれで問題はなさそうだが、あの娘たちはもう実験には使えぬな」

「は。しかし必要があれば再び別の者を連れて参ります」

「いや、すでにあの部屋の存在も知られてしまった以上同じことはできぬ。それにお前が手に入れた人体改造の技術だが、もう必要もないのでな。あの研究は行わぬ」

「それは……なぜ必要がないのでしょうか?」

「今回の『エクストラポーション』の成功によって、錬金術で人体強化薬が作れる目途が立ったのでな。面倒な研究など必要なくなった」

「……なるほど。しかし奥様のことはよろしいのですか?」

「うむ。今回の娘の姿を見ていて、私も過去に 囚(とら) われているべきではないと思うようになった。お前が私のためにあのような情報を集めてくれたのは嬉しく思う。 無下(むげ) にすることを許せ」

「いえ、お館様のお考えであれば私から申し上げることはございません」

と言いつつもなにか言いたそうなアラムンド。まあ、あの研究をやめられたら彼女の後ろにいる雇い主が困るからな。もちろん俺の知ったことではないが。

「部屋の手配などお前にはいろいろ手を尽くしてもらったが、あの件はもう進めぬことにする。それよりも今は王都の様子が気になる。例の大森林開拓は王太子のほかに誰が行くのか、そして随行としてどれだけの戦力を出すのか、そしてその期間はいかほどなのか、その詳細が知りたい。できれば今回の計画を誰が持ち込んだかもだ」

「なぜお気になさるのでしょうか?」

「先日のカオスデーモンの襲撃、あれを私は重く見ている。恐らくは威力偵察の類であろうが、となれば魔族が王都を襲う可能性は十分に考えられる。もしそうなら、大森林開拓で戦力が減っている時は絶好の機会となろう」

「しかし魔族の軍は動いてはおりませんが……」

「お前の情報収集能力を疑うわけではないが、魔族が我らの知らない魔法技術を持っている可能性もある。例えば瞬時に大部隊を遠方に移動させる技術などだ」

俺がそう言うと、アラムンドは微かにビクッとした。ポーカーフェイスキャラなはずなんだが、意外にわかり易くて面白いな。

「よって明日より2週間、王都に行ってそれらを調べてくるようにせよ」

「かしこまりました」

「うむ。では行くがよい」

女ダークエルフが目の前からシュッと消え、俺は小さくガッツポーズを取った。

これでマークスチュアート最大の厄ネタである『人体実験』の芽は摘み取った。

ここまで上手くいくとは思わなかったが、フォルシーナが予想通りの動きをしてくれて助かった。

しかしアラムンドは最後まで口にしなかったが、なぜあの部屋の存在がバレたのかは疑問に思っているだろう。

もっとも、まさか当事者である俺がこっそりとフォルシーナの耳に入るように画策したなどとは、いくら手練れのスパイでも考えもつかないだろうが。