軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

06 狐獣人娘と戦力増強

「クソォ……公爵様強すぎだぜ……いえ、強すぎです」

練兵場の一角で、俺は狐獣人娘と軽く剣の手合わせをしていた。

狐獣人娘――クーラリアは、どこから持ってきたのか、巫女服に見える服を着ている。ただしなぜか胸元の露出が大きい上に、袴、というよりスカートが異様に短く、目のやり場に困る格好だ。さすがに直させようとしたのだが、獣人はこの方が動きやすいんだと言われて認めざるを得なかった。なんとなく 創造神(クリエイター) の強制力を感じさせる話である。

それはともかく、彼女は長剣を扱う剣士であり、手合わせをした限り公爵領の騎士を超えるレベルと腕前の持ち主であった。十代で、しかも独学でこれなのだから、彼女は天才に近いのかもしれない。さすが元は名もなき中ボスキャラである。

とはいえネームド中ボス+ 神速(チート) の俺に敵うはずもなく、何度も打ちのめされて、今四つん這いになってガックリ来ているところであった。

「筋は悪くない。このまま修練を積み、モンスターを多数討伐すれば、私の護衛として立派に務められるようになろう」

「護衛対象より弱いんじゃ話にならねえ……いや、話にならないですからね」

「そうだな。さあどうした、それで終わりか?」

「クッ、まだまだァッ!」

何度か打ち合い、また俺が一本を取る。脇腹をバシッと木剣で叩くわけだが、「ぐえっ!」とか声が漏れているのでかなり痛そうだ。ポーション常備の公爵家だからこそできるトレーニングだな。

「ぐぅっ、イテぇ……。参った、全くかなわねえ……かないません」

「まだ私とやるには早いようだな。ドルトンに言っておくから騎士の鍛錬に交じるがいい。それとお前の剣技は少し独特だな。もしや反りのある剣を使っていたか?」

「あ、ああ、そうだぜ……そうです。こう、反りがあって片刃で、これくらいの長さの……」

「ふむ、刀か。よし、鍛冶場に行く。お前の剣を用意してやろう」

「うぇ!? 本当か!? 嬉しいぜ……嬉しいです公爵様」

クーラリアは瞬時に立ち上がり、ニコッと笑った。

言葉遣いに反して、ちょっと強気な金髪美少女といった顔立ちなので、それだけで結構な破壊力がある。離れたところで訓練をしている男の兵士たちがチラチラと見るのもうなずけるというものだ。

俺はクーラリアを連れて、練兵場の外にある鍛冶場に向かった。

領軍を有する公爵家では専属で鍛冶師を複数雇っている。なにしろ兵士たちは毎日のように武具を壊すし、それから新しい武具も常に必要になるからだ。

石造りの鍛冶場では5人の鍛冶師が仕事をしていた。全員がファンタジーで有名なドワーフ族で、男3人女2人である。当然ながら彼らは住み込みで働いている。

「ボアル親方、少しいいか?」

「おう公爵様か。新しい注文かい」

やって来たのは一番体格のいい男だ。黒い髪に黒い髭、背は低いがその身体はずんぐりとしていて筋肉の塊である。太い眉の奥には気難しそうな職人気質の目が隠れているが、彼は俺の剣の腕に一目置いてくれているため、多少の無理は聞いてくれる。

「こちらの剣士の剣を頼みたい。刀、というのは知っているか?」

「西方の剣か。扱ったことはある」

「なら話は早い。それを作ってやってくれ。最優先だ」

「公爵様がそう言うのは珍しいな。このお嬢ちゃんはいい腕なのか?」

「今も十分強いが、この先の伸びしろが大きい。ドルトンと並んでこの領の主力になりうる人材だ」

「べた褒めじゃねえか。わかった、すぐに作ってやる。お嬢ちゃん、どれっくらいのものがいいか聞かせてくんな」

「わ、分かった。ええと、長さはこれくらい――」

クーラリアが説明を一通り終えると、ボアル親方は「いいだろう、任せな」と胸を叩いた。

「ところで親方、そろそろ大きな戦があるかもしれん。できれば街の鍛冶場をいくつか領軍で確保しておきたい。ギルドとの橋渡しを頼めるか?」

「それはもちろん構わねえが……なにが始まるんでぇ?」

「先日王都にカオスデーモンが出た。近い内に魔族の襲撃があるかもしれん」

「ああ、噂は聞いたがそれっくらいの大きな話だったんか。わかった、ミルダートの旦那と詰めておく」

「ミルダートにはすでに伝えてある。よろしく頼む」

鍛冶場を出ると、なぜかクーラリアが俺のほうをじっと見ているのに気づいた。

「どうした?」

「あ、いや、公爵様はどうしてオレ……アタシにそんなよくしてくれるのかって思って……」

「それはお前の剣の腕を買っているからだ。それに雇った以上、部下が最大の力を発揮できるようにするのは上の者の務めだ。別にお前だけというわけではない」

「そ、そうなのか? でも刀ってすごい高いだろ……?」

「そのようなことを気にするなら、せいぜい鍛錬に手を抜かぬようにせよ。それがお前にできることだ」

「うへ……。そうだな、そうする。公爵様にはすげえ恩があるからな。それはキチっと返すようにするぜ……します」

「まずはその言葉遣いからだな。今の状態では人前に出せん」

「頑張る……ます」

そう言ってシュンとなるクーラリア。

金の体毛が生える耳と金髪とがあいまって、黙っているとメインヒロイン並の美少女ではある。

これで口調が変わったら、もしかしたら相当にモテるようになるかもしれないな。

などと思いながらふと視線を移すと、建物の影からこちらをうかがうフォルシーナが目に入った。

しかもなぜか『氷の令嬢』モードに入っていたように見えたが……。よくわからないが、また好感度アップをしておかないといけないようだ。

執務室に戻った俺は、書類を片付けると、使用人に茶を持ってくるように頼んだ。

茶を持ってきたのは昨日使用人になったばかりの獣人族の少女の一人だった。見た感じ猫獣人だろうか。茶の髪をツインテールにした、可愛らしい女の子である。

もちろん来たのは彼女一人ではなく、ベテランの使用人も付き添っている。

「早速仕事をしているのは好ましいな」

声をかけると、その少女はビクンとしたあと、ペコリとお辞儀をした。

「あ、ありがとうざいましゅお館様。それと、私たちを助けてくれて……くださってありがとうございます」

噛んでる上にたどたどしい敬語が微笑ましい。彼女たちを雇うのに余計な金がかかるのはミルダートに睨まれたが、こういう姿を見るとそれも忘れられるというものだ。

「お前達を助けたのは偶然に過ぎぬが、恩を感じるなら仕事と勉強に励みなさい」

「は、はい。お館様のお役に立てるようにがんばりましゅ」

2人を下がらせ、俺はこの先についての考えをめぐらせ始める。

とりあえず、『人体改造ネタ』が解消されたこともあって、俺の中ボスルートはかなり遠のいたように思う。

そうなると次に考えなくてはならないのが、今後確実に起こるであろう魔族の襲撃だ。

ちなみに、魔族というのはここインテクルース王国の北、山脈を挟んで反対側に広がる土地に住む、人間とは違う種族のことである。

先に現れたカオスデーモンのように基本的に人に近いが人とは明確に異なる姿形をしており、知能は高く、人間と同じような文化文明をもち、強大な国を築いている。

彼らは非常に好戦的で、歴史上何度も人間の国を攻撃しては、大きな被害を与えている、そんな人間の敵とも言える存在である。

もちろんその 長(おさ) は魔王と呼ばれ、ゲーム的にもベタベタな大ボスという扱いなのは言うまでもない。もっともゲーム通りなら、魔王に関しては微妙な部分もあるのだが……。

ともかくゲームシナリオ的にも今後しばらくメインの敵となるのはその魔族であり、例のカオスデーモン襲撃の一件が魔族侵攻の前触れだろうというのは、 家(か) 宰(さい) ミルダートや将軍ドルトンたちとも見解を共有しているところである。

もちろん領主としては、その対策をすることが最優先の課題となるわけだが、それについてはミルダートとドルトンとともに、すでにある程度方策は進めている。というか、俺が今まで進めてきた王都攻略の準備をそのまま転用すればいいだけだ。

「お館様はこれを見越して準備をされていたのですな。自らの不明を恥じるばかりです」

「公爵様はすげえ人だと思っていたが、まさか未来まで見えるとはなぁ」

などと2人に言われたが、これに関しては完全にただの偶然、というか悪事を誤魔化しているだけなので良心が激しく刺激される。

と、それはともかく、次に重要なのは、やはり強力な個人の登用になる。

この世界はゲームが元になっているので、俺のような高レベルの戦士は普通に何百何千というモンスターを駆逐することができる。逆に言うと敵に高レベルな者がいた場合、兵士が何人いようが簡単に全滅させられることもあるということだ。なので高レベルな者を召し抱えるのこともまた魔族対策として必須となるわけだが、これはそう簡単な話ではない。

「フォルシーナとクーラリアは急ぎ育成するとして、アラムンドも一応途中までは戦力としてカウントできる。ドルトンは強いが将軍だから俺が自由に動かすわけにもいかない。しかしあと数名は欲しいな」

育成もいいが、やはりそれなりに強い者をスカウトするのがいいだろう。本当ならゲームのメインキャラクターと知り合えるといいんだが、なにしろ今はまだチュートリアルとゲーム開始のはざまの期間であり、彼らがどこにいるのかはゲーム知識があってもわからない。

となると、まず向かうべきは……

「ダンジョンに行くか。フォルシーナたちの育成もあるし、強い冒険者がいたらスカウトもできるしな。記憶が戻ったんだから行ってみたいよな、普通に」

というわけで、俺はフォルシーナとクーラリアの2人に明日ダンジョンに行く旨を伝えた。